「とりあえず洗える服」を買う人の残念すぎる盲点 オフィスカジュアルの広がりでTシャツやデニム素材もOKだからこそ考えたい「服選びの原点」
新しい生活が始まる春。そんな節目に日々の洋服に対する意識を見直してみませんか? 今回は、服の本質的な役割から手入れの仕方を考えることで、日々の服選びやお手入れに新しい視点を届けたいと思います。
■服を着る目的から始めよう
春は新生活の季節。入社や入学、異動など、新しい環境でスタートを切る人も多いでしょう。そんな節目のタイミングでまず見直しておきたいのが、「服を着る目的」です。仕事に向かうとき、何のためにその服を着るのでしょうか?
きちんとした印象や清潔感、信頼感、そしてまわりへの気づかいなど、
そうした要素を身にまとうために、人はビジネスウェアを着るのだとすれば、選ぶ基準が変わってきます。
大切なのは「何のために着るか」を中心に考えること。そうすれば、おのずとどんな素材が適しているか、どんな衣類のタイプがふさわしいかが見えてきます。
最近では、「毎日の仕事に着ていく服=普段着」と考える人も増えているようです。オフィスカジュアルの広がりによって、Tシャツやポロシャツ、デニム素材の洋服など、カジュアルな装いが受け入れられる職場も確かに増えました。
けれども「自由な服装」と「何を着てもいい」は同義ではありません。ビジネスウェアは、以下のような目的を果たすための道具です。
• 相手に敬意を示す
• 信頼感を与える
• 作業を快適に、あるいは安全に行う
• 仕事のスイッチを入れる
• モチベーションを保つ
たとえば、少し視点を変えて、筆者の地元の中学校での事例を挙げます。
地元の中学校では近年、夏の暑い時期にはジャージ登校が基本になっています。最近の酷暑を考慮すれば理解はできますが、ジャージ登校の期間中に開催されていた音楽会で、生徒たちがジャージ姿で登場する光景に、筆者は強い違和感を覚えました。
同様にクリーニング店を営む友人も、卒業式にヨレヨレの制服で出席する子が増えていると、嘆いています。
かつては「ハレの日」として特別な装いで臨む場だったものが、今は「それでいいじゃん」と片付けられてしまう。でも、服装の自由が尊重される時代だからこそ、「場にふさわしい装いとは何か」をもう一度問い直す必要があるのではないでしょうか。
■洗いやすさ優先で着心地が犠牲に
ビジネスウェアの素材は見た目だけでなく、着心地やパフォーマンスにも直結します。
特に最近は「家庭で洗えるかどうか」を基準に選ぶ人も増えていますが、洗いやすさを優先すると、実は着用中の快適さが犠牲になることが少なくないのです。
たとえば、スーツなどのビジネスウェアに多く使われる素材の1つにウールがあります。水分を含むと繊維の表面にあるキューティクルが開き、湿気を外に逃がして調湿するので、長時間着ていても蒸れにくく快適に過ごせます。
また、シャツなどは綿がよく使われますが、綿は吸湿性が高いため汗をよく吸収し、体へのストレスを減らして楽にしてくれます。
反面、ウールは洗濯のときに水を使ってもみ洗いをすると、開いたキューティクルが絡まり、フェルト化を起こして縮みが起こります(関連記事:縮まない・伸びない「ニット」おうち洗いの“正解”)。綿素材は折れやすいのでシワになりやすく、これらはデメリットとして受け取られがちです。
一方、洗濯機で気軽に洗えることで選ばれがちなのが、ポリエステルです。確かにポリエステルはシワになりにくく、縮みや型崩れが起こりにくいですし、耐久性に優れていて洗濯の手間が少ないというメリットはあります。
しかし、疎水性で水を吸いにくい繊維なので汗などを吸収しにくく、着ていると蒸れて不快になることもあります。また、洗って形が変わらないということは、すなわち着用中も動きに合わせて形が変わりにくいということですので、その結果、体が疲れやすくなります。
そのため、今はポリウレタンなどの素材を混ぜて伸縮性をもたせていますが、ポリウレタンが入っていると、素材の性質上2〜3年ほどで伸縮性に限界が来て劣化が生じ、着られなくなることがあります。
ほかにも、吸湿速乾機能を持ったポリエステルは繊維に物理的に穴を開けることで、水分を吸収させますが、元々が水を吸いにくい繊維なので、吸収できる水分には限界があり、汗をかくことが多い職場や作業になるほど不快になりやすいです。
つまり、洗えることを最優先にして衣類を選ぶと、着ているときの快適さや見た目の印象が二の次になってしまう可能性があるのです。どんな場所で、どう着たいのか。それに応じて素材を選ぶことをビジネスウェア選びの基本としたほうがいいのです。
そして、こうして選んだビジネスウェアの多くは日常的な洗濯ではなく、クリーニングによる手入れが向くものが増えます。
それは、クリーニングのほうがキレイになるとか優れているからということではなく、“目的が違う”のです。洗濯は清潔を保つための手段で、クリーニングは色や形、風合いを保つための手段。それぞれの特性を理解し、服に合ったケアを選ぶことが必要ということです。
