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EV大好き“都会派カネ持ちエリート”へ高まる憎悪…ついに大統領選の争点に!トランプの「誰も乗りたくない」発言を支持する「EV嫌いアメリカ人」が抱える不安と不満

4/5 6:32 配信

マネー現代

EVをめぐる分断

(文 岩田 太郎) 「弊社の製品がここまで大きく政治化される日が来ようとは、夢にも思わなかった」

 こう発言するのは、米自動車大手フォードの元最高経営責任者(CEO)であるビル・フォード会長である。自社EV製品に党派色がついてしまったことを嘆いているのだ。

 前編「EVがいつのまにか「上級国民」の乗りものになっていた…! フォード会長が「政争の具に堕ちた」と嘆くウラで、ついに判明した「アメリカ人がEV嫌いになった決定的なワケ」」で紹介したように、トランプ前大統領が、現職のバイデン大統領が目玉政策として推進するEV普及の失速を格好の政争の具にしている。

 11月の大統領選挙で返り咲きを目指すトランプ氏にとり、EVの不人気がバイデン氏の政策の信用性を攻撃する効果的な武器となっている。

 こうした状況を受けて、フォード会長はEVを軸にした政治的な対立構造に、不安をもらしたのだ。2023年10月に米ニューヨーク・タイムズ紙に対して次のように発言した。

 「EVの政治化が顕著になってきた。民主党寄りの州では、『気候変動対策としてのEV普及が急務だ』と叫ばれる一方で、共和党寄りの州では、『EVは新型コロナウイルスワクチンの強制接種のようだ。政府が無理やり買わせようとしているが、そんなものは要らない』との声が上がっている」

EVが階級対立の象徴に

 米自動車大手フォードのビル・フォード会長が嘆くEVの政治化は、「金持ちエリートの党となった民主党」と「貧しい労働者階級の党となった共和党」の代理戦争の様相を見せている。

 中西部イリノイ州の地元紙シカゴ・トリビューンのクラレンス・ペイジ編集委員は、「EVは今や『バイデン・カー(Bidenmobile)』というありがたくない異名を頂戴しており、大統領選における新たな文化戦争の戦場となっている。これは、民主党と共和党の間で古くから争われてきた市場経済と政府規制のイデオロギー対立で説明できる」と分析した。

 実例をあげよう。持続可能なモビリティに特化したサイトの米エレクトレックのコラムニストであるEVオーナーのジェイミソン・ダウ氏は3月23日の論評で、「われわれは化石燃料を燃やすことを急いでやめる必要がある。

 これは単なる意見や感想ではなく、(地球温暖化や環境破壊という)物理的な真実に基づく規制であり、物理の法則の前では反対意見は意味を成さない」とまで言い切って、バイデン政権のEV普及推進に向けたガソリン車の排ガス規制強化を支持している。

 こうした論調に対して、保守系紙であるワシントン・エグザミナーは3月24日に、「こうした規制はわれわれがどのような種類のクルマやトラックを買えるかに制約を設けるものだ」との社説を掲載し、市場経済の立場から「EV計画経済」への反対を表明している。

 また、南部ルイジアナは共和党が強い保守的な州だが、同州のエリザベス・マリル司法長官は排ガス規制強化を批判し、「民主党政権がその環境保護ビジョンに基づいて社会を改造しようとしているが、米議会抜きで連邦政府にそのような重大事を決める権限はないし、司法もそう判断するだろう」とニューヨーク・タイムズ紙に語った。

EV普及で高まる「失業への恐怖」

 保守派は、規制を増やして消費者の選択の自由や企業の経済活動を制限すると彼らが解釈する、リベラル派の「大きな政府」に警戒を高めている。そして、社会の変革意識の高い一部のエリートによってのみ決められることに反対している。

 また、排ガス規制と表裏一体であるEV購入補助金についても、「低所得層は高価なEVを買えないのに、その低所得層を含む国民の税金から出たEV購入補助金を裕福層がもらっているのは間違っている」として、EV補助金の逆進性を批判する意見も出されている。

 加えて、EVを所有する裕福層へのやっかみからか、充電スタンドのEV専用駐車スポットにガソリン車を意図的に停めてEVの充電を妨害する「ICEing」と呼ばれる行為が全米で増えていると、米全国紙USAトゥデーが3月23日に報じている。

