テスラに逆風!EVはもうダメなのか?それでもテスラに期待する唯一無二の強みとは

4/24 5:56 配信

ダイヤモンド・オンライン

 米国の電気自動車(EV)テスラはもう「成長株」ではないのだろうか? 昨今のEV悲観論は理解しつつも、それでもテスラが成長しそうな理由を断言しよう。(未来調達研究所 坂口孝則)

● テスラに逆風!EVはもうダメなのか?

 このところ米国の電気自動車(EV)大手テスラに逆風が吹いている。同社は4月2日、2024年第1四半期(1~3月)の新車販売台数を発表した。43万3371台を生産し、38万6810台(前年同期比8.5%減)を販売(納車)したという内容で、市場予想を大幅に下回った。

 同社は販売減の理由を表向き、生産側の問題とアナウンスしている(中東・紅海の海運混乱による部品不足や、ドイツ工場で火災が起き操業停止したこと)。しかし、世界全体でEV需要が減少していること、中国EVメーカーの攻勢で競争が激化していること、値引き施策の効果が減っていることなどが要因にあると、関係者の一部は認めている。

 また、開発を進めていた廉価版EV(2万5000ドル程度)から撤退するとの報道もあった。イーロン・マスクCEOは、これを明確に否定するわけでもなく、微妙な反論をしている。高級車である現行モデルでは販売数が伸び悩むので、廉価版の発売が打開策になると考えられていたが、方針を転換する可能性はある。すでに中国のBYDなどが1万ドル前後のEVを販売しているからだ。

 そして、テスラは全世界の従業員の10%以上を削減する計画も明らかになっている。その数、約1万4000人にも上るという。この数年で従業員が倍増していただけに、反動が生じた格好だ。

 同社の株価は急落し、米国時間4月19日、年初来の下落率が40%を超える厳しい局面となった。S&P500の他の銘柄と比べても、不調ぶりが際立つ状況だ。

 さらに、テスラではない他の企業も、EVをめぐってはネガティブな動きがある。例えば、米アップルは10年前から取り組んできた自動運転EVの開発を中止した、と伝えられた。このニュースは、「あのアップルですら、EVの領域では未来を見られなかった」といったある種のショックを世界にもたらした。はたまた、大手自動車メーカーであるゼネラル・モーターズ(GM)やフォード、独フォルクスワーゲンもEVが計画通りに進んでいないことを認めている。

 テスラはもう「成長株」ではないのだろうか? EV市場にはうまみがないのだろうか? 本稿では、昨今のEV悲観論は理解しつつも、それでもテスラが成長しそうな理由を断言しよう。

 まず、個人的には生産から使用までの全工程を考えると、必ずしもEVのみが次世代の自動車として正解というわけではないと思う。環境負荷は使用時のCO2排出量だけを注目すればいいわけではない。また、バッテリーを含む部品の生産においては、強制労働や児童労働などの問題も横たわる。

 ただ、EV、ハイブリッド車(HV)、水素自動車など次世代車が普及・発展するかは極めて政治的な側面が大きい。現時点ではEVが政治的に選択されている。その建前の一方で、トヨタ自動車を筆頭にHVが再評価され世界的に売れているのもまた事実である。

● テスラの落ち込みはホンモノか

 ところで、筆者は仕事柄、株価や原材料価格の見通しについて質問されるケースがままある。「株価は予想できません」とか「原材料の価格を予想できるなら、先物取引で大もうけしていますから、こんな仕事していませんよ」などと答えるのだが、なかなか納得してもらえない。どうやら、むしろ適当な予想を吹聴する人の方が人気のようだ。

 私の仕事ではないが、毎日の日経平均やダウ平均株価の上昇・下落の理由を解説する仕事がある。「○○大臣の発言を受け」とか「先行き不安から売りが先行し」などの説明がなされるが、説明している側も、「そりゃ、さまざまな事情で上昇も下落もするだろうよ。毎日の変動なんて単純な言葉で説明できるはずがない」と思っているのではないだろうか。

