線路を守る東鉄工業、「失敗ができる」唯一の場所とは?リアルな実習線に「架空の駅」、本物の大型保線機械も

4/18 4:32 配信

東洋経済オンライン

 首都圏のJR線に乗っていて、なにげなく窓の外を眺めていると、線路脇の大型保線機械を目にすることがある。

 その側面の「TOTETSU」「東鉄工業」の文字は、通勤通学などで毎日電車を利用する人にとっては無意識のうちに記憶に刻まれているに違いない。

■鉄道に強いゼネコン

 東鉄工業は鉄道関連のメンテナンスや土木、建築を手がける総合建設会社。もとは1943年に鉄道省の要請で関東の建設業者が設立した国策会社「東京鐡道工業」が始まり。現在の名工建設(名古屋市)や第一建設工業(新潟市)、大鉄工業(大阪市)などもこのころ誕生している。

 戦後の1952年に商号を東鉄工業に変更。1962年に東京証券取引所2部に上場、1972年に1部に指定替えした。現在は東証プライム市場に所属する。2023年3月期の連結売上高は1246億円で、4分の3を鉄道関連工事が占める。JR東日本との結びつきが強く、2022年11月に同社の持分法適用会社となったが、ほかの鉄道事業者の工事も実績を着実に増やしている。

 レールやマクラギの交換などメンテナンス工事を担う「線路部門」、橋梁や立体交差、ホームドア関連を中心とする「土木部門」、駅関連施設などの「建築部門」が収益の柱。建物の屋上・壁面の緑化事業をはじめとする「環境部門」も力を入れているという。

 本社は明治神宮外苑に近いJR中央本線・信濃町駅に直結したビルにある。同社は東京ヤクルトスワローズのオフィシャルスポンサーで、神宮球場の外野フェンスに大きく書かれた社名が存在感を示している。

 2022年4月、茨城県つくばみらい市に「東鉄総合研修センター」を本格稼働させた。最寄り駅はつくばエクスプレスの区間快速で秋葉原から約40分のみらい平。そこから徒歩約10分、紫峰ヶ丘の一角にある。紫峰ヶ丘は2024年の地価公示結果で上昇率が県内1位の地点がある住宅地で、周囲には真新しい一戸建てが建ち並ぶ。

 研修センターは広さが約4万㎡。神宮球場のグラウンドが3つ入る面積の敷地に、教室や宿泊設備を備えた研修棟、土木・建築の実寸大模型を用意した実習棟のほか、屋外に駅のホームや踏切、トンネル、総延長約830mの4本の線路からなる実習線がある。「実習線を備えた研修施設としては、国内トップクラスの規模」(同社)という。全長40mのホームには「紫峰ヶ丘」の駅名標がある。

■実習用の大型保線機械も

 レールは外部とつながっていないが、道床バラスト(砕石)をつき固める「マルチプルタイタンパ」や道床を整える「バラストレギュレータ」、資材を運ぶ「軌道モーターカー」といった大型保線機械も実習用に配備。それらのメンテナンスを学ぶ検修庫もある。脱線などを想定した異常時復旧訓練もここで実施している。

 研修センターの大きな特徴が研修棟に設置した安全研修室だ。過去に同社で起きた重大事故を展示や映像、VR(仮想現実)で学ぶことができる。同社人材開発部の村岡正部長は「本来なら隠したくなるような事故であっても、原因や背景を正確に情報開示することが安全面の向上につながると考えている」と説明する。

 研修センターでは10人ほどの専任講師のほか、現場の所長や主任クラスの約100人が兼任講師を務める。陣川博朗所長は「兼任講師によって教える側の層も厚くなっている。昔は先輩の背中を見ながら自分で学ぶものだったが、個人の能力や配属された現場によってバラツキがないように基礎をしっかり教えて一人前に育てるのが研修センターの役目だと考えている」と語る。

■「失敗できる」メリット

 施設は自社グループだけでなく、協力会社の社員の研修や資格の取得、業界関係者の見学などで幅広く活用する。高校生や大学生のインターンシップといった採用面にも役立てるほか、地域住民向けの「ふれあいイベント」や小中学生向けの職業体験も開催している。

 実際の営業線でのメンテナンス工事は、夜間の終電から始発電車までの限られた時間内に終わらせなくてはならない。陣川所長は「『失敗ができる』というのが研修センターの大きなメリット。昼間にゆっくりと確認をしながら実習することができる」と強調する。

 最近では線路部門は2023年8月開業の芳賀・宇都宮LRTの軌道、2024年3月開業の北陸新幹線敦賀延伸のレールの敷設などの新線工事に携わった。土木・建築部門は鉄道インフラの耐震補強工事で強みを発揮する。村岡部長は「研修センターを活用して人材育成を強化し、さらに難易度の高い工事にも挑戦していきたい」と話す。

 業界を問わず人手不足が深刻化するなか、充実した研修施設やカリキュラムを用意できるかが、人材確保のカギを握ることになりそうだ。

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最終更新:4/18(木) 5:36

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