2019年ごろから続く第3次サウナブームにより、日本のサウナ業界は盛り上がりを見せている。特にサウナ発祥の国、北欧フィンランドで親しまれている、熱した石に水をかけて蒸気を出し、体感温度を上げる「ロウリュサウナ」人気の高まりにより、ロウリュが楽しめるサウナ施設が増えている。
北欧ではフィンランド以外の国でもサウナが親しまれており、それぞれの国で独特の文化を形成している。例えば、ヨーロッパ大陸と陸続きで北欧の国々の中で最も南に位置するデンマークでは、独自のヒュッゲ文化*とサウナが強く結びついている。本記事ではフィンランドから少し離れた北欧デンマークに焦点を当て、デンマークならではのサウナ文化やサウナ施設を紹介しよう。
*ヒュッゲ(HYGGE):お気に入りのモノや人に囲まれてリラックスした時間を過ごす、という意味のデンマーク語。定義は人によってさまざま。
● デンマークのサウナは語らいの場、男女混浴が一般的
北欧デンマークでは、フィンランドと同じく、ロウリュタイプのサウナが親しまれている。公共サウナやアパートに備えられているサウナには更衣室とシャワーが併設されており、利用時に自分でストーブを温め、室温を70~80度程度に保つ。暑すぎずじんわり体を温められる温度になれば、お気に入りのアロマオイルを持ち込み、桶の水に垂らしてロウリュの準備を整えてからサウナを楽しむ。
体が十分に温まれば、外気浴や水シャワーで温冷交代浴を楽しむが、海沿いや湖畔にサウナがある場合、多くの人は海や湖に浸かって体を冷やしている。
日本では熱いサウナで体を温め、冷水に浸かって温冷交代浴を楽しむ「ととのい」目的での楽しみ方がフォーカスされているが、多くのデンマーク人はリラックスやリフレッシュ、社交や気分転換のためにサウナを利用しているようだ。
サウナで体を温めて血行を促進しつつ、会話を楽しみ、外気浴や冷水浴の後はシャワーをさっと浴びてコーヒーやビールを飲みながら思い思いのヒュッゲを楽しむ。お気に入りのアロマオイルの匂いに包まれて汗をかくヒュッゲスタイルを好む人も多い。
デンマークではサウナもヒュッゲの一環であり、それぞれのスタイルで多様な楽しみ方がされているのだ。
特に「サウナで社交」は日本で言う「裸の付き合い」に近い感覚があり、「人種も性別も社会的地位も関係なくフラットに会話ができる」ので貴重な場になるそうだ。デンマークのサウナは一般的に男女混浴で、男女別の更衣室(シャワー付き)で水着を着用してから利用する。
中には男女混浴にも関わらず、全裸でサウナに入る人も一定数いる。気兼ねのない間柄の友人同士でサウナで社交をするには「裸でも全く気にならない」とのことだ。とはいえ、裸でサウナに入る人は少数派。デンマークを訪れた際は水着を着用してサウナを楽しもう。
● 元旦でも海へ!冬の海水浴とサウナを楽しむデンマークの国民性
デンマークは北欧の中でもスウェーデンやノルウェー、フィンランドに比べて冬が過ごしやすく、マイナス20度を下回るような極寒の空気にさらされることはない。しかしながら、他の北欧の国々と同じく高緯度地域に属していることから冬の日照時間が短く(日の出が8時30分頃、日の入りが15時30分頃)、気温が氷点下を下回ることも少なくない。寒くて暗い冬はそれだけでも気分が滅入るが、さらに曇りがちなどんよりした天気が続き、日光が恋しくなる。日光を浴びて生成されるホルモンが不足することから冬季うつが深刻になりやすいのだ。
そんな気分がふさぎがちな冬のデンマークでは、多くの人が数十秒から1~2分程度、冷たい海水に浸かって心身をリフレッシュさせる「冬の海水浴」を好んでいる。フィンランドなどに比べて寒くないとはいえ、水温は5度前後。冷たい海水に浸かってフレッシュな空気を吸い込むことで、気分を整えているのだそう。
