米国市場暴落、日本市場上昇は不可避か?
(文 大原 浩) バフェットからの手紙2024年の内容に関しては、すでに2月29日公開「バフェットからの手紙2024年~米国市場暴落は不可避か? だから日本市場へ」で触れた。
3月1日公開「日米ともに株価史上最高値、でも日経平均がダウ平均を上回ったことの方が重要」という状況の中で、バフェットが米国市場や日本市場、さらには世界市場をどのように見ているのかは、我々にとって大いに参考になる。
だが、今年の手紙にはそれ以外にも重要な内容があふれている。またより深く読み解くには、過去のバフェットからの手紙を理解することも必要だ。
今回は、色々な角度からバフェットの「真意」に踏み込みたい。
化石燃料も必要不可欠だ
バフェットは「脱炭素」に反対する立場ではない。例えば傘下のバークシャー・ハサウェイ・エナジー(BHE)は、Bloomberg 2022年1月20日「バークシャーが39億ドルの巨額投資提案、アイオワ州風力・太陽光発電」の報道を始めとして、風力、太陽光などのいわゆるクリーンエネルギーに対して多額の投資を行っている。
だが同時に、「化石燃料はこれからも人類にとって重要なエネルギー源」であるとの立場も崩さない。
松井証券 2月29日「バフェット氏の保有している銘柄トップ10|銘柄の選定基準とは?」によれば、アップルが50%と半分を占めているのを別格とすれば、前記「バフェットからの手紙2024年~米国市場暴落は不可避か? だから日本市場へ」4ページ目「5大総合商社、アメックス、コカ・コーラは手放さない」で触れた事実上の「永久保有銘柄」であるアメックス(7.2%)コカ・コーラ(7.1%)に遜色が無い水準で、シェブロン(5.9%)やオキシデンタルペトロリアム(4.6%)を保有している。
今年の「バフェットからの手紙」でも、2023年末にオキシデンタルペトロリアムの(普通株)27.8%を保有していただけではなく、ワラントも取得していることを述べている。
ロイター 2022年8月20日「米規制当局、バークシャーのオキシデンタル株最大50%取得を承認」と報道されているから、さらにオキシデンタル株式を買い増す公算が高い(ただし、「支配権」を取得するつもりは無いとのことだ)。
米国のエネルギー自給の重要性
moomoo 2月27日「バフェットが楽観的であるオキシデンタルペトロリアムの投資価値は何ですか」において詳しい分析がなされているが、今年の「バフェットからの手紙」においても、オキシデンタルへの投資と絡めて「米国の石油自給」について論じられている。
現在では「世界の原油(石油)生産量 国別ランキング・推移」で世界第1位の石油産出国であるのが米国である。
またジェトロ 昨年4月5日「米国の2022年の原油輸出量は過去最高を更新、エネルギー情報局発表」でもある。
だが、1975年当時の米国の産出量は800万バレル(BOEPD、barrels of oil equivale per day=1日あたり換算バレル)しか無く、その対策のため米国政府はSPR(Strategic Petroleum Reserve、戦略石油備蓄)を創設した。
だが、その後も状況は芳しくなく、2007年までにBOEPDは500万バレルまで落ち込む。
それを救ったのが、「シェール革命」である。これによって、米国の原油(エネルギー)海外依存が解消されたのだ。そして現在の米国のBOPEDは1300万バレルを超え、その中でオキシデンタルは重要なポジションを占めるというわけだ。
「手紙」の中で、バフェットは、数か月後、数年後、数十年後の原油価格などわからないと述べている。しかし、大事なのは数十年後も「米国経済にとって原油(天然ガス)が必要不可欠」だと考えていることである。
バフェットがコカ・コーラへの投資について語るとき、「30年後も人々はコカ・コーラを飲んでいるであろう」というフレーズをよく使う。
同じように「米国経済は30年後も原油(化石燃料)を消費し続けているであろう」というのがバフェットの考えである。
EV化の結末
バフェットのエネルギーに対するスタンスは、トヨタ自動車のEVに対する方針と似ているかもしれない。
トヨタ自動車は長年にわたって「EV化騒動」と距離を置いてきた。だが、決してEVを否定していたわけではない。ZAKZAK 1月4日拙稿「トヨタの〝本物〟を追求する手法『男は黙って全固体電池』 『騒動』から距離を置き…EVバブル崩壊の痛手なし」で述べたように、しっかりと「EV(電池)」の開発を行っていた。
バフェットが風力発電や太陽光発電などのいわゆるクリーンエネルギーにも投資を行ってきたのと同じだ。
だが、バフェットが「30年後も米国経済は原油(化石燃料)を必要とする」と考えていたのと同じように、「30年後も(日本だけではなく世界の)消費者は『内燃機関=エンジン』を必要とする」とトヨタは考えていた。
