東大の入試で「ただの知識問題」が問われた驚き。日頃からニュースを見ることで答えがわかる
受験生の皆さんは、受験で必要な各科目を勉強するだけではなく、日頃のニュースも追っていますか? 『東大生が読み解く ニュースが1冊でわかる本 2025年版』を上梓した東大カルペ・ディエムの西岡壱誠さんが、受験対策として、時事ネタを学ぶことの大切さを語ります。
■東大入試でもニュースが出る
東大入試では、その時々の社会情勢やニュースを取り入れた問題が数多く出題されています。単に知識として暗記するのではなく、ニュースを通じて身近に触れていることで、解きやすさが段違いに変わってくることがあるのです。実際に出た問題を見てみましょう。
① 2024年 東大地理 第1問 設問B
昨年度の東大地理では、「天然ガス」に関する問題が出題されました。この問題の背景には、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、世界的に天然ガスなどのエネルギー価格が高騰していたことがあります。
「天然ガスの価格が高騰している」というニュースを知っていること、そして、さらに一歩踏み込んで「どうして天然ガスが高騰しているんだろう?」「天然ガスってそもそもどういう地域で生産されているんだろう?」と考えてきた受験生にとっては、解きやすい問題だったのではないかと思います。
設問(1)では、地域別の年間生産量のグラフを見て、それぞれの地域を特定する問題が出題されました。
そしてそれを踏まえて設問(2)では、以下の空欄を埋める形式の問題が出題されました(※Aの地域は北米です)。
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この問題、ニュースに出てくる言葉がそのまま答えになります。皆さんはわかりますか?
正解は「シェール(革命)」です。
シェール革命とは、2000年代後半にアメリカで、「シェール」と呼ばれる岩石層から石油や天然ガスを低コストで掘削できる技術が開発されたことを指します。これにより、アメリカではエネルギー資源の生産が大幅に増加し、国内価格が下がっただけでなく、輸入量が減少し、むしろ輸出をするようになりました。日本もシェールガスから作ったLNGを輸入しています。
■東大でストレートな問題が出たことへの驚き
もちろん教科書にはこの言葉が載っていますが、長年東大の研究をしている塾・予備校関係者はこの問題に対して大きな驚きがあったそうです。
というのも、東大がここまでストレートな知識問題を出題することはほとんどないからです。特に地理では、ただ教科書に載っている言葉を知っているかどうかを問うだけの問題はほとんど出題されないのです。
それでもこのような問題が出題された背景には、きっと「ニュースでも話題になっているこの言葉を知らない受験生は東大に相応しくない」というメッセージがあるのかもしれません。
この「シェール革命」という言葉は、ニュースを見ていれば普段から耳にすることがある言葉です。教科書で暗記すべき単語の1つとして覚えた人と、日頃からニュースを見ていてその言葉を聞き慣れていた人とでは、難易度が大きく違って感じられたはずです。普段からニュースに触れていると、こういうところで差がつくというわけですね。
② 2019年 東大世界史 第1問
東大の世界史の入試問題は、大問1に15行(450字)〜22行(660字)という他大学の入試には類を見ない大論述が課されることで有名です。
そして、2019年の大問1の問題文はこのようなものでした。
問題文では、冷戦の終結による政治的・軍事的緊張の緩和を背景に、世界がより平和になることを期待されていたものの、実際には各地で政治的混乱や紛争が発生したことに言及されています。特に、かつてオスマン帝国が支配していた領域では……と、話題はオスマン帝国の話に移っていきます。
肝心の出題内容は、「18世紀半ばから1920年代までのオスマン帝国の解体過程について、帝国内の民族運動や帝国の維持を目指す動きに注目しつつ、記述しなさい。」というものです。
オスマン帝国は、トルコ系民族の王朝であり、アジア、アフリカ、ヨーロッパに広大な領土を持っていました。しかし、18世紀以降は帝国内の民族運動が活発化し、それがオスマン帝国の弱体化に繋がってしまいました。
アラビア半島では、イスラム教の中でも特に原理主義的な勢力がワッハーブ王国を建国します。アラブ地域でも民族運動が起こり、第一次大戦でこれを利用しようとしたイギリスはアラブ人の独立国家建設を約束しましたが、一方でユダヤ人にも「民族的郷土」をパレスチナに建設すると約束し、これが現在まで続く火種となっています。
また、第一次世界大戦後には、クルド人自治区の建設案もありましたが、トルコが批准を拒否したため実現せず、現在までクルド人は固有の国家を持たない状態にあります。
イスラム原理主義、ユダヤ人、クルド人。いずれも、昨今のニュースでよく聞く名前ではないでしょうか?
この問題が出題された2019年当時、イスラム系の過激派組織によるテロ行為が国際的に問題視されていました。
「なぜ今このような問題が生じているのか?」という疑問は、誰しもが一度は考えたことがあるはずです。
しかし、実際にそれを調べて、オスマン帝国の歴史にまで遡って考えた人が、いったいどれだけいたでしょうか。東大はこの問題を通して、現在の出来事について考えるとき、その歴史的背景まで含めて考えることができるかどうかを問うているのだと思います。
■試験対策では「節目の年」にも要注意
2025年現在も中東情勢は混沌としています。また、祖国を持たないクルド人が世界各国に移住しており、日本でも現地住民とクルド系移民との間でさまざまな軋轢が生じています。
2019年当時、これらの問題は現在ほど大きく報道されているニュースではありませんでしたが、現在のような事態が起こる可能性は十分にありえたということが、この問題からもわかります。
ちなみに、この問題は「1989年(平成元年)の冷戦終結宣言からおよそ30年が経過した。」という一節から始まっていますが、このような節目の年はニュースで話題になりやすく、さまざまな学校の入試問題で題材になりやすいと言えます。受験生は必ず押さえておくとよいでしょう。
今回取り上げた2問は、いずれもニュースの背景を理解し、深く考える力を問う問題でした。ニュースを学ぶことは単なる受験対策にとどまらず、社会の現状を理解し、未来を考える力を養うことにもつながります。特に東大の入試問題では、受験生にそのような視点が強く求められているのです。
東洋経済オンライン
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最終更新:2/7(金) 5:17