 さらに言わせてもらうと、企業の先行きを解説するメディアは、私からすれば、健忘症なのではないかと思う。特定の企業を賛美していたメディアが、たった数カ月後には、その企業を“オワコン”のように語ったりするケースもあるからだ。もちろん、変化を機敏に捉えて大きく語ることも、人々に訴求するためには重要だ。ただ、もっと冷静に捉えて、中長期的な観点で考えたいものだ。

 短期的に見れば、中国経済が低迷している影響から、EVの売れ行きが下落することもあるだろう。HVが復活する流れもある。ただ、マクロで見れば、EVのマーケットが拡大していくことは明らかだ。

 2月末、イタリア政府がテスラの工場誘致に向け協議していると明らかにした。トラックのような商業車の検討を含めて詳細は定かではないが、テスラにとって戦略を練り直すための選択肢の一つになるかもしれない。いずれにしても、同社は将来の成長に向けて相当な先行投資をしているのも事実だ。イーロン・マスクCEOが掲げる「2030年に年間2000万台を生産する」(世界一の自動車メーカーになる)という野望は、達成時期がずれるかもしれないが、同社が来たるべきEV時代に大きなアドバンテージを持っていることは間違いない。

● サプライチェーンから見たテスラの卓越性

 筆者がテスラを興味深くウォッチしている最大の理由は、サプライチェーンの観点で内製比率を高める努力を重ねており、極めて面白いアプローチと評価できるからだ。

 日本の自動車産業は多層的なサプライチェーンで、多くの技術をサプライヤーに依存している。Tier0の自動車メーカーはコンセプトやデザイン、機能設計を行い、実際の部品設計はサプライヤーが行う。

 それに対してテスラはリスクヘッジの点からも、できるだけ内製しようとする。これはコスト面で考えると一見、不合理のようだが、徹底できれば大きな競争力を持つ。サプライヤーと交渉する際に、単なる値下げを要求するだけではなく、自社でも生産できるという“代替カード”を持っていることは優位である。

 テスラにだってもちろん、外部のサプライヤーに依存せざるをえない部品がある。しかし、同社が外部調達品の価格評価をする指標は、実にユニークだ。その指標とは、調達品価格を重さで比較するアプローチである。

 例えば、100gで100円の部品と、類似品に100gで200円の部品があるとしよう。全く同じ重さなのに価格が倍違う。「複雑さが違う場合、そりゃ当たり前だよ」と常識人は答えるだろう。ただ、テスラでは、これを指標化する。つまり、重さと価格を指数化することで、重さに対して高い調達品が抽出される。これを、無駄な加工を減らすきっかけにできる。

 原材料に関しても、自社で鉱山でも掘らない限り、他社からの調達に頼らざるを得ない。ただしこの場合も、イーロン・マスクはCEO自ら調達網の構築に努めている。中国や中南米のサプライヤーに飛んで行ったと思えば、独占的な契約を結んだりしている。サプライチェーンの構築が、いかに重要かを理解しているからだろう。こうした姿勢は他社のCEO(特に日本の社長)にはほとんど見られない。

 テスラの1~3月期の決算会見が、米東部時間の23日午後5時30分(日本時間24日午前6時30分)に開かれる予定だ。きっと、騅逝かぬ結果となるだろう。しかし、短期的ではなく中期的に天才(=マスクCEO)の成果を見る必要があるだろう。かつ、繰り返しになるが、次世代のサプライチェーンの在り方にも注目したい。

 少なくとも、テスラは応援する価値のある企業であると筆者は思う。そうしないと本当に、中国系のEVメーカーばかりが世界を席巻するだろう。だからむしろ、トヨタやホンダがEVで世界を圧倒するまで、意図的に応援すべき企業であるように私は思う。

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最終更新:4/24(水) 5:56

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