東大さえも「踏み台」中国勢が日本の受験に参戦する“真の狙い”とは?

4/19 11:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 日本の受験戦争に、中国勢が続々と参戦している。日本の受験はヌルくておトク? 東大さえも「踏み台」に過ぎない? 衝撃の実態を、中学受験専門塾スタジオキャンパス代表の矢野耕平氏がリポートする。

 〈前後編の後編です。前編は…「日本はヌルい」「課金は青天井」中国系家庭が中学受験に参戦!御三家を目指す理由とは?〉

● 「東大で学ぶこと」は目的じゃない?

 日本のトップ大学といえば、言うまでもなく東京大学である。ところが、東大に通う中国系の学生のなかには、ろくに授業に出席しない者もいると聞く。それでいて、試験の成績は優秀。彼ら彼女たちの目的は「東大で学ぶこと」ではなく、「東大に在籍すること」だというから驚きだ。一体どういうことなのか?

 千葉県習志野市で中国や東南アジアからの留学生を対象にした大学・大学院受験専門塾「INECO Seminar」(イネコセミナー)の経営者で、中国出身の高天舒氏とベトナム出身のカオ・ティ・テゥイ・ガ氏に取材したところ、理由の一端が見えてきた。

 高氏が語る。

 「中国人がまず気にするのはQS世界大学ランキング(※)なのですが、正直なところ日本の大学は全体的に順位が低いです。トップが東京大学の29位で、100位以内にランクインしたのは国立の4大学だけ。MARCH(明治大学・青山学院大学・立教大学・中央大学・法政大学)にいたってはトップ1000にも食い込めていません」

 「このため、中国人は欧米の一流大学に目を向ける人が多いのです。日本の大学の教育環境は国公立私立問わず充実していると感じているので残念です」

 (※英国の大学評価機関クアクアレリ・シモンズが毎年発表しているランキング)

● 東大はハーバードへの「迂回ルート」

 連載の前編に登場した中国出身の女性もこう語る。

 「ハーバードをはじめとする欧米の一流大学に進学するには、中国から直接受験するよりも、あえて迂回して日本の大学から編入受験したほうがよっぽど入りやすいのです。中国のトップレベル大学から欧米の大学への編入競争は熾烈。それに比べれば、東大の方が競争相手のレベルは低いし、欧米の名門大学に合格しやすいのでしょう」

 東大でさえも「踏み台」にされる。この現状に衝撃を受ける読者も多いだろう。中国人の学歴観には2つの指標がある。1つ目が先述した「QS世界大学ランキング」。そしてもう1つが「学習歴」だ。

 イネコセミナーのカオ氏が解説する。

 「中国の人たちにとって学士(学部卒)はあまり意味がありません。学士より修士、修士より博士に進学することが大切なのです」

 中国で中学や高校の教員職に就きたいのであれば、学士では厳しいという。文系科目では最低でも「修士号」、理系科目なら「博士号」を獲得していることが求められるそうだ。日本人とは「学歴観」が大きく異なるのである。

● 日本の学部卒のスキルは高い

 わたしは中学受験塾を経営するかたわら、社会人大学院生として言語学を研究している。ゼミ生の大半は中国からの留学生たちだ。中国人留学生が日本の大学・大学院を選択する背景に「欧米への足掛かり」という以外の理由はあるのだろうか。

 高氏は次のように指摘する。

 「日本の大学はQSランキングではあまり評価されてはいませんが、中国の学部卒と日本の学部卒を比較すると、日本の大学で学んだ学生のほうが相応のスキルを身に付けるように感じています。伝統ある日本の大学の教育システムが成熟している表れでしょう」

 「こういう教育環境にひかれて、学生たちがやってくるのです。なかにはアニメなどの日本文化を通じて日本という国に愛着を抱く学生もいるでしょう。また、日本の大学のほうが中国や欧米と比べると修士号、博士号を得やすいという背景もあります」

 実際、高氏・カオ氏とも、日本の私立大学・大学院で学び、修士号を取得している。

 中国の「学歴観」の2つ目の指標として挙げた「学士<修士<博士」を叶えやすいのが日本ということだ。さらに、近年の円安で以前よりも安価で学べる国になったことで、日本への留学希望者が増えているのだろう。

● 中国勢の躍進が突きつけるもの

 前編では中学受験、後編では主に大学受験の世界における中国勢の躍進ぶりをリポートした。日本の受験生の手強いライバルとして、在日華僑の子どもたちの存在感が増してきている。

 14歳で中国から日本へ移住した先述の女性は、かつての日本は在日華僑の受け入れ体制があまり整っていなかったと述懐する。

 「わたしは1974年生まれで、中学校3年生のときに親の都合で日本に来て、都立高校に入学しました。国際化の叫ばれる時代でしたが、外国人を受け入れてくれる都立高校はまだ珍しかった。その高校に受かれなければ、中国に帰るつもりでした」

 その当時と比べると、中国にルーツを持つ多くの子どもたちが日本で学ぶ現状は隔世の感がある。

 「小皇帝」という言葉に象徴されるように、わが子のためなら教育費に糸目をつけない富裕層の保護者。日本トップの東大でさえ「踏み台」にする中国人学生たちのハングリーさ……。日本人の受験生たちは、彼らと伍して戦っていかなければならないのだ。

 一方で、中国系家庭のグローバルな視野での大学選びや、「学習歴」を重んじる姿勢には、学ぶべきところも多い。国際競争のなかで、日本の学校教育のあり方を再考し、メンテナンスすべき時代に突入したと言えるのかもしれない。

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最終更新:4/19(金) 11:02

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