10余年ぶりに限定的に募集を再開する珠玉の旗艦ファンド、リスクを抑えて株式に勝るパフォーマンスを実現

10/6 10:32 配信

サーチナ

 米国を代表する運用会社のティー・ロウ・プライスで抜群のパフォーマンスのために資金が集中し、過去10年余りにわたって新規募集の受け入れを停止していたファンドが限定的に新規募集を受け入れることになった。「ティー・ロウ・プライス キャピタル・アプリシエーション・ファンド」は米国でDC(確定拠出年金)制度が浸透するなか、「オートパイロット(自動操縦)型ファンド」の先駆けとして絶大な人気を誇る運用戦略を採用したファンドだ。伝統的な株式60%、債券40%の資産配分で運用するファンドながら、そのパフォーマンスの実績はこれまで米「S&P500」を上回っている。みずほ証券を通じて販売される新ファンドの運用のポイントについてティー・ロウ・プライス・ジャパンの株式運用戦略部共同部長、永井基志氏に聞いた。

 ――新ファンドの特徴は?

 基本的な配分比率は株式が60%前後、残る40%が債券とキャッシュという、アメリカに古くからある典型的な資産配分となっています。ただ、この戦略はパフォーマンスが抜群に優れていて、米モーニングスターでは同一カテゴリーの平均を2024年まで17年間連続でアウトパフォームしています。同一のポートフォリオ・マネジャーが担当するファンドが17年連続でカテゴリー平均を上回ったのは、モーニングスターの長い歴史の中でも記録的なことだと聞いています。

 このファンドが採用する運用戦略が米国で設定されたのは1986年6月末です。当時は米国でDC年金の普及拡大期にあって、投資の初心者の方でも「市場の動きを気にせず夜安心して眠れる、しかし、それなりに高いリターンが期待できる」というファンドとして設定されました。株式と債券を中心とした運用に資産配分調整機能を備えた「オートパイロット(自動操縦)型ファンド」の先駆けとなり、投資初心者の方にご好評いただいていました。設定来の優れたパフォーマンスを評価していただき、2025年6月末時点で運用資産残高は約14兆円に拡大しています。

 日本では2024年1月に新NISAがスタートしたこともあって、若年層、中堅の方を含め新しい投資家の裾野が広がりつつあると思います。このファンドは、そうした投資に不慣れな方に向いていると思いますし、リターンを期待できる点からも、ベテランの投資家の皆様にも関心をお寄せいただけるファンドだと思います。ポートフォリオのコアになるファンドとして、じっくり長期で保有していただきたいです。

 ――オーソドックスな投資戦略にみえますが、どうして優れた成績を残せているのですか?

 2つ理由があると思っています。1点目は投資をするにあたって、株式も債券も、さらには株式と債券の配分比率の変更においても的を絞った投資行動をとっています。株式部分は、GARP(グロース・アット・リーズナブル・プライス:割安な価格にある成長株)銘柄を厳選しています。たとえば、マケッソンはおそらく皆さんが耳にされたことのない銘柄だと思いますが、アメリカの大手薬品卸業者です。こういった銘柄は、年間の収益の伸びはプラス7%~9%程度で、そこに配当利回りが加わって、トータルリターンが2桁前半になるかならないかという水準になります。1年では目立たない成績でも、3年、5年と続くと知らず知らずに他のセクターや銘柄を大きくアウトパフォームしているということになります。

 一般に投資スタイルはグロース投資とバリュー投資に大別されます。GARP銘柄というのは両者の中間にあたるため、グロース投資家には成長率が物足りず、やや退屈でつまらないということになり、彼らの関心を集めにくい。一方、一般にPER(株価収益率)が8倍や10倍程度の割安な銘柄を好むバリュー投資家には、PERが10倍台後半となるGARP銘柄は割高に感じられ、17倍、18倍になってくると買いづらくなります。そのため、GARP銘柄はグロース投資家からもバリュー投資家からも見過ごされやすく、株式本来の価値が適切に評価されていないという非効率性があり、魅力的な投資機会が存在すると考えられます。

 債券は、ハイ・イールド債を中心に投資しているのですが、ダブルB格などハイ・イールド債の中でもクオリティの高い銘柄に主に投資しています。リスクを考慮した上でみたときのリターンが高いと考えているからです。アセットロケーションについては、平時の市場下では資産配分に大きな動きはないのですが、株式マーケットが急落するなどの有事のときには株式の組み入れ比率を大きく引き上げるなど、機動的に動きます。

 また、株式や債券のポートフォリオにおいては、リスク調整後の最大リターンを目指しポートフォリオを組んでいます。このように、株式、債券、資産配分比率と、それぞれにおいて非常に的を絞った運用になっており、パフォーマンスを引き上げる大きな要因の1つになっています。

 2点目は、全ての投資判断を1つのチームが行っているということです。通常、バランス型の運用は、株式、債券、また、アロケーションなど分業体制になっています。アセットアロケーションコミッティによる月次会議で、たとえば「来月は少し株式の比率を増やす」など、配分比率を検討・変更しながら運用を行っています。株式チーム、債券チームが独自の判断でそれぞれポートフォリオを運用していると、たとえば、アセットアロケーターが、今後の株価上昇機会を考慮し株式に資金を多く配分しても、株式のポートフォリオ・マネジャーが慎重姿勢だった場合、株式ポートフォリオの中でディフェンシブな銘柄の比率が高くなることがあります。そうすると、ポートフォリオ全体で考えた時に、資産配分比率の変更による効果を打ち消し合う場合があります。

 この戦略は、ポートフォリオ・マネジャーのデイビッド・ジルーが運用責任者となり、彼を含めた8名のチームが全ての投資判断を行っています。また、ジルーも含めたポートフォリオ・マネジャー全員が一アナリストとして、個別企業の分析にも相当の時間を費やしています。たとえば、今年4月にトランプ関税で大きく株価が下がった時は、株式への配分比率を増やしたのですが、その際に半導体や資本財メーカーなど、その後の回復局面で活躍しそうな銘柄を重点的に買い入れています。非常に効果的な運用になっています。

 ――1986年から運用実績があるということですが、パフォーマンスを教えてください。

 このファンドが採用している運用戦略をスタートした39年前の86年6月末を100として、株式(S&P500インデックス)と債券(ブルームバーグ米国総合債券インデックス)を6割対4割の比率で月次リバランスをおこなった場合、米ドル建てでは2025年6月末時点で2869になります。39年間で28倍超になりました。一方、S&P500インデックスはこの間に100が5742になりました。ところが、この戦略の実績では6547になり、S&P500インデックスのパフォーマンスを超えています。

 つまり、この戦略のシャープレシオが高水準なのです。この戦略の設定来リターンは年率11.3%でリスク10.0%、シャープレシオ(リターン÷リスク)は1.13になります。S&P500インデックスはリターンが10.9%でリスクが15.3%、シャープレシオは0.72という水準です。リスクを抑えた効率的な運用ができていたため、運用成績でS&P500インデックスを上回ることができています。

 ――デイビット・ジルーさんが運用責任者になってから何年ですか?

 彼が着任したのが2006年ですから、設定来39年のうち約半分がデイビッド・ジルーによる運用です。2024年まで17年連続でモーニングスターのカテゴリー平均を勝っているというのは、2008年から2024年までのことで、ジルーが就任した2006年の2年後からひたすら勝ち続けていることになります。1人の運用責任者の連勝記録は、1960年ぐらいに16連勝したことがあったということなのですが、その記録をジル―が数十年ぶりに更新したことになります。

 ――株式と債券それぞれのポートフォリオで、リスク調整後の最大リターンを目指しているということですが、具体的に何を行っているのか、もう少し踏み込んで運用について教えてください。

 当戦略では株式のベンチマークをS&P500に置きますが、その中から分析に値する銘柄は120銘柄程度と考えています。たとえば、「資本配分が不適切」な企業は、無駄な設備投資をしたり割高なM&Aを実施したりしていて魅力的とはいえないと考えて投資対象から外します。また、業界自体に対して長らく構造的な逆風が吹いている企業、そして、業績の変動率が大きい企業なども対象から除外します。そして、安定的に収益を伸ばしていけるであろう120銘柄に関しては各企業の5年先までの予想モデルを作り、最終的には50-80銘柄まで絞ります。投資対象銘柄の予想モデルを徹底して精査・分析することが、運用の中核になっています。