デンマークの冬の海水浴文化は多くの人が親しんでいるもので、元旦に海水浴する人も多い。この冬の海水浴とサウナは非常に親和性が高く、日本のようにサウナで温まってから海水にドボンと浸かるのではなく、海水で冷えた体をサウナで温めて家路に着く人も多いようだ。もちろん、サウナで体を温めてから海水に浸かる人もいるが、勢いよく浸からずにゆっくり水を体に慣らしながら入るのが主流。「いきなり冷水に浸かるのは体に悪いから、慣れてる人でもあまりやらない。足が攣って溺れてしまう危険性もあるし」と、デンマーク人のサウナーが言っていたのが興味深い。
● 雪が降ったら、家を飛び出して「雪サウナ」へ
実はデンマークでは雪がなかなか降らず、雨の日が多い。まれに雪が降ると、多くのデンマーク人は貴重な雪を楽しむために家から飛び出していく。内陸部では海岸線より雪が降りやすく、その雪も軽くてサラサラなことが多い。
そんな貴重なサラサラ雪を存分に楽しむために、キャンプ場や家の近くに整備された小型サウナで体を温め、雪に飛び込むサウナ好きも多い。貴重な雪を最大限楽しめる雪サウナ。サウナの後に雪に飛び込み、その後に部屋で暖かいコーヒーを飲むのもサウナヒュッゲの楽しみ方の一つだ。
● 水泳施設、ジムにある公共サウナ
リフレッシュや心身の回復のためにサウナを利用するデンマークの人々。運動やアウトドアアクティビティの後に体を癒すため、水泳施設やジムにはサウナが備えられていることが多い。スポーツ施設に備えられているサウナも男女混浴なので、スポーツウエアと一緒に水着を持参して行く。思いっきり体を動かした後は、汗と一緒に疲れを流して、血行を良くして筋肉を休めてリフレッシュする。この場合、疲労回復・リフレッシュを目的にサウナを利用するので水風呂がないことが多く、汗を流したらサッとシャワーを浴びて家路に着く。
ハイキングやキャンプの後に公共サウナに行く人も多く、このアウトドアアクティビティとサウナの関係性は、日本の温泉文化に近いものを感じる。
● 観光客も楽しめるサウナ施設が多い
デンマークは、首都コペンハーゲンのあるシェラン島を始めとした443の島で構成された国であり、ヨーロッパの中で最も海岸線の長い国の一つである。そんな海に囲まれたデンマーク人は海水浴とサウナが大好きで、国内のあちこちに“Harbor bath”(ハーバー・バス)と呼ばれる気軽に海水浴が楽しめるスポットが整備されている。
通常、ハーバー・バスには更衣室とシャワーが備えられているが、中にはサウナが併設されている場所もあり、観光客でも地元民でも気軽に海水浴とサウナが楽しめる。ハーバー・バスの情報は、ツーリストインフォメーションや各自治体のウェブサイトに載っているので、営業時間やサウナ施設に入るためのコードを確認すれば、デンマーク旅行の際に海水浴×サウナを楽しむことができる。多くのハーバー・バスは無料で利用できるのもうれしいところだ。
無料の公共サウナの他、有料のプライベートサウナも利用できる。デンマーク旅行の際は海辺でサウナを経験してみるのも良さそうだ。
● サウナでヒュッゲ
デンマークでは多くの人が、思い思いにサウナでヒュッゲを楽しみ、「冬でも海水浴×サウナ」という独自の文化を構築している。
筆者はデンマークに滞在していた頃、友人に誘われたサウナの後に外で風を感じながら飲むビールヒュッゲが気に入っていた。一般にというか、日本ではサウナの前にアルコールは厳禁だが、デンマークではサウナでビールヒュッゲをする場合、サウナで汗で水分を失うので、アルコール摂取をする前に水分を十分にとることが重要だとされている。
昨今のサウナブームにより、日本でもテントサウナやバンサウナなど移動型のサウナが普及し、キャンプ×サウナなど多種多様な楽しみ方ができるようになってきた。新しいサウナの楽しみ方や、自分なりのサウナヒュッゲを見つけて楽しむのはいかがだろう。
ダイヤモンド・オンライン
最終更新:5/11(土) 17:02
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