9年閉鎖されたままの廃墟ビルはどうなる? 揺れる苫小牧駅周辺の再開発《楽待新聞》

4/30 11:00 配信

不動産投資の楽待

北海道の中南部、道央エリアの沿岸部にある苫小牧(とまこまい)市。札幌市から鉄道・高速道路ともに1時間ほどの立地で、工業都市・港湾都市として知られている。

そんな苫小牧市の玄関口であるJR苫小牧駅の南口では、再開発が計画されるもなかなか進展が見られず、長年の課題となっていた。駅前に立地する「旧サンプラザビル」は、9年以上閉鎖されたままで「廃墟」と揶揄されることもあった。

しかし今年3月、再開発のビジョンに関して具体的な検討策がまとめられ、まちづくりの方針がより明確なものになった。

この記事ではJR苫小牧駅南口の再開発に関し、これまでの経緯や計画概要、今後の見通しについて解説する。

■多彩な顔をもつ苫小牧市

2024年3月末日時点の苫小牧市の人口は16万6095人。直近10年で人口は減少の一途をたどっており、逆に住民の平均年齢は右肩上がりだ。今後も同様の傾向が続くと見られる。

苫小牧市は、北海道有数の工業都市・港湾都市として知られる一方、北海道らしい大自然に囲まれた土地でもある。

三重式活火山で標高1041メートルの樽前山や、ラムサール条約の登録湿地でありハクチョウの飛来地としても知られるウトナイ湖などがある。

沿岸部に広がる工業地帯の中心的存在は、製紙業界大手の王子製紙・苫小牧工場である。

東京・王子で創業した王子製紙は、製紙業に欠かせない森林と水が豊富で広大な土地が手に入ることから、1910年、苫小牧に進出したとされる。

また、ベイエリアには日本最北の製油所として知られる出光興産の北海道製油所がある。

北海道を始めとする北日本各地では、冬季の暖房設備に高い灯油や軽油のニーズが非常に高い。苫小牧港に隣接する製油所は、安定供給のための基地として北国の生活に欠かせない存在になっている。

苫小牧港は、港湾法の定める国際拠点港湾の1つ。国内初の内陸掘込式港湾として建設された西港区と、苫東開発計画に沿って整備された東港区がある。

北海道において、港湾都市としての苫小牧市の存在感は大きい。苫小牧港は北海道内の港湾取扱貨物量の約半分を占めており、全国でも第4位の規模だ。

トラックなどで輸送する場合も、新千歳空港までおよそ30分、札幌まで1時間程度でアクセスできることから、苫小牧港は北海道内の物流の一大拠点としても機能している。

■JR苫小牧駅の位置付け

JR北海道のデータによると、JR苫小牧駅の1日あたりの平均乗車人員は2929人(2018年から2022年までの5年平均)。苫小牧駅は、室蘭本線、千歳線、日高本線の3路線が利用できるターミナル駅である。

普通列車のみならず、札幌と函館を結ぶ特急「北斗」や札幌と室蘭を結ぶ特急「すずらん」の停車駅でもあり、利便性は高い。

また、苫小牧駅に近接して先述の王子製紙苫小牧工場があり、工場内までは専用線が引き込まれている。

また、駅から車で10分程度の距離には、八戸港・仙台港・大洗港・名古屋港への航路を持つ苫小牧フェリーターミナルがある。

2020年には駅から車で10分程度の距離に苫小牧中央ICが開通し、高速道路にもすぐにアクセスできる。苫小牧駅および駅前エリアは、さまざまな交通利便性に優れた立地であると言えるだろう。

■JR苫小牧駅南口再開発とは

駅南口は中心市街地側に面しており、市役所や王子製紙苫小牧工場、苫小牧港などにもつながっている。

街の顔とも言える当エリアの再開発を目指す苫小牧市は、2022年度に「苫小牧駅周辺ビジョン」を策定している。

このビジョンを実現するために具体的な協議や検討を実施し、2024年3月付で「苫小牧駅周辺ビジョン推進/苫小牧駅周辺ビジョンに基づく基本構想」が公開された。

今回の追加資料において、苫小牧駅南口再開発のフェーズがビジョンの「策定」から「推進」へ移ったことが示されている。

再開発の中核となる「駅前再整備想定区域」の面積は約3.3ヘクタール。市営バスターミナル・駅前広場・旧サンプラザビル・二層式駐車場として利用されてきたL字型の区画だ。

駅ビルとしてかつて営業していた商業施設「苫小牧エスタ」は解体され、JR北海道と苫小牧市の協力により新たな複合ビルが建設される見込みとなっている。

駅前広場と公園を中心に、住宅・オフィス・商業などの複合ビル、立体駐車場、ホテル、サイエンスパーク、子育て支援施設、サテライトキャンパス(教育機関本部から地理的に離れたキャンパス)などで構成される計画になっている。

住宅棟の詳細は明らかになっていないが、資料内のイメージ図を見るに高層建築物が検討されているようだ。

また、この駅前再整備想定区域から市民文化ホールまでを徒歩で結ぶ動線も整備される。市民文化ホールから近接して市役所や出光カルチャーパーク(市民文化公園)などがあり、街の様相は大きく変化しそうだ。

さらに中長期的には、再開発エリアに隣接する苫小牧港周辺のウォーターフロントエリアとの連携も想定しているという。

一方で、施設等のハード面だけでなくソフト面の整備も進められる。市は複数回のパブリックミーティングなどの実証事業を行っており、駅前の賑わいを創出するイベントの企画などを進めている。

行政や企業などによる事業・戦略と民間団体や市民らによるまちづくり活動が連動し、方向性を共有することで「創造的な学びと暮らしが出会う街」というエリアコンセプトの実現を目指す考えだ。

■「旧サンプラザビル」をめぐって訴訟も

再開発計画の中で大きな課題となっていたのが、駅前の「旧サンプラザビル」だ。再開発に伴う旧サンプラザビルの土地利用をめぐり、地権者が苫小牧市を相手取った訴訟を起こした経緯がある。

「旧サンプラザビル」は、苫小牧駅前の商業者有志を中心とした市街地再開発組合によって、1977年に建設された地上8階・地下1階建の商業ビルである。

当時「苫小牧駅前プラザエガオ」という商業施設として営業していたが、経営悪化により2014年8月に閉業。ビル運営会社である株式会社サンプラザの破産手続きの申し立てが行われた。

旧サンプラザビルの閉業時、個人・法人を含めて土地には18名、建物には27名の権利者が存在したとされている。

駅前再開発により中心市街地の活性化を目指す苫小牧市は、旧サンプラザビルの土地・建物の権利を市に集約し、ビルの解体を条件に民間事業者へ譲渡するなどの方策を取ろうとしていた。

そこで、権利者に対し土地と建物の無償譲渡を呼びかけたのである。

権利の集約が進む一方で、土地の一部を所有する不動産会社「大東開発」は、土地の無償譲渡に応じる法的義務はないと判断。苫小牧市を相手取り、賃料相当額などの支払いを求める訴訟を起こした。

2021年の控訴審にて札幌高裁は、市が公共的な目的のもと再開発のために行う権利集約は正当なものとしながらも、賃料相当損害金が支払われるべきであるとする大東開発側の訴えを全面的に認め、市に賃料相当賠償金の支払いを命じた。

判決を受けた市は上告を断念。市の敗訴が確定し、裁判外での決着を目指す方針を表明していた。



苫小牧市の基本構想では、2024年12月までに各種協議を終え、2026年には旧サンプラザビルの解体を目指す事業スケジュールとなっている。

駅前立地にありながら、2014年から9年以上にわたって閉鎖されたままの旧サンプラザビルは、インターネットを中心に「廃墟ビル」などと称されてきた。

再開発計画の早期実現を望む苫小牧市民も多く、今後の進展が期待されている。

羽田さえ/楽待新聞編集部

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最終更新:4/30(火) 11:00

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