モリゾウが理事長に就任というサプライズの真意とは? スーパー耐久が「新体制」に移行するワケ

5/4 8:21 配信

東洋経済オンライン

 日本の自動車産業界が、大きな転換期にあることを示す“サプライズ”があった。2024年4月20日、スポーツランドSUGO(宮城県柴田郡村田町菅生)でのことだ。

 同日に開催された、「ENEOS スーパー耐久シリーズ2024 Empowered by BRIDGESTON 第1戦 SUGOスーパー耐久4時間レース」の予選後、主催者であるスーパー耐久機構(STO)が会見を開いたのだ。

 内容は、この6月から同レースシリーズの事業を、新たに設立する一般社団法人スーパー耐久未来機構(STMO)へと継承するというもの。“サプライズ”は、その理事長に「モリゾウ」が就くことだ。

 モリゾウが、豊田章男トヨタ自動車会長のモータースポーツシーンでのニックネームであることは、よく知られている。そのモリゾウが、レースを主催する団体のトップに立つのである。

 ちなみに新法人には、ENEOS、ブリヂストン、三井住友海上火災保険、東京海上日動火災保険、小倉クラッチ、SUBARU、マツダ、トヨタ自動車、デンソー、アイシン、それに豊田章男氏、阿部修平氏、桑山晴美氏、加藤俊行氏の個人4名が拠出するという。

■スーパー耐久とはどんなレースか? 

 スーパー耐久(通称:S耐)は、バブル崩壊直後の1990年代に始まった量産車ベースで行う耐久レースの年間シリーズだ。

 30年以上の歴史の中では、何度もレース規定の改定が行われているが、「参加者型レース」という基本方針は貫いてきている。

 マシンは市販車をベースとするもので、ドライバーはアマチュアから現役のプロレーサー、さらには往年のレジェンドレーサーまでさまざま。まさに“参加者が主役”の耐久レースなのだ。

 そんなスーパー耐久に大きな変化が生まれたのが、2021年シリーズに新設されたST-Qクラスである。マシンの排気量や駆動方式によりさまざまなクラスが設けられている中で、自動車メーカーや自動車部品メーカーが、次世代車の研究開発を目的として参戦するクラスだ。

 現在、ST-Qクラスにはトヨタ、スバル、マツダ、ホンダ、日産が参戦しており、各社がガソリンの代替に成りうる合成燃料(カーボンニュートラル燃料)を導入しているほか、トヨタが水素燃料車、マツダが廃食油由来の軽油代替燃料(リニューアブルディーゼル)を使用する専用マシンを走らせている。

 こうしたST-Qクラスのマシンは、エンジン出力が量産モデルの延長上にあるため、たとえプロドライバーが操ったとしても、国際規格「FIA-GT3」に相当するST-Xクラスなどに比べて、直線スピードやコーナーリングスピードが劣る。

 そのため、全クラスが並ぶ決勝グリッドは、上位をプライベーターチーム(個人、ショップ、自動車ディーラーなどによるチーム)が独占。ST-Qクラスのマシンは、自動車メーカー直結のいわゆるワークスチームであっても、中盤から後半の位置につく。

 決勝グリッドでは、それらST-Qマシンの応援に自動車メーカーの社長や役員が訪れたり、モリゾウがドライバーを務めるマシンの周りは報道陣や自動車業界関係者の多くが集まる光景が珍しくない。

■「大変革期の見える化」の一方で

 筆者はST-Qクラス新設後の2021年シーズン以降、スーパー耐久を定常的に現地取材するようになったが、こうした決勝グリッドの“後方に注目が集まる”という、一般的なモータースポーツの観点では奇妙な光景に、100年に1度といわれる自動車産業大変革期の“見える化”を感じてきた。

 一方、自動車メーカー各社が「共挑(きょうちょう)」をうたい参戦するST-Qクラスが4シーズン目を迎える今年、企業としてより明確なKPI(キー・パフォーマンス・インデックス)を示すべきではないか、という印象を持っていた。

 ST-Qクラス参戦での技術成果を、いつどのような形で量産化するのか。モータースポーツを通じたブランド戦略の実効性を、どう評価するのか。

 そして、素材から廃棄までのLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)の観点から、モータースポーツの存在意義をどう捉えるのか……など、課題は少なくない。

 スーパー耐久機構としても、ST-Qクラスに参戦するメーカーやチーム関係者とコミュニケーションを取る中で、スーパー耐久の未来について自問自答し、「何らかの指針」を示すべきだと考えていたのだろう。それが今回の“サプライズ”として形になったのだ。

 これまで自ら参戦してきたモリゾウが、スーパー耐久主催者の思いを“私事”として捉え、新たな事業体系への転換を協議する。

 では、新たに発足するスーパー耐久未来機構は、次世代のスーパー耐久をどう考えているのか。今回の会見で明らかになったのは以下の通りだ。

 基本になるのは、これまでどおり「レース好き・クルマ好きが集まるスーパー耐久の魅力を大切に守り、発展させること」。そのうえで、さらに3つの柱を明確に立てた。

(1)カーボンニュートラルに資する活動として、新エネルギー車の走行やカーボンニュートラル出張授業などの社会貢献活動を行う
(2)草の根モータースポーツの楽しさを普及すべく、アジアなど新しい地域へ取り組みを拡張する
 
(3)人材育成や地方創生に資する活動として、子どもたちにクルマやモビリティの魅力を伝達する

 以上によって、「明るく楽しい未来のモビリティ社会づくりに貢献する」とした。

■気になるメーカー、特にトヨタの影響力

 今回、自動車メーカーなど大手企業がスーパー耐久未来機構に拠出したことで「メーカー主導型のレースになるのか」という見方をされることがある。

 また、トヨタとの関係が深い企業が名を連ねていることから、「トヨタの影響力が高まるのではないか」と見る向きも、当然あるだろう。

 だが、あくまでもスーパー耐久は「参加者が主役」であり、参加者と主催者が未来に向けて「ともに考える場」であることに変わりはないことを、スーパー耐久未来機構は強調している。

 ただし、「参加者型」といっても、一般ドライバーが気軽に参加できるレースではない。全国転戦にともなうチーム体制の構築にはそれ相応のコストがかかり、またドライバーの技量もここ数年で一気に上がった印象があるからだ。

 6月から正式に新組織体制となる、スーパー耐久。次戦となる第2戦・富士SUPER TEC 24時間レース(5月24~26日)では、スーパー耐久の次世代化に向けた新たな情報発信があるかもしれない。

 モリゾウを理事長とし、“3つの柱”を明確にしたことにより、スーパー耐久が日本の自動車産業の未来に大きな影響を及ぼす可能性が、さらに高まった。これからも定点観測して、その変化をお伝えしていきたい。

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:5/4(土) 8:21

東洋経済オンライン

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング