読売新聞社記者などを経て、働きながら独学で司法書士試験、公認会計士試験に合格した石動龍氏による連載「あらゆるスキマ時間で集中学習! 無駄ゼロ独学術」。エンターテインメントコンテンツのポータルサイト「アルファポリス」とのコラボによりお届けする。
■勉強のつらさは大したことない
どんなジャンルでも、一流に触れることは、大きな学びになります。
大学を卒業して新聞記者になったとき、人の話を聞く機会に多く恵まれました。
スポーツ選手、国会議員、大会社の経営者、作家など、数多くの成功者に会い、苦労したこと、成功できたポイントなど、それぞれのエピソードを興味深く聞きました。それなりに記事にしてまとめたものの、どこか遠い世界の物語と感じていました。
私はスポーツ、勉強、仕事など、いわゆる「普通」の人生で触れるイベントは、それなりの努力をして、人並みにできていたように思います。
ところが、高い目標を実現しようと考えたとき、見える風景が一気に変わりました。
学生のころ、総合格闘技に本気で取り組んでいたものの、プロ選手にはなれませんでした。
社会人になり、運動不足が気になっていたことから、趣味にしようと軽い気持ちでブラジリアン柔術を始めました。
最初は週に1回程度の練習でしたが、気づけばすっかりはまってしまい、練習は週に5日、毎月試合に出るようになりました。
新聞記者から転職して時間の余裕ができたこともあり、練習のペースはさらに増え、プロ格闘家が集まる練習にも参加するようになりました。気づけば、学生時代より、格闘技に真剣に向き合うようになりました。
当時、印象に残る一流選手が2人いました。
どちらも世界選手権での優勝を目指し、鍛錬を重ねていました。
1日に8時間以上心拍数が上がった状態をキープしていたり、相手を100回ギブアップさせるまで練習を終えなかったりなど、常人にはとてもマネできない内容で、一種の狂気をはらんでいたように思います。
目標達成への真剣な気持ちが並外れた努力になり、一般人のリミッターを大きく超えた状態でした。
2人は生活のすべてを捧げるような努力を何年も続けたものの、どちらも世界選手権の優勝には届きませんでした。
私も一時は格闘技で生計を立てることを検討していましたが、彼らの日常を目の当たりにするうち、「自分にはとてもできない」という思いが強くなっていきました。
ポッキリ心が折れる音が聞こえ、格闘技への情熱はすっかり冷めました。
2010年くらいのことだったと記憶しています。
その後、紆余曲折あり、資格試験を受けるようになるわけですが、つらい日々の中で、この経験が大きく役立ちました。
ジャンルは違いますが、これ以上できないレベルの努力を見たことで、苦しくなっても「彼らの努力に比べると大したことはない」と感じることができました。
■資格試験に合格するための正しい努力
その後も、プロミュージシャンになった人や、設立した会社を高額で売却した人など、様々なジャンルで成功した人に会います。
ある程度の成功を納めた人のなかに、努力していない人は1人もいません。
むしろ、人並み外れた努力をするのはチャンスをつかむための参加チケットに過ぎず、運や環境などが絡んで、成否が分かれる印象です。
はっきり言えば、資格試験に合格するための努力は、何かで世界チャンピオンになったり、一流のプロになったりするのに比べると、大したものではありません。
数年間は勉強を人生で1番の優先事項にする必要はあるかもしれませんが、命を削るほど大変なエネルギーは不要です。
それより、合格するために必要なレベルを正しく認識し、そこに到達するためのプロセスを淡々と繰り返すことが求められます。
一方で、正しい努力を適切に繰り返さないと、合格することは難しいです。
正しい努力は資格試験の種類によって異なります。
具体的に言えば、「本番で合格水準以上の点を安定的に取るために必要な努力」です。
これまで、私の経験を踏まえて、目標達成に必要な様々な情報を伝えてきました。
それは、あくまでも私が考えている内容であって、万人に当てはまるものではありません。取捨選択して、自分に必要な情報を取り組めばよいと思います。
とはいえ、結果が出ない人のうち、共通すると感じるパターンもあります。
この本の締めくくりに、絶対にやらないほうがいいと考える勉強法をお伝えします。
■理解するまで先に進まない
難関資格試験のもっとも多い失敗パターンは、「本試験にたどり着かない」ものです。
合格して人生を変えよう、と意気込んで勉強を始めても、早々に挫折してあきらめてしまう人が多いです。
かつて私が公認会計士試験の専門学校に通い、数カ月で通学しなくなったように、多くの人が専門学校に大金を払い、何の成果も出せずにいます。
当時、講師の先生に聞いたところ、試験を受験するのは入学者のわずか3割ほどと言われたように記憶しています。
この数字が正確かはわかりませんが、同じクラスで授業を受けていた人が毎週のように減っていったのは間違いありません。