そのことが、2022年9月15日公開「ホンダが抱える『全面EV化』の巨大なリスク――『第2の日産』になってしまうのか」のホンダと明暗を分けたのである。
そして、昨年9月11日公開「ドイツを見よ! EV化の惨めな結末~フォルクスワーゲン減産、結局、脱炭素は『三流国』への道?」のような状況は、今やだれの目にも明らかである。
また、「手紙」の中で、BHEの「かなり悪い状況」について触れている。Bloomberg 3月6日「バフェット氏悩ます異常気象、電力会社との取引に『不吉なリスク』」で述べられているように、この問題は米国独特の懲罰的賠償などの「法律や司法制度の『欠陥』」にも大きく影響され、いったいどこまで問題が拡大するのか予想もつかない。
それでもバークシャー・ハサウェイが安泰なのは、シェブロンやオキシデンタルペトロリアムを始めとする他の傘下企業の業績が好調だからである。
5大総合商社も「準エネルギー株」
バフェットの原油を始めとする化石燃料の需要に対する「強気見通し」は、2020年9月4日公開「バフェットが認めた『日本の強さ』の正体…5大商社株式取得に動いたワケ」から2022年11月18日公開「バフェットも買い増し! 日本を牽引する独自の業態、総合商社『夏の時代』」に至る多数の記事で触れた5大総合商社への投資でもよくわかる。
今年の「手紙」では、5大総合商社への投資は、2019年7月に始めたと述べている。
つまり、2020年5月6日公開「原油先物マイナスでも『世界は化石燃料で回っている』と言えるワケ」冒頭「お金を払って買ってもらう?」で述べた、「2020年4月20日、WTI原油先物の5月限価格終値が史上初めて“マイナス”となった」10か月ほど前のスタートである。
総合商社各社は「非資源」ビジネスに注力してはいるが、それでも「資源ビジネス」への「利益依存度」は高い。その総合商社の株式を「原油先物がマイナス」の状況下でも売却しないどころか、むしろ好機と考えて買い増しを行ったバフェットの「確かな目」には驚かされる。
その後、総合商社への投資が大きく実を結んだことはよく知られているが、前記「バフェットからの手紙2024年~米国市場暴落は不可避か? だから日本市場へ」4ページ目「5大総合商社、アメックス、コカ・コーラは手放さない」のように、今後も保有を続ける見込みだ。
「準エネルギー株」とも言える5大総合商社(各社の資源依存度は異なる)をバフェットが高く評価していることが、「今後も化石燃料の重要性が変わらない」証の一つだと考える。
また、ロイター 昨年12月7日「米シェブロン、来年の石油・ガスプロジェクト投資11%拡大」とバフェットが保有するシェブロンも、石油・ガスの開発に積極的だ。
だが、それでも同記事によれば、「シェブロンとエクソンモービル合計の投資額は原油価格が1バレル=100ドルを超えることが多かった13年(計840億ドル)の約半分となっている」のである。
化石燃料への投資は、「米国や世界の将来の経済」のためにも、もっと積極的に行うべきだというのがバフェットの考えではないだろうか。
インフレは投資家最大の敵だ!?
化石燃料が今後も重要であるということは、化石燃料の価格上昇がすなわち「エネルギー価格の上昇」につながるということだ。食料とエネルギー価格の上昇がインフレの主たる牽引役である。
いくら食料価格が高騰しても、マリー・アントワネットの発言(実は本人は言っていない)とされる「ごはんが無ければ、お菓子を食べればいいのに」という訳にはいかない。どれほど価格が高騰しても、人間は食料なしでは生きていけない。
同じように、エネルギー無しで社会生活は営めない。今でもかなりの部分が化石燃料で生み出される電気無しでは、スマホが使えないし、電車も走らない。
もちろん凍てつく冬の暖房にも、熱中症になりそうな夏の冷房にもエネルギーは必要不可欠だ。
さらには、食料を輸送するトラックを始めとする交通機関にもエネルギーが重要である。
今年の「手紙」には直接的なインフレへの言及は無いが、半世紀以上にわたる「バフェットの手紙」の中では、インフレの与える「投資家への負の影響」について頻繁に述べられてきた。
インフレとは、100万円であったはずの資産がいつの間にか、(実質的価値で)90万円、80万円、70万円……と減少していく恐ろしい現象である。
バフェットは、投資家は「インフレによる(資産価値の)減少分」を補うことが、まずやるべき仕事だと述べる。
来年以降の「手紙」の中で、バフェットがインフレに対してどのように言及するのかが注目される。
マネー現代
最終更新:3/21(木) 5:02
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