 さらにニューヨーク・タイムズは、「労働組合に加入する自動車労働者は、部品数が少なくて済むEVへの性急なシフトが彼らの雇用を脅かすと怖れている」と報じた。この面で、EVを推進するバイデン大統領は労働者側に明確な保証をしていない。

 そのため、消費だけでなく雇用の面においてもEVは階級対立の象徴となっている。

問われる民主党の信頼性

 米環境サイトの「インサイド・クライメイト・ニューズ」は3月26日に、民主党州である中西部ミネソタで、トランプ支持者が多く住むエルクリバー地域の自動車販売店を訪問し、ディーラー勤務のテリー・バーグ氏がEVに懐疑的な顧客に売り込みをする苦労をレポートした。

 バーグ氏は、EV購入に抵抗を示す客によく遭遇する。そのため、「EVは民主党支持者のみが乗るもので、信頼性に欠ける」という偏見を打ち破ることから始めるという。

 2月のある日に、湖畔のキャビンに住む定年退職した女性が来店した際に、バーグ氏はEVを勧めた。

 「駐車場に充電のための電気が備わっていないの」と客の女性。
「では、充電器を設置してはどうでしょうか」とバーグ氏。
「すごくお金がかかりそうね」と女性。

 この一言を聞いた途端にバーグ氏はEVを推すのをやめて、ガソリン車の選択肢を示し始めた。それは、1987年から販売一筋のベテランとしての正しい判断であった。

 しかし、不便な土地に住む顧客に対して、大金がかかる充電器の設置を気軽に勧めてしまうあたりに、EVの階級性が露呈しているのではないだろうか。結局、来店した女性に対しては、偏見打破はムリであったようだ。

 こうして見ると、バーグ氏がEVの売れない理由として挙げる、「信頼性の欠如」という顧客の持つイメージが、11月の選挙に向けて民主党と結びつけられていることが、バイデン大統領には痛いポイントであることがわかる。

 実際に米メディアはこぞって、高価格・充電施設の不足・修理や保険代金の高さ・長い充電時間・リセール価格の暴落、寒冷地における使用上の問題など、EV所有の欠点を次々とクローズアップし、「EVの販売が失速し、代わりにガソリン車やハイブリッド車が爆売れしている」と伝えている。

トランプ「だれもEVなど欲しがっていない」

 オンライン中古車サイトの米iSeeCars.comでアナリストを務めるカール・ブラウアー氏は、「EVが5分から10分の充電で満タンのガソリン車くらいの距離を走れなければ、ガソリン車と同じレベルの需要はない」と指摘する。

 現状では実用性に劣り、3月現在でディーラーに平均114日分の在庫が積み上がるEVを国策として推すバイデン大統領と民主党は、有権者の目に非現実的と映り信用を失うリスクに直面している。トランプ前大統領が大統領選を「EV選挙」と位置付け、失速するEVとライバルのバイデン大統領を結びつけることで、選挙戦を有利に戦おうとしているからだ。

 トランプ氏は有権者に対して、「EVに乗りたい人は乗ればよいが、だれもEVなど欲しがっていない」と語りかけている。

 米自動車企業のコックス・オートモーティブが3月28日に発表した2024年1~3月期のEV販売予測では、前年同期比15%増が見込まれるものの、2023年10~12月期との比較では前期割れが予想されている。

 11月5日の投票日までに米EV販売が劇的に回復して、民主党がEV普及に関する説得力のあるメッセージを打ち出すことができなければ、大統領選における「EV文化戦争」という局地戦で、民主党は形勢不利が続くだろう。

 その民主党が推進するEVシフトもまた、非現実的なものとして、前進がさらに遅れるのではないだろうか。

 さらに連載記事「アメリカが「EVシフト」を変更か…トランプも便乗! 「大規模ストライキ」のウラで始まった、まさかのガソリン車「大復活運動」」では、昨年猛威を振るった全米ストライキではじまったEVシフトの異変について、詳しく報じているので、ぜひ参考としてほしい。

マネー現代

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最終更新:4/5(金) 6:32

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