「頑張って!」のつもりで「Fight!」と言うと、英語が苦手と即バレするワケ

5/8 13:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 映画「ボヘミアン・ラプソディ」に“Gotta give it a go.”というセリフが出てきます。どんな意味だかパッと分かりますか?今回お伝えしたいのは、“give”が分かると「英会話上手」になれるということ。さらに、オンライン英会話やChatGPTを使って英語を効率的に練習する方法もお伝えします。(大学受験専門塾「ワークショップ」英語科講師 土岐田健太)

● 「オンライン英会話を始める」の前にやるべきこととは?

 日頃、僕のところにはさまざまな背景を持つ社会人の方が相談に来ます。その時に多いのは「英語が話せるようになりたいから、オンライン英会話を始めようと思っている」というものです。運営しているサービスでは社内に海外在住の講師や指導力の高い英会話講師を集めたオンライン英会話(名称は英語スパーリング)があるので、会話のブラッシュアップの練習の場所は確立されています。

 しかし、僕がまず言うのは英文法の基本例文をマスターすることです。受講生には最初の段階で「英文法のインプット」や「基礎」がしっかりしているかをテストで確認しています。中高の文法が分かっていないのにアウトプットを中心にした会話に進んでも、ほぼ100%挫折するからです。そのくらい大学受験に出てくる英文法は実用的だということで、実際に社会人の方に指導している時も「文法をちゃんとやる人」はうまくいくし、「英会話で今さら文法なんて……」という人は、あまり伸びません。

 会話の勉強をするとなると、「アウトプットを重視したい」ということで、最初からオンライン英会話をする人も多いかと思います。しかし、実は、最初は「インプット」に力を入れる方が近道です。

● 映画「ボヘミアン・ラプソディ」の台詞を訳してみよう

 そんなとき、まず話せるようになりたいという社会人の方におススメなのが「基本動詞」の学習です。僕は普段、基本動詞のgiveからスタートして、身近なところから実例を見てもらっています。

 例えば、映画好きの人なら「イギリスのロックバンド、Queenの伝記的映画『ボヘミアン・ラプソディ』にgive it a goという台詞があるんです」と伝えます。どんな意味だか分かりますか?

Gotta give it a go.
「やってみるよ」
映画「ボヘミアン・ラプソディ」より引用
 これも、英文法の力があれば瞬時に分かるようになります。「何百回と意味もなく声に出す」ことで覚えるのもいいですが、英文法の力を使ったほうが他にも応用が利くのでおすすめです。

 では、文法的に考えてみましょう。英語の文型が分かると、「基本動詞の役割」が見えてきます。例えば、ボヘミアン・ラプソディのこの台詞は英文法の文型で学ぶ「第4文型」です。第4文型は「与える」の意味になる動詞が圧倒的に多く、これらの動詞を「授与動詞」と言います。

My girlfriend gave me an interesting book.
僕の彼女が僕に面白い本をくれた。
「授与動詞」とは、簡単に言うとgiveなどの「与える」系の意味を表す動詞です。
『ゼロから覚醒 はじめよう英文法』(かんき出版)p. 42
 それでは、「ボヘミアン・ラプソディ」に使われている“give it a go”はどうなっているのでしょうか?これも実は第4文型です。

Gotta (V) give (O1) it (O2) a go.
「やってみるよ」
 文型だけでなく、英文法の「品詞」のルールも役立ちます。goの前にaが付いていますね。aは冠詞なので、後ろに来ているgoは動詞ではなく、冠詞の付く「名詞」と分かるのです。その上で辞書を引けば、勉強の効率がグッと上がります。

 これは次の英文法のルールが役立ちます。

POINT1:
単語の品詞と意味は、文のどこに置かれるかで判断できる!
 つまり、文法の力を使うとgoが「行く」という動詞ではなく、「試み」の意味で使われている名詞だと分かるのです。試しに辞書の名詞の項目でgoを見てみてください。goには名詞で「試み」や「機会」という意味が口語表現で使われると書かれているはずです。

● イギリスでは“give it a go.”、アメリカでは“give it a try.”

