リーダーが必ずしも「優秀である」必要がない理由 優れた人材を見出し仕事を任せることが重要

5/24 12:02 配信

東洋経済オンライン

新年度を機に、昇進してマネジメントを任されることになった人、初めて部下ができた人、無我夢中で約2カ月を過ごして、そろそろ「マネジメントって何をどうすることなんだろう?」「どうやら自分はリーダーに向いていないかもしれない」など、さまざまな疑問や葛藤を抱える時期ではないでしょうか。
本稿では、入社3年目から約20年にわたってリーダーとしてのキャリアを歩み続け、数々の修羅場をくぐり抜けてきた木部智之氏の最新刊『リーダー1年目のマネジメント大全』から一部を抜粋し、新米リーダーが最速で結果を出すための仕事術を3回にわたってお伝えします。今回は2回目です。

■最も優秀である必要はない

 1800年代のアメリカで、鉄鋼王とも称され多くの成功を収めたアンドリュー・カーネギーという大実業家がいます。彼は多くの名言を遺しましたが、その1つに、次のようなものがあります。

 「己よりも優れた者に働いてもらう方法を知る男、ここに眠る」

 カーネギーが自らの墓碑に刻ませた言葉です。

 これは、彼がなぜ数々の偉業を成し遂げることができたのか、その理由を端的に示している言葉だと思います。つまり、カーネギーは自身の才覚だけで成功を収めたわけではないということです。

 優れた人材を見出し、仕事を任せることができたからこそ、事業を拡大することができた。一方で、優秀な人材を集め、働いてもらうことの難しさと大切さも熟知していたのだと思います。

 リーダーであるあなたは、自分より優秀なメンバーを見ると焦りを感じてしまうかもしれません。メンバーより仕事ができないリーダーなんて、なめられるのではないか、あきれられるのではないかと不安は尽きません。

 また、若くしてリーダーに昇進したことへのねたみからか、「リーダーのくせに、こんなこともできないのか」と、マウントを取ってくるメンバーもいるかもしれません。

 しかし、ここではっきりお伝えしておきましょう。

 リーダーは、チームの中で一番優秀である必要はありません。

 自分が優秀でないことに不安を覚えたり、焦りを感じたりする必要もありません。なぜなら、リーダーに求められている役割は、そういう優秀さではないからです。

■「マネジメント」で結果を出すべき

 リーダーに求められている役割とは、「マネジメント」です。組織をマネジメントする、メンバーをマネジメントする、ビジネスをマネジメントする、これらに長けていることが重要です。

 リーダーは組織の成果を上げるために、メンバーを育て上げたり、スキルに応じて仕事のアサインを調整したりするのです。

 そして、メンバーが気持ちよく仕事をし、最大限のパフォーマンスを発揮できるように環境を整える。それがリーダーの仕事です。

 確かに、リーダーが現場の仕事を隅々まで熟知し、さまざまな現場スキルを持っていることは、素晴らしいことではあります。しかし、それはマスト(必須条件)ではありません。必ずしもすべての領域でメンバーよりも優秀である必要はないのです。

 リーダーになった以上は、現場のスキルが足りないことに焦りを感じるのはやめにして、優秀なチームを作り、メンバーにいい仕事をしてもらうことに全力でフォーカスしていきましょう。

 リーダーは、立場上多くのストレスを抱えます。

 メンバー時代と比べて、接する人や部門が増え、中間管理職として上下に挟まれるからです。そんなとき、他部署のメンバーやチームのメンバーについて、悪口の1つも言いたくなるかもしれません。しかし、そこはぐっと堪えましょう。

 理由は3つあります。

 1つは、メンバーがついてこなくなるからです。悪口を言うリーダーの下では仕事が楽しくならないので、メンバーが前向きになれません。それはチーム全体のパフォーマンスに影響するのはもちろんのこと、メンバーの心もリーダーから離れてしまうのです。

 2つ目の理由は、上層部から評価されなくなることです。上層部は、現リーダーの中から、次のポジションのリーダー候補を考えます。ネガティブ発言が目立つリーダーは、その候補に選ばれません。

 そして3つ目は、悪口を言った相手とも、いずれ一緒に仕事をする日が来るからです。それまであなたが口にした悪口や不満は、不思議なもので本人に伝わっています。昔から「人の口に戸は立てられぬ」と言うように、リーダーの発言は漏れ伝わるものだからです。

 長いキャリアを歩んでいると、メンバーが横並びのリーダーになったり、隣の組織のリーダーを自分がやることになったりと、交わらないと思っていた人たちと仕事をする局面が出てきます。

 そうなったとき、悪口を言われていた人は気持ちよく仕事をしてくれないでしょう。ときには足を引っ張ってくるかもしれません。

 ですから、悪口を言うことに何のメリットもないのです。

■ネガティブ発言の百害

 悪口、不平不満は、言うまいと思っていても、「つい」言ってしまうものです。なぜかというと、「言わない」こと自体がストレスになるからです。ストレスを吐き出せないことがストレスなのです。

 もう1つ理由があります。それは、同じ不平不満を抱えている仲間がいるということを確認したいからです。自分だけでなく、他の人も同じようにストレスを抱えている、という安心感を得たいのです。