ビジネスで着る服が見た目の印象や仕事時の快適さ、信頼感を支えるために存在していると考えれば、その着る目的から考えると日常の洗濯だけでは維持が難しく、適切なタイミングでクリーニングを活用するのが基本になります。
■着数を持つことは無駄ではない
ビジネスウェアをきちんと着こなすには、「着回し」も大事です。
同じ服を着続ければ、当然ながら早く傷みます。汗や湿気が抜けないまま再び袖を通すことで、臭いやヨレも出やすくなります。できれば、春夏と秋冬でそれぞれ5〜7着のビジネスウェアをそろえて、1週間ローテーションできる状態を作りましょう。
服を長持ちさせるための家庭でできるケアは、基本的には「着たら休ませる」、これだけで十分です(ただし、Yシャツなどは毎回洗います)。そうすれば1着1着が長持ちし、クリーニングに出すタイミングも確保できます。
「そんなに何着も持つのはもったいない」と感じるかもしれませんが、見た目の印象や服の寿命、毎朝の身支度のストレスなどを減らせるという点で、メリットが大きいです。
また、着数が適正であれば、クリーニングの頻度も自然と下がります。たとえば、週5日勤務に対して5〜7着を持っていれば、1着当たりの着用頻度は月に数回程度になります。そのくらいの着数であれば、クリーニングは月に1回〜シーズンに1回程度で十分です。
つまり「たくさん着るから、たくさん洗わなきゃいけない」ではなく、「着数をそろえておけば、無理なく適切な頻度でメンテナンスできる」のです。
一方で、素材やデザインなどで洗濯に向かない服を家庭で無理に洗濯してしまうと、次のような負の流れに陥ります。
<洗濯に向かない服を家庭で洗濯→ 汚れが落ちない(と感じる)→ 頻繁に洗濯する→服の形が崩れる→服の買い替えが頻発する>
洗濯に向かない服を洗濯で回収しようとすると、一見コストは安いように見えても長期的に見ると、高いコストを払うことになりかねないのです。
■服は使い捨てるものではない
着数をそろえ、着回して適切にケアしていけば、スーツであれば30年以上着ることも可能です。今は数年ごとに買い替えるのが普通になっていますが、実は、きちんと手入れをすれば、服は本来、何十年も着続けることができるものです。
「そんなに長く同じ服を着たくない」という人もたまにいますが、本当に“コスパがいい”服は、長く着ても古びて見えません。
服は消耗品ではないとわかると、服を買うときの選択肢も変わってきます。たとえば、オーダーメイドでスーツを作ることなどもその1つです。
今の「服=消耗品」という感覚では、オーダーは無駄なものに見えるかもしれません。ですが、オーダーが「高い特別な服」と思われるのは、服を短期で買い替える前提があるからです。
イニシャルコストだけを見ると確かに高く感じますが、長く着るという前提があれば別に高くはないですし、オーダーは自分の身体に合っていて、着ているときにストレスがないぶん、むしろ合理的な選択肢になります。
「長く着る」と聞くと、大事にしなきゃと、気を張ってしまう人もいるかもしれません。でも、値段が高いから大事にしなければいけない、というのは本来おかしな話です。
目的に合わせて着ること、着たら休ませること、そして定期的に洗うこと。安い服でも高い服でも、既製服でもオーダーでも、やるべきことは変わりません。
服を長く着るというのは、「神経質に大事に扱う」ということではなく、「理にかなった行動をとる」ということで達成されます。適切なケアをしたり、必要に応じて修理やサイズ調整をしたり。そうすることで服の機能や状態は長く保ち続けることができます。
時間とともに劣化して終わる消耗品として使い捨てるものでなく、暮らしの中で長く使う財産なのです。こうした意識の変化は、持続可能なファッションにもつながり、服の大量廃棄といった社会課題にも、良い影響を及ぼしていくはずです。
■着心地、見た目、寿命を保つために
先にも書きましたが、ビジネスで着る服はその着る目的から考えると、日常の洗濯だけでは維持が難しく、クリーニングを活用するのが基本になります。
適切な着数を用意し、適切なタイミングでクリーニングに出せば、状態を良く保ちながら長く着ることができます。そうすれば買い替えの頻度が減り、トータルのコストは確実に下がります。クリーニングにかかる費用は、十分に回収可能な投資です。
さらに、適切なケアが前提にあれば、快適に着られる素材・デザインの服を選ぶことができて、結果的に着心地、見た目、寿命のすべてを兼ね備えた“賢い買い物”になるはずです。
仕事で着る服は「自分をどう見せたいか」、そして「仕事をどう進めたいか」の意思表示でもあります。そうした問いに向き合ったとき、自然と今の時代に合ったビジネスウェアのあり方や、手入れの仕方が見えてくるはずです。
東洋経済オンライン
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最終更新:4/26(土) 9:32