ヤギ5頭飼って知った「意外と戦闘的」な食事風景

1/17 14:02 配信

東洋経済オンライン

小豆島で暮らす文筆家・イラストレーターの内澤旬子さんは、庭の除草のためにヤギを飼い始めたものの、いつしかヤギ好みの雑草・雑木を求めて島中を探し回ることに……。
5頭のヤギたち(カヨ、茶太郎、玉太郎、銀角、雫)との暮らしを綴った前代未聞のヤギ飼いイラストルポ『私はヤギになりたい』(山と溪谷社)から一部を紹介します。

■戦闘的食事スタイル

 7月の大雨は、小豆島では私が心配するほどの量にはならなかったが、晴れの日がとても少なかったためか、地面がグズグズになった。雨が降れば草は濡れる。

 ヤギたちにあげるために刈り取る草が濡れたものばかりになるのはどうやら好ましくないようで、干し草をあげると待ってましたとばかりにむしゃぶりついてくる。濡れた草のなにが良くないのか、よくわからないままに、雨の日は干し草をたくさんあげるようにしている。

 屋根のある部分はそう広くないので、刈ってきた草や枝葉を置く餌場は雨の当たる場所にある。晴れの日は良いのだが雨が続くと不憫である。干し草は屋根下のスペースにコンテナを並べて与えている。

 餌場にも屋根をつけてあげたいのはやまやまなのであるが、なかなか難しい。原因は5頭の戦闘的食事スタイルにある。仲良くみんなで並んで食べてくれればいいのであるが、そんな状態は1分たりとて保持されたことがない。

 トラックの荷台に山盛り積んできた餌を私が両手で抱え、何往復もしてヤギ舎に運び入れるのであるが、まずは一番大きな角を持つ茶太郎が最初に駆け付け、一番美味しそうな草や枝に齧り付く。

 もし誰か他のヤギが先に駆け付けていたとしても、頭突きして追い払って最新の食事を一番に摂る。カヨは群れのリーダーなのだが、純粋な喧嘩では茶太郎に敵わないので、一歩引いた形で次点の立ち位置を確保する。

 たいてい1回目に持ってきた草は、茶太郎とカヨに占有され、他の3頭は頭突きされないような角度から首を伸ばして草をつつこうとする。玉太郎などは私の脇をすり抜けて外に走り出て、軽トラの荷台に飛び乗って抜け駆け早食いを決め込む。

 早く第2の山を持ってきてやろうと、軽トラに戻り荷台から玉太郎を引きずり降ろす。草や枝を両手いっぱい抱えてヨタヨタ速足でパレス(編集部注:カヨを筆頭にヤギたちが暮らすビニールハウス:通称カヨパレス)に入ると、茶太郎とカヨはすぐに目移りして新しい草に群がろうとする。どっちも食べようとするのだ。

 シェアの精神皆無だ。だからこそ第2の餌場は少し離れたところにして、銀角や雫が食べていても茶太郎たちの攻撃を受けにくいように工夫しなければならない。

■バイキング形式といえなくもないか

 こうして餌の束を離れ離れに5つ、地面に触れないように枯れ枝を山にした上に載せる。それでも茶太郎はあっちもそっちもいやこっちにも美味しい草があるかもしれぬと欲深く駆け回るので、そのたびに誰かが押し出され、別の餌場に移って誰かを追い出す。

 そうして結局全員が餌場をぐるぐる駆け回りながら食べるのである。会食ならぬ回食。バイキング形式といえなくもないか。じつにせわしない。

 玉太郎は角がないために5頭の中でも弱い立場にあることも手伝い、この頭突きゲームのような食事から抜け出して軽トラに乗り込んでくるのだ。とても賢いけれど、餌を全部積み下ろす頃にはパレスにもどって頭突き食事会の輪に参加しなければならない。とまあそんな具合で餌場が広範囲に点在するために屋根をつけることが難しいのだった。

 雫は一番身体のサイズも小さいし、カヨがいまだに子どもとして扱うために、カヨの横にいても頭突きを受けないで美味しい草を食べられる。末っ子特権である。

 ただしそれもだんだんと薄れてきて最近は頭突きされて違う場所に移るようになってきている。カヨや茶太郎が見向きもしない(おそらくはヤギの中では御馳走ではない)ヨモギなどをせっせと食べているのを見ると、ちょっと切ない。

■自分の身体の大きさに目覚めた銀角

 銀角はおっとりとして人間にも一切頭突きをしたことがない、とても優しいヤギなのだが、だんだん身体とともに角も大きくなってきた。これまでは玉太郎の弟分として大人しくしていたのだが、どうやら自分の身体の大きさに目覚めたようで、玉太郎を負かすようになった。

 とはいえカヨや茶太郎にはまだまだ敵わない。銀角が餌を運んでいるときに外に走り出ていくことは、めったにない。

 辛抱強く自分が食べる分が運び込まれてくるのを待つ。玉太郎のように一口でも多く早く新しく美味しい草を食べるために外に出ていくタイプとは真逆だ。 

 このように食事は彼らの食の好みだけでなく強弱関係や性格がはっきりと出る場なのである。ヤギ牧場では横に板を渡した隙間から頭を差し入れた先に餌箱を置いている。

 隙間は頭がギリギリ通る高さになっている。何も知らないうちは食べにくそうだと思っていた。

 しかしあの方式がお互いに頭突きをしないので、全員が平等に餌を食べることだけに集中できる。実によく考えて作られている。ただしあの餌台を適用するには全頭徐角、つまり角を切り落としておく必要がある。茶太郎のような大きく曲がりくねった角をくぐらせるのは、ちょっと難しい。

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最終更新:1/17(金) 14:02

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