資生堂「1500人早期退職」へ追い込んだ2つの元凶、藤原社長が挙げた「4つの条件」に困惑する社員も

3/12 5:02 配信

東洋経済オンライン

 「(資生堂が掲げる)ピープル・ファーストで求める4つの人財像は、ご覧の通りです」

 2月29日、資生堂社内は動揺に包まれていた。藤原憲太郎社長COO(最高執行責任者)が動画を通し、大規模な早期退職募集を行うと発表したのだ。

 動画は「ミライシフト NIPPON 2025」というタイトルから始まり、資生堂ジャパンの成長に向けた方針の1つに「人財変革」を示した。そして藤原社長は冒頭の発言に続き、資生堂ジャパンに残る人材について、次のような条件を掲げた。

 「グローバル・ビューティー競争をリードできる『センス』と『スキル』を有している」「期待を超える成果創出に向けた『学習』と自己成長への『情熱』を有している」

 この動画を見た現役社員は、「早期希望退職の話が出ると、社員の間には重く暗い雰囲気が漂い始めた」と振り返る。そして「会社に残るなら経営陣が求める人材に変わってくれ、ついていけないなら会社を辞めたほうがいいという独特の論調。現場を支えてきた人材にメスを入れるリスクを、経営陣は理解しているのだろうか」と憤る。

■日本事業の1割超の社員が対象

 3月8日には個人別の早期退職金の試算書が送られ、3月11日から対象者に向けた管理職との面談が始まった。4月17日から5月8日まで早期退職募集を行い、応募者は9月30日に退職日を迎える予定だ。

 今回の早期退職募集は、資生堂ジャパンに所属する社員1500名が対象。2022年度の日本事業の従業員数1万1185人のうち1割超に相当する。45歳以上かつ勤続20年以上を要件とし、退職時年齢に応じた特別加算金等を積み増す。大規模な早期退職募集は2005年に、1000人規模で実施して以来となる。

 なぜ資生堂は、ここまでの改革を迫られているのか。同社の日本事業は、2022年度のコア営業利益(営業利益から構造改革費用などの一時的な要因を除いた数値)が130億円の赤字に転落。翌2023年度には同18億円の黒字に浮上したものの、ピーク時である2019年度の営業利益910億円(IFRSへの会計基準変更前)に遠く及ばない。

 主な元凶は2つある。1つ目は、インバウンド需要の剥落だ。2019年のコロナ禍以前、資生堂の化粧品は中国人観光客の“爆買い”対象となっていた。利益率の高い高価格帯スキンケア「クレ・ド・ポー ボーテ」などが飛ぶように売れていたが、コロナ禍で急激に低下してしまった。

 2024年度の訪日外国人数は回復傾向にあるものの、消費行動の変化で中国人1人当たりの化粧品購入単価は低下している。さらに中国現地での安売り競争に巻き込まれた影響で、資生堂が手掛ける高価格帯のブランドイメージが毀損している懸念もある。

■「TSUBAKI」「uno」売却も響く

 2つ目は、パーソナルケア事業(日用品事業)の売却だ。2021年7月に資生堂は、長らく業績を底支えしてきたヘアケア「TSUBAKI」やメンズ化粧品「uno」といった有名ブランドを、投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズに1600億円で売却した。

 魚谷雅彦社長(当時、現会長)CEO(最高経営責任者)が掲げる構造改革のもとで中・高価格帯のスキンケアなどを中心とした体制に舵を切ったためだ。

 売却先のファイントゥデイによると「2022年度の売上高は1000億円超、営業利益率は10%を超えている」という。資生堂の日本事業は、人件費やオフィス関連経費などの固定費が重く、中・高価格帯の化粧品だけでは限界利益をカバーできず、赤字に転落してしまったというわけだ。

 屋台骨である日本事業の立て直しは急務。藤原社長は昨年9月以降、資生堂ジャパンの会長を兼任して改革を進めてきた。「今、変わらなければ日本事業としての存在意義すら危ぶまれる。改革のレベルを考え、自分でやるべきだと判断した」(藤原社長)。

 資生堂は今2024年12月期に270億円の構造改革費用を計上する見込みだが、そのうち早期退職にかかる特別加算金が190億円と約7割を占める。固定費の削減に向けて、すでに各地の営業所数は縮小済み。一部直営店も見直しを進めている。

 一連の改革を経て、2025年度にかけて250億円の収益改善効果を見込む。2025年度の日本事業のコア営業利益500億円へ、大胆なV字回復を目指す。

■国内ECの拡大を掲げるが

 営業所の数は減ったものの、化粧品専門店とGMSの販路では「エリアごとに人が集まる場所を考え、勝つべきところで勝つ」(藤原社長)。

 その上で「(美容スタッフの)抜本的なリストラは考えていない。店舗人材の接客時間を最大化できるよう、配置を見直すなどで固定費を削減する」と説明する。さらに国内EC(ネット通販)の売上比率を、現状の10%台前半から30%へ拡大する目標も掲げる。

 人事面では、日本事業の社長CEOだった直川紀夫氏が、2024年3月の株主総会に向けた取締役候補から外れた。直川氏は魚谷会長の後任として2020年から日本事業トップを担当してきたが、2024年1月以降は藤原社長が日本事業の社長CEOも兼任している。

 一方の魚谷会長は2022年11月の社長交代時に、今後2年間を任期とする方針を掲げている。昨春頃に体調不良で一時入院していたが「今は回復している。(元々アナウンスがあったように)2024年も継続する方針。藤原社長COOは事業の実行等をメインで行い、魚谷会長CEOは人財教育など会社全体を見る役割で進める」(資生堂担当者)という。

■創業の地に人材開発施設を開設

 資生堂は創業150年の記念事業として、次世代リーダーなどの人材開発施設「Shiseido Future University」を、創業の地である銀座オフィスを改装して昨年11月30日に開校した。初代学長を魚谷会長が務めるが「院政を敷きたいのでは」(競合化粧品メーカー首脳)と業界内からは冷めた声も聞かれる。

 日本事業の早期退職募集と逆行しているように見える施設開設について「すでに費用は経営計画に入っており、グローバル全体の組織として効率的に活用していきたい」と藤原社長は説明する。

 2019年に8000円台をつけた資生堂の株価は、足元は4000円前後を彷徨っている。大規模な構造改革を経て、資生堂は輝きを取り戻すことができるのか。正念場はこれからだ。

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最終更新:3/12(火) 5:02

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