試験前に挫折してしまう人のパターンはだいたい同じです。
たいていの人は、最初は順調にカリキュラムを消化していくものの、次第についていけなくなってノルマをためてしまい、そのうちに膨大な試験範囲を前にしてあきらめてしまいます。
あとには山積みになったテキストが残るだけです。
■範囲を1周終えると挫折する確率が大きく下がる
こうなる原因は、試験範囲を1周するのに時間をかけてしまっているからです。
これまで書いたとおり、特別な天才を除いては、範囲を1周しただけで合格レベルの知識を身につけられる人はいません。
普通の人は、何回も何回も同じ論点についてテキストを読み、問題を解くことで理解が深まり、合格に必要な実力をつけることができます。
1周してしまえば、あとは同じことの繰り返しになるので、2周目、3周目と周を重ねるごとに負担が減っていきます。
体感ですが、範囲を1周終えた人が挫折する確率は大きく下がるように思います。
実際、私が税理士試験のサポートを行っている受験生も、これまでの数年間は1度も試験範囲を終えることができず、受験までたどり着きませんでしたが、試験範囲を1周したあとは勉強が効率化して速度が上がっており、挫折しそうな気配はありません。
この観点から、絶対にやってはいけない勉強法は、「納得して理解するまで先に進まない」という勉強法です。
普通の人は、努力して記憶したことも、少し時間が経つと嘘のように忘れてしまいます。
高校時代に勉強した古文や数学の内容に継続して触れていなければ、ほとんど忘れてしまっている人も多いのではないでしょうか。
そのため、テキストを1周しただけでは内容を理解することはできません。
大学受験など、成功した過去の勉強体験を振り返っても、模試や教科書の読みこみを繰り返し、何度も同じ内容を学んでいたはずです。
それにもかかわらず、資格試験になると、一定割合の人が、テキストを最初から読み始め、納得するまで理解してはじめて、次の論点に進むスタイルで勉強しようとします。
難関資格試験は範囲がとても広く、覚えるべきことも相当な量になります。
普通の人は1つひとつの内容を細かく覚えることは無理なので、ある程度理解したらどんどん次に進み、何度も同じ論点に触れることを重視すべきです。
人によっては、勉強期間中に1周だけ試験範囲を学び、本試験に臨む人もいるようですが、その方法では合格する可能性は低いでしょう。
それは極めて単純な理由で、1回で難しい内容を覚えられる人はいないからです。
■勉強の開始を遅らせる
もう1つ、やってはいけない勉強法として挙げられるのは、「何種類もの勉強法やテキストを参照し、勉強を開始するのが遅くなる方法」です。
難関資格試験の本番は、たいてい年1回です。
落ちたらもう1年になるので、早く動いて努力を重ね、実力をつけていくことが必要です。
いろいろなテキストや勉強法をつまみ食いのように参照し、いたずらに準備に時間をかけてしまうと、勉強にかけられる時間が少なくなってしまい、本番までに間に合わなくなる可能性があります。
最初から完璧な計画を立てることは不可能なので、まずは問題とテキストに触れるようにして、トライ&エラーの要領で修正していくべきです。
動きだしを早くすることがスケジュールの余裕を生み、ノルマをこなせなかったときのバッファにもなります。
逆に、のんびり準備することにメリットはありません。
やると決めたらその日のうちに動きましょう。
■楽をして合格する方法は存在しない
これまで、私の経験を踏まえて、難関資格試験に合格する方法について書いてきました。
最後に伝えたいのは、「楽をして合格する方法は存在しない」という当たり前のことです。
ジャンルに関係なく、困難な目標を達成する方法は、努力の積み重ね以外にありません。
そして、資格試験は運の要素が絡む割合は相対的に大きくありません。運に見放されたことがあったとしても、何年も連続で不運を原因に失敗することはありません。
連続で落ち続けるなら、それは単なる実力不足であり、努力が足りないか、努力の方向性が間違っているだけです。
本気で取り組み、現在地を確かめながら実力をつけていけば、いつか必ず目標はかないます。
そして、現在のところ、難関資格試験には人生を選べるようになるという十分なリターンがあります。
やるかやらないか、それはあなたの気持ち1つです。
合格はあくまで通過点に過ぎず、学びは一生続きます。
大らかな気持ちを持って、楽しみながら苦しい日々を乗り越えましょう。
アルファポリスビジネスの関連記事
独学のプロが「資格を取ると人生が変わる」と断言する理由「たった1年で」難関資格試験に合格する、すごいスケジュール資格勉強で「頑張ってるのに結果が出ない人」に足りないこと
東洋経済オンライン
最終更新:5/15(水) 16:02
Copyright © 2024 Toyo Keizai, Inc., 記事の無断転用を禁じます。
© LY Corporation