 一方、当戦略で主に投資するハイ・イールド債の格付けが高い銘柄は、債券マーケットで割安に放置される傾向があります。なぜかと言うと、生命保険会社や銀行などの大手機関投資家は、規制やリスク管理の観点から投資適格債券を中心に投資するからです。一方でハイ・イールド債券ファンドのように、ハイ・イールド債のみを運用している債券マネジャーからみると、投資適格に近いBB格の債券は相対的に利回りが低く物足りなく感じられ、投資対象として見過ごされがちです。彼らは格付けがC、あるいは、石油会社や素材会社など何年に一度大きく上がるようなセグメントのところを短期目線で追いかけています。

 たとえば、損保の代理店や競争力のあるソフトウェア企業など、景気変動に左右されにくく安定的に収益を積み上げていく優良な企業でも、負債が多くてリスクが高いと評価されBB格やB格に格付けされている銘柄があります。私どもは短期の値動きより長期でみており、たとえば、残存が2年や3年の債券を満期までじっくり保有しています。 

 債券ファンドの超過収益は、せいぜい0.何%かの違いでインデックスを上回るというのが一般的ですが、当運用戦略の債券ポートフォリオは過去3年でインデックスが年率2.6%のところ7.5%とアウトパフォームしています。過去10年ではインデックスが年率1.8%に対して4.9%、過去20年でみてもインデックスが3.1%に対して6.2%になるなど、株式ファンドの超過収益のように大きな差をつけています。

 ――運用力に優れたマネジャーが担当していると、そのマネジャーが交替することでパフォーマンスが大きく変わってしまうということは考えられませんか?

 たしかに、ジルーはこれまでの運用実績から米国でも名の通ったポートフォリオ・マネジャーであり、ジルーがいなくなったらこのファンドはどうなるのかと心配の声を伺うことはあります。当運用戦略では、運用経験が27年におよぶベテランのジルーをリードポートフォリオ・マネジャーとして、共同運用責任者を3名置く盤石な体制をとっています。この共同運用責任者は運用経験が10年前後の中堅層で、ジルー自身が非常に信頼しているメンバーです。ポートフォリオ・マネジャーを計4名揃えているのは当社の中でも珍しいケースで、キー・パーソンリスクを低減し、共有された投資哲学とプロセスに基づき運用の継続性を確保しています。

 ――運用チームが投資先企業の5年先までの予想モデルを作成しているということですが、現実問題として5年先となると、米国では大統領も変わりますし、かなり大きな変動要素があるのではないでしょうか?

 比較的将来を見通しやすい業界の中で事業を選んでいます。たとえば、医薬品の業界を一例としましょう。製薬会社自体は新薬の開発を巡って大変な逆風に今直面していますが、医薬品市場自体は年々拡大していますので、医薬品の卸売り業者自体は市場拡大の恩恵を受けて売り上げも利益も拡大しています。そもそもベースビジネスが向こう数年で大きく変わらないようなところを狙っているので、5年先の予想モデルも大きく外すようなことはありません。

 米国では「Fishing in the right pond(正しい市場で活動する)」という格言があります。魚のいない池で釣りをしても成果が出ないように、投資においても長期的に優れたパフォーマンスが期待できると考えられる銘柄群(魚が多い池)から投資対象を選別して投資することが重要と考えられてきました。当ファンドは、ポートフォリオ全体でこの考え方を実践しているファンドということができます。

 ――近年では債券の利回りが低くなっていたこともあって株式と債券の分散投資効果がなくなったという指摘も聞きます。これから先々も株式6債券4という比率は通用するのでしょうか?

 株式6割・債券4割という比率自体は、長年広く用いられてきたコンセプトなので、そこに目新しさや際立った付加価値があるわけではありません。インデックスを使って株式6割・債券4割というポートフォリオで運用した場合のシミュレーションでも、S&P500には遠く及ばないという成績でした。大事なことは、株式や債券のポートフォリオで、どんな銘柄に投資しているかということですし、市場の変化によってどのようなポートフォリオの組み替えを行っているのかだと思います。そこはファンドの運用実績としてお示ししています。

 この優れた実績のあるファンドが10年余りを経て限定的に募集を再開することができるようになり、日本国内の投資家の皆さまにお届けることを嬉しく思います。中長期の資産形成を行う上でのコアとなる資産としてご検討ください。

サーチナ

最終更新:10/6(月) 18:14

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

もっと見る

日本株ランキング

注意事項

© LY Corporation