パウエル議長のタカ派転換始まったばかり-6万件のヘッドライン示す

4/30 14:22 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): 言葉には力がある。米経済にとって最もそれが当てはまるのはパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言だ。

ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の「Fedspeak指数」によれば、パウエル議長が昨年12月に利下げに向けた急転換の可能性を示唆したことで、金融市場で相場上昇をもたらし、米経済をリセッション(景気後退)入りから救った。

同指数は連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の記者会見や講演などでの発言を報じたブルームバーグ・ニュースの6万件余りのヘッドラインを基に、自然言語処理(NLP)アルゴリズムで算出したものだ。当局のコミュニケーションのセンチメントを数値化する。

リセッション回避は良いが、それには落とし穴があった。パウエル議長のハト派的転換から約4カ月が経過し、需要は力強く推移してインフレ率は当局目標を上回ったままで、議長はタカ派姿勢への反転を余儀なくされている。

パウエル議長は4月16日のパネル討論会で、「景気抑制的な金融政策が作用する時間をさらに与えるのが適切となるだろう」と述べ、利下げの可能性はさらに先送りされた。

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これは正しい方向の動きだが、議長の12月のハト派転換でもたらされた景気刺激効果の一部が取り消されたのに過ぎないことがFedspeak指数から分かる。インフレ抑制には一段の取り組みを要するというわけだ。

このためBEでは、5月1日まで2日間の日程で開催されるFOMC会合で一段とタカ派的な文言が用いられ、このところの債券利回り上昇を後押しする可能性もあると見込んでいる。

景気堅調の説明

1年前のBEの見解や市場のコンセンサスは、インフレ抑制にはリセッションの代償が伴い、それは2023年末前に始まる可能性があるというものだった。だが、実際の展開は違った。

23年下期(7-12月)の米経済は力強い成長となり、今年1-3月(第1四半期)の実質GDP(国内総生産)伸び率は予想を下回ったものの、引き続き景気堅調を示す内容となった。

オバマ政権で大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたジェイソン・ファーマン氏はGDP統計について、「経済の実体面は非常に健全である一方、名目面は過熱しているというのが結論だ」とソーシャルメディアに投稿した。

1年前の予想が外れたのには三つの説明が考えられる。まず現代貨幣理論(MMT)の提唱者が指摘するのは、金利上昇が消費者の所得を押し上げているという説だ。それが正しいとすれば、米利上げは成長の重しではなく推進力であり、インフレ抑制のための答えは利下げということになる。

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これは市場の関心を引く刺激的なアイデアだが、理論的にもデータによっても裏付けは困難だ。

2番目の可能性は米経済の潜在成長率と、インフレ抑制に必要な金利水準がいずれも上昇したというものだ。クリーブランド連銀のメスター総裁は3月、主要政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の中立水準が「上昇した可能性がある」との見解を示した。

実際にそうだとすれば、米金融当局が22年3月から23年7月まで進めた計5.25ポイントの利上げではインフレ抑制に不十分で、追加利上げが必要ということになる。

理論的にはこうした可能性はあるだろう。米国には過去3年間に何百万人もの移民の流入があり、労働力人口の増加につながるのは確かだ。バイデン大統領の産業政策は米製造業の再興を目指したものであり、人工知能(AI)など新技術は生産性の大幅向上が期待される。

しかし、実際のデータ面でこのアイデアを支えるものはほとんど見当たらない。移民が労働力に組み入れられるには時間がかかる。また、投資の伸びはトレンドを下回っており、AI主導の生産性急上昇は事実というよりもSFの領域にとどまっている。

このため、BEが最有力視するのは、パウエル議長による昨年12月のハト派転換という3番目の説明だ。

パウエル議長は12月のFOMC会合後の記者会見で、極めてハト派的なトーンを打ち出した。議長は利下げの条件について議論したと認め、行動するためにはインフレ率が2%に達するのを待つ必要がないとし、市場にサプライズをもたらした。

金融当局は実際に政策を転換することはなく、FF金利の誘導目標レンジに変化はないが、パウエル議長の発言内容が変わり、それが重要なシグナルを発した。

Fedspeak指数は当局者発言のヘッドラインを「超タカ派的」から「超ハト派的」までの尺度で数値化するが、12月の議長発言を受けて指数はハト派に傾斜し、当局が最初の利下げ実施に顕著に近づいたことが示された。

市場および経済にとって、パウエル議長の発言は重要な意味を持つ。従来の想定よりも早期の利下げを予想し、米2年債利回りは12月13日の議長記者会見の前日時点の4.7%から、今年1月半ばには4.1%にまで低下した。こうした借り入れコスト低下の影響と、株価の上昇は経済全体に波及し、成長への新たな刺激となった。

パウエル議長の12月のハト派転換のサプライズがなかった場合、どうなっていたか確度をもって言い当てるのは不可能だが、米経済はリセッションに向かっていただろうというのがBEの見方だ。

パウエル議長のハト派転換は絶妙なタイミングで行われ、景気の下降スパイラルを防ぐのに十分な威力があった。残念ながら、そのつけを今払わなければならない。成長加速はインフレ加速を意味する。BEは、議長のハト派転換によってインフレ率が1年間に約0.5ポイント上乗せとなった可能性があると推計する。

歴史的評価

歴史的評価を意識するFRB議長にとって、避けるべき手本は1970年代の狂乱物価を招いたとして非難されたアーサー・バーンズ氏の例だ。12月のハト派転換で米経済をソフトランディング(軟着陸)の道筋に保つことができたのはメリットだが、成長加速でインフレも再燃させることで、パウエル議長の名声が傷つく恐れがある。

議長がタカ派姿勢に転換し始めたのは恐らくこうした背景があるからだろう。議長は4月16日のパネル討論会で、「最近のデータがわれわれの確信を深めるものでないことは明らかだ」とし、金融当局は「必要な限り」金利を据え置くことが可能だと語った。

Fedspeak指数もトーンの変化を捉え、タカ派の度合いが高まり、最初の利下げの可能性もさらに遠のいた。ただ、それでも昨年12月の議長のハト派転換でもたらされた緩和効果のほんの一部が解消されたのに過ぎない。

金融情勢の引き締めをもたらし、ディスインフレの軌道に戻すには当局がさらなるタカ派的サプライズを演出する必要性があるとBEはみており、そのプロセスは5月1日の議長の記者会見で始まる可能性がある。

そうなれば、23年初めからのパターンを繰り返すことになる。当時はシリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻を受けてハト派転換があった後、ショックが薄れるとタカ派に逆戻りした。今年の場合、6月11、12両日および7月30、31両日のFOMC会合、8月のジャクソンホール会合(カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム)もタカ派サプライズの機会となる。

市場が織り込む年内利上げ幅は23年末時点で計1.6ポイントだったのが、今年4月終盤には計0.35ポイントに減っている。統計上の効果でインフレ率は今夏にかけて鈍化する方向にあり、7月利下げの可能性はまだある。

ただその後、年末にかけてコアインフレ率が再び上向き始めると予想され、金融当局は7月の利下げを避けるかもしれない。その時点ではインフレ率が年率ベースで上昇しつつあり、11月の大統領選も迫っていることで、利下げの機会は年末まで閉ざされる可能性がある。

原題:60,000 Headlines Show Powell’s Hawkish Pivot Has Just Begun(抜粋)

--取材協力:Stephanie Davidson.

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最終更新:4/30(火) 14:22

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