「明るい廃墟」と呼ばれたモール「ピエリ守山」はなぜ復活できた?《楽待新聞》

6/8 11:00 配信

不動産投資の楽待

滋賀県・琵琶湖のほとりにある大型ショッピングモール「ピエリ守山」。かつて、空き店舗が多く人出も少ない中、照明だけが煌々と灯っている様子などから「明るい廃墟」とインターネット上でも話題になった施設だ。

2008年の開業から数年で客足が遠のき、2014年に全館休業に追い込まれたが、いま再び、週末には家族連れでにぎわう場所へと変貌を遂げている。

再生までにはどのような道のりがあったのだろうか。現地を訪ね、復活の舞台裏を追った。

■ピエリ守山とは? 廃墟化した過去

滋賀県守山市に位置するピエリ守山には、現在、温浴施設やフィットネスジムなど約130のテナントが入居している。

施設概要は以下のとおりである。

所在地:滋賀県守山市今浜町2620-5
開業日:2008年9月(2014年12月リニューアル)
敷地面積:約13万3367平米
商業施設面積:約4万4000平米
駐車台数:約2800台(無料)
店舗数:約130店舗

鉄道駅からは距離があり、JR守山駅からはバスで約30分、JR堅田駅からも同様にバスで約15分かかる。両駅から無料シャトルバスが運行されているものの、1時間に1本と限られるため、来場者は自家用車を利用するケースが多いとみられる。

ピエリ守山は2008年9月に「琵琶湖クルージングモール ピエリ守山」として開業した。約200店舗が出店し、初日には約5万人が来場。周辺道路には「ピエリ渋滞」と呼ばれる長蛇の列ができるほど、盛況なスタートを切ったという。

しかしその後、客足は徐々に減少し、テナントの撤退が相次いだことで、2013年には、わずか数店舗を残すのみとなっていた。

広大なモールの館内には人影がほとんどなく、それでも照明だけは煌々と点灯し続ける……。そんな異様とも言える光景から、ピエリ守山は「明るい廃墟」と揶揄され、インターネット上でも話題となった。

そしてついに、2014年2月には残っていた店舗もすべて閉店。全面リニューアルに向け、モールは一時休業を余儀なくされた。

■どうしてこうなった? 衰退の背景

開業からわずか数年で「廃墟」と呼ばれるまでに衰退した背景には、外部環境・競合・運営・立地と、複数の要因が複雑に絡み合っていた。

まず、開業直後に発生したリーマンショックで、消費マインドが大きく冷え込んだことが背景にある。

そして、ピエリ守山のオープンからわずか2カ月後には近隣に「イオンモール草津」や「フォレオ大津一里山」が相次いで開業し、それが追い打ちをかける形となった。とりわけ「イオンモール草津」は、映画館や温浴施設を備えた西日本最大級の滞在型モールとして、ピエリ守山を上回る集客力を持っていた。

こうした中、運営面においても不安定な状況が続く。2010年に開発元の大和システムが経営破綻。2012年には三重県の企業に売却されるも、抜本的な再建には至らず、結果としてテナントの撤退と来館者の減少が続き、「明るい廃墟」と揶揄される状態に陥った。

立地にも問題があった。鉄道駅からのアクセスはバス頼り、湖西エリアからは有料の琵琶湖大橋を渡る必要があるなど、来訪の心理的ハードルが高かったのだ。

加えて、館内構造にも改善の余地があり、回遊性や滞在性に乏しかったことも来館者の定着を妨げたようだ。

実際、再生を担った関係者は「当時のピエリ守山は、回遊しにくい構造やテナント構成の偏りなど、お客さまの期待に応えられていなかった」と振り返っている。

そんなピエリ守山は、今どうなっているのか。現地を訪れ、現在の姿を確かめた。

■現地で見た、ピエリ守山の今

訪れたのは、日曜日の昼時。駐車場は建物から離れた区画には空きがあったものの、近い区画はすでに満車。なんとか近くに停めようと場内をぐるぐる巡り、ようやく空きを見つけることができた。

