建設・農業・医療・教育という「取り残された」産業にDXで革命を起こせるか?

3/14 5:02 配信

マネー現代

病気の集会所に行く!?

(文 大原 浩) まず、医療の問題から考えてみよう。

 今や健康でバリバリと働ける人々に対してリモートワークが普及しているのに、「病気」で体が弱っている人が、病院や医院に呼びつけられるのは不合理ではないだろうか? 
 そして、ようやく医院や病院にたどりついても「順番」で延々と待たされる。「予約」をしているにも関わらず、かなり待たされることも多い。

 最近は順番待ちシステムの導入などで、「いつまで待てばよいのか」ある程度目安がつくだけましかもしれないが、「患者フレンドリー」などとはとても言えない。

 根本的に(患者の生殺与奪のカギを握る)「医師が偉い」のに対して、患者は「偉くない」から「お医者様」の都合に合わせるのが当然という文化が存在することが大きな原因だと思われる。

 かつては「医師が患者のところまで『参上』する」往診が珍しくなかった。患者が寝床に伏して動けない場合も多いのだから合理的な手法である。

 もっとも、「医師の人件費」は驚くほど高いから、移動に時間を費やすのは無駄だという考えもあろう(医師の人件費を下げるためには、医学部の増設や医科大学の新設を行うなどして必要充分な人数を確保するなどの手法がある)。

 確かに、大学病院などの本格的設備は自宅で準備できない。しかし、開業医が聴診器を使い、問診や顔色を見る(さらにはレントゲン車による撮影)などの「診療」は基本的にどこでもできる。「健康診断」が学校の体育館や企業・公共団体などの集会所で行われることを考えればよくわかる。

 もちろん、オンライン診療も全く不都合が無い。

 コロナ騒動の際、開業医たちは1月2日公開「医は『仁術』はもはやオワコン。医療業界の利権構造が善良な現役世代を苦しめている」3ページ目「『敵前逃亡』?」で述べ当たように、感染症を理由に「診療拒否」を行っている。

 確かに、病院や医院は風邪から死に至る病まで「感染症」に罹患した人々が「集積」する場所だ。したがって、そのような「危険エリア」に「病気で免疫力が低下した人々」を呼びつけることには大きなリスクがある。

 「感染症拡大」を防止するためにオンライン診療は極めて合理的であり、待合室のスペース、さらには患者の交通費や多大な労力も低減することができる。

 現在では、各家庭に概ね体温計や血圧計が常備されており、アップルウオッチで心電図までとれるから、その気になれば家庭でかなりの「検査・診断」が可能だ。もちろんこのような機器の進化は今後も続く。

 実際、医療業界は2022年12月28日公開「ローテクかつ利権でがんじがらめの医療業界を救うのはテクノロジーだ」、2021年8月28日「病根はここだ! コロナ緊急事態を契機に非効率な『医療制度』を改革すべし」のように、旧態依然としたシステムを「既得利権」のために死守し、その無駄な費用を国民に支払わせている。

 オンライン(遠隔)診療に開業医などが後ろ向きであることがその象徴だが、これを普及させなければ医療業界の未来は暗いと言わざるを得ない。

黒板とチョークからの進化

 開業医が、いまだに19世紀以来の「聴診器時代」(1816年にフランス人の医師が使い始めたとされる)を生きているのと同様に、教育業界も古代ギリシャ以来の「講義型式」から進化していない。黒板とチョークがホワイトボードとペンになり、さらにはPCとプロジェクターになっても、受講生の面前で講師が講義(授業)を行うスタイルには変化が無い。

 また、研究者に必要な資質と教育者に求められる資質は全く違う。研究者が教育を行う大学は、根本が間違っているといえよう。

 さらに、生徒は「最も優秀な教育者」の授業を受ける権利がある。目の前の講師(先生)が授業を行うこれまでのスタイルであれば、物理的制約から生徒が「ベストの講師」を選ぶことは困難であった。

 しかし、今や生徒たちは、サテライト・インターネット授業で多数の講師の中から選択することが可能になっている。

 2020年8月8日公開「人間がAIにとって代わられて当然になる『職業』は、これだ!」5ページ目「高い『地位』にあると思われた職業も」で述べたように、少数の「優れた教育者」に需要が集中すると考えられる。

 もちろん、受講する生徒の個性やニーズはそれぞれ違うから「一人だけ」に集中することは無いだろうが、生徒側の「選択の権利」は最大限に生かされる。

 つまりこれまで「講師(教師)」を否応なく割り当てられてきた生徒たちが「教師を選ぶ」時代に入るのだから、「実力」の無い教師は淘汰されるということだ。

 また、昨年5月1日公開「学歴バブルはいつ崩壊する!? ホワイトカラー無用の時代がやってくるぞ」のように、これまで有難がられてきた「大学の卒業証書」も、文部科学省の2023年度・学校基本調査によれば、大学進学率が57.7%と過去最高を記録し希少価値が薄れている。

