“イケメン無罪”ではなかった!生田斗真さんの「無痛おねだり」投稿が大炎上した日本的事情

5/11 12:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 「旦那様に無痛おねだりするか」この一言で、人気俳優の生田斗真さんが大炎上している。すでに本人は「変な伝え方をしました」「本当にごめんね!」と謝罪しているが、批判はなかなか収まらない。女性たちがこの一言に「ドン引き」したのはなぜなのか。背景には、日本特有の社会事情も見られる。(フリーライター 鎌田和歌)

● 謝罪するも鎮火せず 生田さんはなぜ大炎上したのか

 発端はGW中の5月5日、俳優の生田斗真さんがインスタグラムのストーリーで、ファンからの質問やメッセージに応えたことだった。

 インスタグラムのストーリー投稿は1日で消えるが、アーカイブとして残すほどでもない簡易的な投稿を瞬間的に行う機能として重宝され、特に若者の間でよく好まれている印象だ。

 タレントやインフルエンサーがこの機能を使ってファンと交流することも多く、生田さんもこの日、多数のメッセージに回答したようだ。しかしそのうちの一つがスクショ(スクリーンショット)され、主にX(旧ツイッター)で拡散したことをきっかけに大炎上した。

 炎上した投稿は、「今日で妊娠9ヶ月目です 出産こわいよー」という絵文字付きのコメントに、「旦那様に無痛おねだりするか」と返したものだった。「無痛」とは、「無痛分娩」のことを指している。

 批判が殺到したことを本人も把握したようで、7日には、以下のような謝罪文をアップしている。

 「僕の発言で傷つけてしまった方がいるようです。ごめんなさい。費用はかかってしまうけど恐怖心を緩和するためにも、一つの大切な選択だと勉強していたのでそれをご家族で話し合われる事もいいのではないかとお伝えしたかったのだけど言葉足らずでした。というか変な伝え方をしました。以降気をつけます!質問くれた方も本当にごめんね!応援しているからね!」

 ただし、謝罪してもなかなか収まらないのが炎上の常であり、今回の場合も「謝るポイントが違う」といった声が強い。

 批判者の中には男性の声もあるが、男性の中には「なぜこれがこんなに大炎上しているのか」と疑問に思う人もいるかもしれない(あるいは女性でも、「自分は気にならない」と思う人もいるだろう)。すでに謝罪をしている個人に追い討ちをかけることはしたくないが、この炎上から、背景にある日本独自の出産事情を少し考えてみたい。

● 欧米では主流の無痛分娩 日本ではなぜ少ない?

 まず、批判している人たちが特に指摘しているのは、「おねだり」という言葉選びである。出産ではなく、他の手術であれば麻酔を希望することであれば「おねだり」とは言わない。痛みを伴う手術には麻酔が用いられるのが通常であるので「おねだり」する必要もない。なぜ出産だけ、無痛分娩を選ぶことが特別のように言われてしまうのか。

 女性たちがここにこだわる理由の背景には、欧米に比べて日本では無痛分娩が普及していない状況がある。

 出産は言うまでもなく激しい苦痛を伴うものだ。無痛分娩の普及率はアメリカでは7割、フランスでは8割と言われるほど、特に欧米での割合は高い。

 一方、日本で無痛分娩を選ぶ人は全体の1割以下だ(※)。理由の一つとしてよく挙げられるのが、麻酔医との連携がしづらい医療システムと言われ、妊娠した人が無痛分娩を望んでも、そもそも受けられる病院が少ないという問題がある。

 ※2020年4月に発表された厚生労働省調査によれば、無痛分娩を選んだ人は8.6%。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/20/dl/02sisetu02.pdf

 また、無痛分娩に医療保険が適用されることが多い欧米とは違い、日本では自己負担の場合が多い。このため、無痛分娩は贅沢であるとか、一部の高所得者しか選べないというイメージを持たれることも多い。

● 女性を苦しめる 「無痛分娩はわがまま」の風潮

 さらに言えば、「産みの苦しみを知って初めて母親として一人前」といった昔ながらの精神論にいまだに苦しめられる人もいる。無痛分娩の普及率が低いからこのような精神論がいまだに幅を利かせているとも考えられるし、このような風潮があるから普及率が低いとも言える。

 いずれにしても、無痛分娩を選ぶことを「わがまま」のように言う人がいるのは事実であり、このような風潮に違和感や不満を覚える女性は少なくない。今回の炎上でも、「もし男性が出産する社会だったら、とっくに無痛分娩が普及していただろう」といった内容の意見も見られた。付け加えると、「無痛分娩」といっても完全に無痛なわけではない。

 ともかく、これから出産する人にとって、無痛分娩を選ぶか否かはセンシティブな問題である。本人が無痛分娩を希望しても、周囲の状況がそれを許さないことがある。出産する人の体の問題であるが、社会背景や慣習が、その選択を狭めている。

 実際に日本では男女の賃金格差があり、経済的に配偶者(パートナー)に頼らざるを得ない女性も少なくない。妻が夫に無痛分娩を「おねだり」しないといけない状況は実際にあり得るだろう。しかし、自分の身体的苦痛を緩和するために、相手の顔色を見ながらお伺いを立てなければいけない状況を「おねだり」とされてしまっては、問題の深刻さが覆い隠される。

● 違和感を増幅させてしまった 「旦那様」呼び

 「旦那様」という言葉選びも、「おねだり」の卑屈さをブーストさせた。「ご主人」「旦那様」呼びは、女性の間でも使われるし、相手の配偶者を指す場合に「なんと呼べばいいかわからない」から「旦那様」を使う人も多い。

 ただし最近では、「ご主人」や「旦那様」は夫婦の中での上下関係を感じさせることから、「パートナーさん」や「お連れ合い」、あるいは「夫さん」を使う人もいる。今回の場合、文脈から「旦那様」がはらむ問題が際立ってしまった。

 近年、日本では海外に比べてアフターピル(緊急避妊薬)の手に入りづらさや、避妊方法の選択肢の少なさ、経口中絶薬の認可についてなどが話題になった。これらに関心を寄せるのは多くの場合、女性であり、男性はこのような状況に女性が疑問や不満を抱いているのを知らないことも多い。

 少子化が問題と言いながら、女性の身体的苦痛や悩みに耳を傾けない社会に対する不満が、今回の炎上には表れているように見えた。

 今回炎上したのは、好感度の高い「イケメン」俳優である。これが政治家の発言だとしても当然炎上していただろうが、このような発言は普段、好感を持って受け止められている人が「悪気なく」発したものであっても炎上するし、むしろその「悪気のなさ」が無関心の露呈であると受け止められる時代であるという点は、政治家や経営者が知っておくべき事実だろう。

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最終更新:5/11(土) 12:02

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