注意や叱責をされるとがっくりと落ち込んでしまう若手をどう指導したらいい?

5/10 11:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 最近の若者は、親や教師から厳しく怒られることがほとんどなく、ほめられて育ち大人になった人が多い。こうした人たちはどうしても打たれ弱く、注意や叱責をされるとがっくりと落ち込んでしまい、ネガティブな気持ちに耐えられなくなりやすい。うっかりするとそのまま会社に来なくなったり、退職してしまったり……というケースもある。こうした人たちに対し、どのように接したらいいのだろうか。(心理学博士 MP人間科学研究所代表 榎本博明)

※本記事は『「指示通り」ができない人たち』(日経プレミアシリーズ)から抜粋・再編集したものです。
● ネガティブな気分に耐えられない

 ほめられて育った人が増えるにしたがって、ほめられるのが当たり前といった感じになり、ネガティブな状況に耐えられない心理傾向が広まっている。

 ほめられて育った人たちによく見られる特徴として、注意されると反発する心理傾向がある。絶えずほめられてきた人は、ポジティブな気分にしてもらえるのが当たり前という感受性を持つ。そのため、叱られたり注意されたりしたときのネガティブな気分が耐えがたいものとなる。

 そんな時代ゆえに、多くの職場では極力ほめるようにしており、厳しいことは言わないようにといった対応が取られている。しかし、仕事に慣れない人物を一人前の戦力に鍛え上げていくには、ときに注意することも必要になる。それで注意すると、あたかも自分を全否定されたかのように感情的な反発を示す者もいる。

 そのような心理傾向を持つ若手に手を焼く経営者や管理職も、今では珍しくない。ある経営者は、その戸惑いについて、次のように語る。

 「若い人たちに対しては、厳しいことは言わないようにと従業員たちには言ってあるんです。でも、人によっては、そんなのは納得がいかない、厳しいことを言われて自分たちは仕事が一人前にできるようになったんだっていう人もいるんですよ」

 『そう言いたくなる気持ちもわかりますよね』

 「私自身、そういう気持ちもあります。なんでこんなに弱くなっちゃったんですか。私たちが若かった頃は、先輩や上司から厳しいことを言われるのは当たり前だったし、それで鍛えられたと思うんですけど」

 『そうですね。時代が大きく変わってしまいました。厳しく育てられた上の世代との感受性のギャップが、さまざまなトラブルを生んでいるといった感じがありますね』

● 腫れ物に触るような対応しか……

 「他の会社でもトラブルが多いと聞きますけど、うちの職場でも、上司がちょっと注意しただけで、傷ついたとかパワハラだとか文句を言うんで、どうしたらいいのか困ってるんです」

 『育ち方が違えば感受性も違ってきますよね。私たちの世代のように、厳しさの中で鍛えられて育った者にとっては、ちょっと厳しいかなといった程度の言葉でも、叱られずにほめられるばかりの甘い環境で育った今どきの人には、とんでもなく厳しい言葉のように感じられる、っていうことがあるんじゃないでしょうか』

 「なるほど。言われてみれば、そうかもしれません。でも、それじゃ一切注意できなくなっちゃうじゃないですか。もともとできる人はそれでいいですけど、なかなかできない人は注意してやらないと、できるようにならないでしょ」

 『仕事ができるように育てるには、注意も必要ですよね』

 「そうでしょ。それなのに、やり方が間違ってるって注意されると、まるで自分を全否定されたかのように真っ赤になって反発するのもいるんです。でも、間違ってるのをそのままにするわけにもいかないから、注意するしかない。注意っていうより教えてあげてるのに、反発されるんじゃ、やってられないって教える側が腹を立てて私に文句を言いに来るんですけど、そっちの気持ちがよくわかります」

 『それはそうですね。このような時代に鍛えてあげる側は大変だと思います。でも、注意すると傷ついたとかパワハラだとか、みんなが言うわけではないのでは。厳しく注意されても、別に文句も言わず、注意されたことを糧にしてできるようになっていく人もいるんじゃないですか?』