館内に入ってまず印象的だったのは、空間の明るさと開放感だ。吹き抜けの天井が高く、白を基調としたタイル床が光をよく反射しており、フロア全体に清潔感もある。

週末ということもあり、館内を歩く来場者の多くは家族連れで、全体がにぎわいを見せていた。

中でも2階のフードコートは混雑していて、ほぼ満席。空席を探す来場者の姿も目立つ。

さらに、1階に出店した滋賀県第1号店である「バーガーキング」には、20人以上の行列ができており、ほかの店舗ではあまり見かけないような混雑ぶりも印象的だった。

館内を歩いていると、4月下旬にオープンした「プーマ」や「トレファク」など、新規テナントの姿も確認できる。今後開店予定の区画もいくつか見られ、施設として今もなお、来場者を惹きつける工夫を重ねているようだった。

また、食料品などを扱う大型スーパーマーケット「TOKUYA」も入居しており、同施設の駐車場が無料という点も含め、日常生活の利便性に主眼に置いた施設づくりがされていると感じた。

そして、琵琶湖沿いの立地というこの施設ならではの魅力も生かされている。

モールから望むレイクビューは開放感にあふれており、温浴施設には次々と来場者が入っていく様子が見受けられた。

リニューアル前にはなかった「滞在型コンテンツ」が、現在では施設の核として機能していることだろう。

もちろん、大阪にある大型モールと比べれば、館内の人通りはそこまで多くはない。それでも、かつて「明るい廃墟」とまで揶揄された時期を思えば、現在のにぎわいはまさに「復活」と呼ぶにふさわしいものだった。

■「日常遣いができる施設」として復活

2014年2月末、同施設は全館休業に追い込まれたが、その後、再生プロジェクトが本格始動。同年12月のグランドリニューアルオープン初日には、約4万3000人が来場するなど、大きな反響を呼んだ。

ピエリ守山はなぜ復活できたのか。再生に乗り出したのは、不動産デベロッパー「サムティ」と、双日グループ「双日商業開発」だ。

再生の軸となったのは、「競合にない魅力の創出」である。

まずハード面では、テナント構成を刷新。「H&M」「ZARA」「Gap」などの海外の人気ファンションブランドを県内でいち早く誘致し、前述の「バーガーキング」など話題性のある飲食店も導入した。

さらに、琵琶湖畔という立地を生かし、滞在型の娯楽施設も強化。

レイクビューの温浴施設「守山湯元 水春」やフィットネスジム「B-fitスポーツクラブ」、屋外アスレチック「Biwako SKY Adventure」、フットサルコート「サルンボ フットサル」などの新設は、ショッピング以外の体験価値向上に貢献した。

ソフト面でも多様な施策が展開された。リニューアル直後には、著名アーティストを招いたイベントを開催。約3000人が集まる様子がSNSでも拡散され、話題を呼んだという。

2018年には双日商業開発が施設の不動産そのものを取得し、オーナー企業となった。運営・戦略の主導権を握ったことで、「週末の特別な目的地」から「日常でふらっと立ち寄れる場所」への再定義も進んだ。

掲げたテーマは「なんとなくのピエリ守山」。いかに日常使いをしてもらうかを念頭に、平日割引、子育て世代向けのイベント開催、琵琶湖一周サイクリングコース「ビワイチ」と連動した施策など、地域に根差した生活の拠点としての色合いを強めていった。

そして、こうしたハードとソフト両面における再生戦略が奏功し、2025年現在、テナント数は約130店舗にまで回復。週末には多くの家族連れでにぎわいを見せるようになった。



ピエリ守山の復活は、バリューアップ投資の好例と言えるだろう。かつて「明るい廃墟」とまで呼ばれた施設に潜在する価値を見抜き、戦略的に磨き上げることで再生は可能であると示したからだ。

再生を成功に導いた要因は、競合にはないテナント構成、琵琶湖畔のロケーションを生かした体験価値の創出、日常遣いの目線にある。そして双日商業開発が途中からオーナー企業へと転じ、地域と長期的に向き合う運営体制へと切り替えたことも見逃せない。

短期的な損益ではなく、中長期の視点で地域との共存を図る。ピエリ守山の事例は、地方商業施設の再生におけるヒントと投資目線の重要性を教えてくれる。

山之内渉/楽待新聞編集部

不動産投資の楽待

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最終更新:6/8(日) 11:00

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