 これらが気持ちの根底にあるので、自分からは言わないようにしていても、誰かが口火を切ると、つい乗ってしまいます。

 ちょっとした雑談の中で誰かが言い始めたり、飲み会の場でそのような話になってしまったりということがよくあります。

 しかし、そのような場面でも、私が見てきた優秀なリーダーたちは「努力」して、他人の悪口を言わないように自制していました。

 同意しなかったり、話をそらしたりして、できるだけ自分はその噂話に乗らないように会話をコントロールしていました。ネガティブ発言をすることは、百害あって一利なしと知っていたのでしょう。

 メンタルコントロールの1つとして気をつけておきましょう。

 優しいリーダーがいいか、厳しいリーダーがいいか、よく議論になるところですが、これは択一的に決めることはできません。有能なリーダーの多くは両方の顔を持っていて、場面ごとに使い分けています。

 ただ、1つ言えることがあります。それは、メンバーに好かれようとすると、組織は成果を出せなくなるということです。

 残念ですが、リーダーはその役割の特性上、メンバー全員に好かれるということは、まずありません。むしろ、メンバーから好かれることを目標にしていては、チームは弱体化してしまいます。

 メンバーに好かれることをめざして、リーダーがメンバーに気を遣い、楽な仕事ばかりを振ったり、厳しく指導したりすることがないチームは、絶対に大きな成果を上げることはできません。

 チームにとっても個人にとっても、成長とは、困難なことや限界にチャレンジしたときに、その対価として得られるものだからです。

 ただし、好かれなくてもいいとはいっても、あまりに厳しすぎる指導をしたり、威張り散らして嫌われるような行動を取ったりしてもいい、ということではありません。

 つまり、チームの成果を出すために、リーダーとして正しいと思うことを貫く、ということであり、それが、必ずしもメンバーにとっては心地いいとは限らない、ということです。

■正しいことをしていれば嫌われない

 しかし、逆説的になりますが、正しいことをやり抜くリーダーは、ある局面ではメンバーには厳しいリーダーと思われることがあっても、最終的に「嫌われる」ことはありません。

 メンバーは、リーダーがどこを見て仕事をしているのか、何を優先しているのか、いざというときに保身に走るのか、自分たちを守ってくれるのかを敏感に感じ取ります。

 摩擦を恐れず正しいことを貫こうとする姿勢や情熱は、メンバーにもきちんと伝わり、理解と協力を得られるようになるものです。

 そう信じて、リーダーとしての意志を貫く強さを持ちましょう。

 リーダーになったばかりのあなたは、日々忙しくしていることと思います。おそらく、あなたの周りのリーダーも同様でしょう。

 リーダーはメンバー時代と比べてやることも多いので、忙しくなるのは当然です。しかし、あなたがめざすべき究極の姿は「暇であること」です。

■「暇であること」をめざす

 あなたが日々忙しくしている、その仕事は何でしょうか。リーダーがやるべき仕事、リーダーしかできない仕事でしょうか。それともメンバーのフォローやメンバーからの相談など、メンバーに関連するものでしょうか。

 おそらく、メンバーの仕事に関連する仕事が多くを占めているのではないかと思います。

 ではなぜ、メンバーに関連する仕事が多いのでしょうか。それは、メンバーやチームの成長がまだ十分でないからです。

 リーダーの仕事は「判断」と「決断」の繰り返しです。メンバーは、自分の仕事についてリーダーに相談します。そして、「判断」と「決断」をリーダーに求めるのです。「どの案がいいでしょうか?」「A案でいいでしょうか?」など、1つひとつお伺いを立ててきます。これがメンバーの数と仕事の数だけ、発生する。だから、忙しくなるのです。

 では、チームが成長すると、どうなるでしょうか。

 メンバー1人ひとりが、主体的に「判断」と「決断」を下せるようになります。それまでリーダーの仕事であった「判断」と「決断」をメンバーが自分でできるようになるため、 そこから解放されるのです。

 これが、リーダーが暇になるという状況の真相です。

 メンバーがリーダーを頼ることなく、それぞれ自律して、自分たちの判断・決断で仕事をする。これが理想的なチームの姿です。

 ただ、多くのリーダーは、このことに気づいていません。メンバーからの相談で忙しくしていると、リーダーとして自分が求められていて、自分がいないとチームが回らない、という感覚を持ってしまいます。

 そして、そのように頼られるというのは心地いい感覚なので、その状態に満足してしまうのです。しかし、これはメンバーにとっても成長機会を奪われているようなものです。あなたは、ここに逆戻りしてはいけません。

 さて、チームを成長させ、暇になったあなたには、次のステージとして、会社から新しいチャレンジやミッションが与えられます。

 そうすると、そのチャレンジでまた忙しくなります。暇だったのは、ほんの束の間。ただし、それはあなたがリーダーとして評価された証しです。そして、また新しいチャレンジで暇になることをめざしてください。その繰り返しが、あなた自身を成長させ、ステップアップへと導きます。

 常に新しいチャレンジで忙しい、という状態をめざしましょう。

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最終更新:5/24(金) 12:02

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