 「もちろんいますよ。そういう若手には安心して指導できるんですけどね……だけど、いわばひ弱な若手には腫れ物に触るような対応でいくしかなくて、鍛えてやれないから、できるように育ててやれないし、本人も損だと思うんですよ」

 『そうですね。鍛えてもらえず、腫れ物に触るような扱いになるのは、本人にとって大きな損失でしょう。そこは何とか鍛えてあげないと可哀想ですね』

 「じゃ、どうしたらいいんですか?」

 『そのような人の場合、ほめて育てられること、つまり絶えずポジティブな気分にさせてもらうことによって、ネガティブな気分をうまくコントロールすることができなくなっているんでしょう。そこに気づいてもらい、非認知能力のひとつである感情コントロール力を高める必要があると思います』

 「感情コントロール力を高める?」

 『注意されると嫌な気持ちになる。それでつい反発してしまう。でも、そんなふうに感情に流されていては成長できませんよね』

 「そこなんですよ」

 『だから感情をうまくコントロールする必要がある。それができれば、注意されたことを糧にして成長していける。感情をコントロールできるようになれば、停滞路線から成長路線に移行できるでしょう』

● ネガティブな感情をどうコントロールすればいい?

 そこで、叱られたり注意されたりしたときのネガティブな感情のコントロールの仕方について解説した。

 注意されれば気分が落ちるし、自分がうまくできていなかったり、間違ったやり方をしていたりする現実を直視するのは気分の良いものではない。しかし、感情に流され、そこから目を背けていては改善も成長も望めない。それに気づいてもらう必要がある。

 つぎに、注意されることは自己改善のきっかけになることを教えることがとても大事である。

 注意する上司や先輩は、意地悪で言っているわけではなく、改善すべき点があるから注意するのである。いつまでもできない人物でいればいい、だから改善しなくていいと思っていたら、気まずい感じになるのも厭わずにわざわざ注意などしないだろう。

 注意された点を改善することで、仕事力が高まり、できない自分から脱し、できる自分へと変身することができる。注意は成長の契機となる。そうであれば、注意してもらえるのはありがたいことなのである。こうしたことに気づかせるような対話をしていくことが大切である。

● 注意されることは全否定されることではない

 さらには、注意されると自分を全否定されたかのように反発するのは、仕事のやり方と自分を区別しないことによるものだということに気づいてもらう必要がある。

 そこで大事なのは、行為と自分を切り離してとらえることである。だれかに仕事のやり方が違うと注意されたとしても、それは自分が否定されたのではなく、やり方が否定されただけである。能率の悪いやり方を注意された場合も、それはやり方が否定されただけであって、自分が否定されたわけではない。注意されたやり方を変えれば、うまくできるようになったり、能率よくこなせるようになったりする。それは自分の成長につながる。そのことに気づかせるような対話をしていくことが大切となる。

 注意に反発するだけでなく、アドバイスにさえ反発する人もいる。行為と自分を切り離すことができていないと、親切なアドバイスにさえ反発することになりかねない。

 たとえば、「こういうふうにやった方が能率がいいですよ」というアドバイスは、今自分がしているやり方は能率が悪いということを示唆しているわけである。その場合、行為と自分を切り離している人なら、「それはありがたい」と思い、アドバイスしてもらったやり方を早速取り入れるだろうが、行為と自分を切り離すことができていない人は、自分を否定されたように感じてしまう。そのため、感情的に反発し、素直にアドバイスに従って能率の良いやり方を取ろうとしない。それでは困る。だからこそ、行為と自分を切り離してとらえる必要があるのである。

 このような気づきを促す対話をしていくことで、注意されてもいちいち反発せずに、注意されたことを糧にして成長していけるようになることが期待できる。

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最終更新:5/10(金) 11:02

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