 さて、ここで応用力をつけていきましょう。この「ボヘミアン・ラプソディ」はイギリスのロックバンド、Queenの伝記的物語なので、イギリス英語を意識して使っています。give it a goはイギリス英語の口語表現なのです。アメリカ英語で言えばgive it a tryで、これもgiveを使っています。冠詞のaが付いているので、このtryも動詞ではなく名詞の「試み」という意味です。「私はそれに試みを与えないといけない」→「やってみなくちゃ」という意味で使われています。

 このセリフは、どんな場面で出てくるのでしょうか?一見、映画の本筋に関係ないように思いますが、実は元々バンドを組んでいたティムがバンドを抜けて「(ほかのバンドで)やってみたいんだ」とバンドメンバーに別れを告げるシーンです。そのあとに主人公のフレディ・マーキュリーが登場するわけで、この何気ないシーンにも力強い台詞回しと「バンドのボーカルの欠員」という重要な事件が絡んでいます。英文法の力は映画鑑賞でも思いがけない気付きを生んでくれます。

 さらに、もう一つ気になっていることがあるかもしれません。それはgottaの部分です。have got toをネイティブが発音する時、あまりにも決まりきった表現なので短縮して発音します。<have to+動詞の原形>の「~しなければならない」を口語表現では<have got to+動詞の原形>で表現することがあるため、あまりにも日常会話で使うからかhaveも抜けて、got toがつながり、gottaと発音します。これは「~しなくちゃ」と自らを鼓舞する時によく使います。

 つまり、学校文法で言うとこんな感じになります。

I have to give it a go.
「やってみるよ」

● 基本動詞のgiveは口語表現に多く使われている

 この基本動詞のgiveの発想は、会話でよく使われる表現にも応用が利きます。

□give 人 a ride「人を車に乗せる」 □give 人 a call「人に電話をかける」
□give 人 a break「人に休息を与える」 □give 人 a ring「人に電話をかける」
 例えば、次のような会話表現でもよく使います。

Could you please give me a call at noon?
正午に電話をかけていただけませんか?
 これは、give 人 a call「人に電話をかける」という意味の慣用表現です。giveを使った英熟語は多くありますが、こういった表現はパターンをつかむほうが表現の定着度がグッと上がります。

 また、こういった表現はマンガやアニメなどを見ていても頻出します。例えば、日本のマンガにも英語の台詞が使われていることがあります。『名探偵コナン』では登場人物に英語圏のキャラクターが出てくるため、原作にも英語が出てきます。イギリス人のFBI捜査官のジェームズ・ブラックの初登場(32巻)に出てくる台詞を紹介しましょう。

Can you give me a break?
勘弁してくれないか?
『名探偵コナン』32巻より引用
 このgive me a breakのbreakもaが付いているので、名詞になるわけです。breakには「休み・一息」という意味もあり、相手がしつこくしてきた時に使われるフレーズです。『名探偵コナン』に出てくる英語のフレーズはしっかり調べられているのか、そのまま使える英語表現も多く、プロの英語講師から見てもすごいマンガです。映画や日常会話でもよく出てくるので、ぜひgive me a break「勘弁してよ」もチェックしておきましょう。

 ちなみに、こういったgiveを使った表現を使う時には、映画のやドラマの俳優も「うんざり・イライラ」を表情に浮かべながら演じています。そういった細かいところも真似してみると身に付きやすくなります。

● 「頑張って」にも第4文型が隠されている

 皆さんは相手を励ます時にどんな表現を使っているでしょうか?「頑張って」を英語に訳すと“Fight!”と思っている人が多いかもしれませんが、これは大きな誤解です。

Fight!
戦え!(×頑張れの意味では使わない)

Good luck!
頑張って!(幸運を!)
 英語では「頑張って」という時に「お祈り」をします。この表現もフレーズとしてはどこかで聞いたことがあるでしょうが、“Good luck!”は「お祈り」の一つなので、元々の英語を理解すると、表現に気持ちがこもるようになります。

(S)I (V)wish (O1)you (O2)good luck.
あなたに幸運が訪れますように。
 このwishも実は「授与動詞」で、「与える」の系統に属している動詞です。「幸運があなたに来るように祈りを与える」と考えれば分かりますね。

 これは実は、日常会話の中でも多く登場する表現に使われている発想です。

□Good morning! 「おはよう!」   □Good afternoon! 「こんにちは!」
□Good evening!  「こんばんは!」  □Good night!   「おやすみ!」
 朝から晩まで「良い朝が訪れますように」「良い夜が訪れますように」と祈っていると考えると、あいさつにも文化的な背景が隠されているのだとわかります。

● ネイティブが知らないからこそ、“英文法の力”で英語に覚醒できる

 こういった話をすると、「ネイティブに聞いてみたら、そんなこと知らないと言われた」という感想を耳にすることがあります。興味深いことに、英語を勉強すると「ネイティブですら気付いていない英語の発想」を知る瞬間があります。また、「ネイティブスピーカーには普通の表現であり、当たり前すぎて感動できない」のだそうです。確かに僕たちも普段日本語を使っていて、そこまで日本語の使い方を意識していないかもしれません。