 教育業界においても、DX化などで合理化をしなければ生き残れないであろう。

農業の工業化が急がれる

 米穀機構・米ネットによれば「弥生人も田植えをしていた」そうである。

 稲作において、直播に比べて田植えが革新的技術であったことは間違いが無い。しかし、少なくとも弥生時代に遡ることができる古い技術だ。また、農作業の中でも田植えは過酷な労働の一つとして知られる。

 そこで、農研機構 2014年4月23日「注目の水稲直播技術」のように、「鉄コーティング」のような新しい技術を利用した「新時代の直播」が注目されている。

 また、2023年1月28日公開「ヤバすぎる『日本の農業』…『危機的状況』を大転換する『たった一つの方策』」、2023年2月18日公開「ヤバすぎる『日本の農業』、じつは『3つの要素』を満たせば『一気に飛躍』する可能性を秘めていた…!」で述べたように、「衰退産業」とされることが多い農業の飛躍のためには「工業化」が必須だ。

 その工業化のためには、工場と違って「屋外」で行われることが多い農業の、天候などによる「個別状況」に対応する「DX化」が必要である。

 工業も、「手工業」のままであったら、衰退していたかもしれない。農業も、「DX化」を伴う工業化によって飛躍すると考える。

建築も工業化へ

 2022年7月3日公開「『3Dプリンターの家』で高すぎる日本の住宅は激安時代へ?」、昨年8月15日公開「既存の住宅は建築の『製造業化』『DX化』で価値激減の運命にある」、2月25日公開「住宅業界の『ヘンリー・フォード』は誰だ、高すぎる現在の住宅に工業化の波」など多数の記事で、現在の建築コストが高すぎる問題について述べた。

 世界最古の「会社」は、2021年2月8日公開「1400年の歴史、世界最古の会社が日本に存在している…!」で述べた、聖徳太子によって百済から招かれた金剛重光により創業された金剛組である。

 日本の伝統工法の技術水準の高さには驚かされることも多いが、逆に言えば飛鳥時代からたいして進化していないとも言える。

 農業同様、「屋外」で作業が行われ、地盤、地形、気候などに左右される「個別性の大きさ」が効率化を阻む原因だと考えられる。

 それに対応するのが、前記記事でも述べたプレハブ化、3Dプリンターなどである。今後のインフレによる建築費の高騰は避けられないだろうから、「コスト削減のための合理化」も加速するはずだ。「カイゼン」によるコスト削減は日本のお家芸といえる。

 また、建築に多大なコストがかかる理由には、「測量・設計」の非効率さもある。

スマホで高度な3次元測量

 例えば、測量の歴史は、東京法経学院 2020年12月20日「【測量技術の歴史】測量は紀元前3000年のエジプトから存在していた」で述べられているように古代までさかのぼれる。

 また、国土全体を覆う様な(以前は街角でしばしば見かけた)近代的三角測量の歴史も、ルイ王朝の時代にまで遡るとされる。

 この測量において、現在、LiDARというレーザーを使用した画期的装置が使われ始めている。

 その素晴らしい性能は、例えばナショナルジオグラフィック・チャンネル 2月29日「ベールを脱ぐマヤ」で証明されている。これまで密林に覆われ、その全貌が不明だったマヤの遺跡の全体像をLiDARの計測で明らかにしたのだ。

 前記番組で使われているLiDARは持ち運びが可能ではあるが、それなりの大きさである。

 しかし、実はiPhoneならびにiPadにはLiDARセンサーが内蔵されている。オプティム 2022年9月30日のプレスリリースによれば、同機能を用いて手軽に3次元測量を行えるアプリ「OPTiM Geo Scan」を2021年に提供開始。すでに多くの現場で活用されているとのことだ。

 このように測量データをスマホで収集し、ネット環境で共有できることによって、これまで多大な労力が必要であった「測量・設計」の工程を大幅に合理化することができる。また、熟練労働者も必要が無い。

インフレによる取り残された産業の「革命」

 1990年代から始まったIT・インターネットの普及はまさに「革命」であった。だが、それでもその変化は「産業全体の一部」に起こったに過ぎなかった。

 これからは、医療、教育、農業、建築などその革命に取り残されているかのように見えた産業において「革命」が起こる。

 これまでのデフレ時代には「高コスト体質」が見過ごされていた業界でも、インフレが進行すれば「DX化」によってコスト構造を根本的に見直さなければならなくなり、それが起爆剤となる。

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最終更新:3/14(木) 5:02

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