列車で巡れる「おんせん県」大分ご当地鉄道事情 別府・由布院抱える沿線は観光列車のメッカ

3/27 4:32 配信

東洋経済オンライン

 大分は、「おんせん県」などと言われる。別府温泉に由布院温泉と、全国的に名高い名湯があるのだから、「おんせん県」と胸を張られて文句を言える人もいまい。それに実際、源泉の数も湧出量も日本一だというから、まさにケチのつけようのない「おんせん県」なのだ。

 そんなおんせん県には、どうやって行くのが便利だろうか。東京からならば、まあだいたいの人が飛行機を使うことになりそうだ。

■福岡から大分へのルート

 大分県の空の玄関口は、もちろん大分空港である。大分空港があるのは国東半島南東部。別府ならばまだそれなりに近いが、県都の大分市内までは約1時間かかる。

 内陸部の由布院温泉となると、もちろんもっと遠くなる。大分県西部、福岡県との県境に近い“天領の町”日田ともなると、もはや大分空港よりも福岡空港のほうが近いくらいだ。

 と、そんなわけで、さすがに東京からとなれば飛行機利用が現実的だが、その後の2次交通を考えれば、やっぱり鉄道を使うのがいちばんということになる。

 大分県は、九州北東部の県。すぐ北には福岡県が広がる。だから、鉄道で大分県に入ろうとすると、福岡県は避けて通れない。なので、ここでは福岡県から大分県にどのように向かうか、という目線から大分の鉄道事情をひもといてみたい。

 福岡から大分へのルートにはいくつかあるが、もっともシンプルなのは特急「ソニック」だろう。九州最大のターミナル・博多駅を発して小倉駅でスイッチバック、鹿児島本線から日豊本線へと移る。豊前海沿いを走って吉富―中津間で大分県へ。もうすぐお別れの一万円札、福澤諭吉の故郷でもある中津は県の玄関口だ。

 その後、日豊本線をゆく「ソニック」は宇佐神宮で知られる宇佐市などを経て国東半島の付け根を横断。別府を経て県都のターミナル、大分駅へと向かう。博多―大分間、約2時間の旅である。

■日豊本線は大分を縦断

 なお、「ソニック」の旅はほとんどが大分駅で終わるが、日豊本線はまだまだ続く。大分駅で特急「にちりん」に乗り継いで、臼杵や津久見、佐伯を経て宗太郎峠で県境を越えて宮崎へ。1日にたった1往復の特急「にちりんシーガイア」は、大分県内を走破して博多―宮崎空港間を結ぶ、国内在来線最長距離の昼行特急列車である。

 いずれにしても、海沿いを走って県内を横断する日豊本線は、まさしく大分の鉄道の核を成しているといっていい。日豊本線以外には、大分県には2つの非電化路線しか走っていない。

 1つは、久大本線だ。久大本線も、福岡県と大分県を連絡する役割を果たしている。

 久留米―大分間を結ぶ久大本線の沿線には日田や豊後森の機関車庫がいまも残る玖珠などの町がある。そしてなにより由布院温泉だ。博多―由布院・別府間を走る特急「ゆふいんの森」は、国鉄からJR九州に移ってまもない1989年にデビューした観光列車のパイオニアである。

 ディーゼル特急という事情もあって、博多―由布院間はざっと2時間20分。博多―大分間は3時間で電車特急「ソニック」よりも1時間余計にかかる計算だ。なのに、これがまたデビューから30年以上たってもなかなかの人気ぶり。由布院温泉の圧倒的な存在感と、気軽に乗れる観光列車という位置づけが、息の長い人気につながっているのだろうか。

 なお、2024年4月からはここにもう1つ。「かんぱち・いちろく」という観光列車が加わるという。「ななつ星 in 九州」や「或る列車」も乗り入れる久大本線は、もはや観光列車のメッカになっている。由布院や別府、つまりは温泉の力、あなどるべからず、である。

 由布院を抱える久大本線に対して、県南部の山間部、竹田や豊後大野などを通っているのが豊肥本線である。

 こちらは路線名の通り、熊本と大分を結ぶのがその役割。ハイライトは阿蘇の外輪山を巡る区間だが、全線で約150kmのうちおおよそ半分は大分県内を走っている。

 久大本線の「ゆふいんの森」と同じように、こちらにも観光列車が走っている。その名も「あそぼーい!」。ルーツは1988年に登場した「あそBOY」にあり、九州新幹線全線開業にあわせて2011年に再デビューした。

 当初の運行区間は熊本県内だけだったが、熊本地震によって豊肥本線の一部が運休中に大分県に乗り入れ、全線復旧後のいまも大分・別府駅まで走っている。

 このほか、かつては肥薩線にも乗り入れていた「九州横断特急」も熊本―大分・別府間で走る。熊本と大分は、文字通り九州を横断して3時間ちょっとだ。

■大分の“鉄道”は3路線

 と、ここまで見てきた日豊本線・久大本線・豊肥本線の3路線。これが、大分県の鉄道のすべてだ。2023年夏までは(長期運休中ではあったが)日田彦山線というローカル線が日田駅付近でほんの少しだけ大分県内に乗り入れていた。けれど、これも2023年夏にBRTに転換されてしまい、純粋な意味での鉄道としては3路線だけだ。

 別府ではロープウェーとケーブルカーが営業しているが、純粋な鉄道かといわれるとちょっと違う。鉄道が3路線以下の都道府県は、大分県を除くと実はモノレール一本やりの沖縄県だけだ。

 ただ、少し歴史をさかのぼると、かつては県内各地を大分交通という私鉄のローカル線が走っていた。たとえば、大分市内と別府市内を結んでいた軌道線の別大線。1900年に開業した、大分における鉄道の祖のような路線だ。

 別大線は開業時は豊州電気鉄道、その後いくつかの変遷を経て、1945年に他の県内事業者と統合して大分交通となっている。このとき統合した路線の中には、国東半島の海沿いを走る国東鉄道(国東線)、中津と耶馬渓を結ぶ耶馬渓鉄道(耶馬渓線)などがあった。結局、いずれも戦後ほどなくして廃止が進み、1975年の耶馬渓線廃止をもって大分交通の鉄軌道は姿を消している。

 こうして、いまの大分県内には3路線が残るだけになった。地方の町は例に漏れずにクルマ社会で鉄道への依存度が低い。それに肝心要の福岡・博多までは「ソニック」が1時間に2本走っている。だから、それほど不便に感じることもないのかもしれない。

■在来線特急が大活躍

 それでも在来線特急王国たる九州のこと。日豊本線には「ソニック」「にちりん」「にちりんシーガイア」、久大本線には「ゆふいんの森」に加えて「ゆふ」が走り、豊肥本線にも「あそぼーい!」「九州横断特急」と、多種多様な列車が走っている。だから、3路線だけといってもなんとなく寂しさは感じない。

 大分の乗り物といえば、大分空港と大分市内を結んでいたホーバークラフトがあった。高速バスとの競争に敗れて2009年に廃止されていたが、それがなんと2024年のうちには復活するらしい。

 となれば、飛行機に乗って大分空港に降り立ち、ホーバークラフトで大分市内へ。そこからいくつもの列車を楽しんで、ついでに温泉にもつかれば……。なかなか魅力的な旅になりそうである。

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最終更新:3/28(木) 16:56

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