 僕は以前英語圏のネイティブスピーカーの日本語の授業を受けたことがあるのですが、驚くべきことに「分かりやすい!」と感動しました。それは彼らが外国語を学ぶ時に英語と日本語を比べ、それをうまく説明していたからでした。特に、助詞の「は」や「が」の説明などを聞いた時に英語のaとtheの違いと似ているという解説を聞いた時は目からウロコが落ちました。そうした説明はノンネイティブの方がうまいことも多く、外国語として勉強した講師の特権とすら言えるのです。

 僕も英語圏のネイティブに英文法の解説をして驚かれたことが何度もあります。「まさか、日本人から英語の深い理解を得られるとは思わなかった」と言われた時、ハッとさせられました。外国語として英語を勉強すると、「英文法」の学習をする時に日本語と英語の違いや共通点も理解でき、それが言語への覚醒(言語の面白さに目覚める)をすることにつながるのだということです。英文法を通して、知的感動が得られることに歓喜したのです。皆さんにも英文法を通して、そんな感動を味わってほしいと思い、僕は英文法の本を書いています。

● オンライン英会話&ChatGPTを活用してみる!

 さて、ここでgiveを使ったアウトプット学習もしてみましょう。ChatGPTを活用した英語学習が注目を浴びていますが、僕は「リアルな英語(authentic English)を元に練習メニューを組むべき」という持論を持っています。

 その理由は最初からChatGPTに英語を作らせても、初学者にとっては「何が自然か・そうではないかの区別」が付きにくいからです。また、リアルな英語に触れた時の喜びは自動生成では得られない感動です。

 そこで、僕のオススメは次の3ステップで英語の練習メニューを組んでみることです。実は第2言語習得(the second language acquisition)の理論では「良質なインプットに触れること」の重要性が論じられています。実際に英語学習に成功した人の例を集めても、「自分の興味のある素材」や「自分の実際に経験したこと」などを通してインプットの機会が多い人は「アウトプットも自然になりやすい」という特徴があります。

Step 1 英文法の本で理解をする
Step 2 映画やオンライン会話などでgiveの用例インプットを増やす
Step 3 その用例を元に3個の練習用例文を生成し、音読でアウトプット力を強化する
 この記事でStep1とStep2をやってきました。Step3にChatGPTを使います。ChatGPTに指示で出すプロンプトは「I'll give it a go. と同じパターンでI'll give itで始まる英語の例文をCEFR B1の範囲で3個作ってください。例文はビジネスシーンから日常会話で使えるものが良く、対訳形式で表にしてください」などとしてみてください。これで十分なクオリティのものが得られます。

 ここでCEFR B1レベルを指定すると、英検2級レベルの例文を作ってくれます。もしB2だと英検準1級レベルといったように、英語の例文のレベルの微調整もできます。以下はChatGPTで自動生成した英文です。

I'll give it my best shot. (最善を尽くします)
I'll give it some thought. (考えてみます)
I'll give it a try. (試してみます)

● リアルな英語を探してみよう

 さらに、自動生成した文が本当に自然かを確認したい時には以下のサイトも便利です。

 自然さを追求したいと言う人は、新聞記事や雑誌などの抜粋を検索したいならLudwigというサイトが便利ですし、聞き取りの練習としてはPlayPhrase.meなどのサイトでも映画の台詞から調べられて重宝します。試しにこれらのサイトで“give it a go”を検索してみてください。豊富な生の用例に触れることができます。

 オンライン英会話でもこれらのリストをシェアすることで、「ニュアンス」を尋ねたり、他の便利な表現なども質問することができます。さらに、お願いすればオンライン英会話の講師も会話の練習の中に入れてくれるでしょう。僕も以前利用した時に自分の要望を伝えた結果、9割くらいの講師がきちんと対応してくれました。

 ここで大切なのが、「練習のプロセスを楽しむこと」です。英文法の理解、良質なインプット、そしてアウトプットの段階を経ることで、英語の文法力が覚醒していきます。特に今は独学で良質なインプットに触れる機会を増やすことができるため、一人でも十分練習はできます。こういった勉強を続けていくことで、基本動詞のgiveが自分の中に染み込んでいき、次の英会話に「口からサッと出てくる」という体験をすることができるようになりますよ。

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最終更新:5/8(水) 13:02

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