「セクハラ大王」続々退場、“仏の顔も三度まで”首長告発ラッシュはなぜ起きている?

4/27 12:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 「お前らの脳みそはハトの脳みそより小さい」と言った愛知県東郷町の町長に、女性職員15人へのセクハラが認定された岐阜県池田町町長。岐南町長の「99のセクハラリスト」発覚からさほど時間が経っていない中で、またも相次いで町長によるハラスメントが報じられた。ここにきて、地方でハラスメント告発が相次ぐ理由とは何か。(フリーライター 鎌田和歌)

● 次から次へ……「町長」による ハラスメントがなぜ止まらないのか

 町長のハラスメントが相次いで告発された……と聞いて、数カ月前にダイヤモンド・オンラインでも取り上げた岐阜県岐南町の話かと思う人もいるかもしれない。

 【参考】ダイヤモンド・オンライン記事(2024年3月1日)
「岐南町長『99のセクハラリスト』から我が身を振り返る“絶対アウト”なスキンシップ思考」
https://diamond.jp/articles/-/339742

 しかし残念なことに、今回は別の町長たちによるハラスメントが新たに発覚したのである。

 職員に対して「お前らの脳みそはハトの脳みそより小さい」「育休を1年取った職員がいたが、出世はできないな」といった暴言や、「(大きな手術を控えた女性職員に対し)いつ、巨乳になって帰ってくるの?」「(男性職員に対し)エロ本買うの?」などと質問したセクシャルハラスメントが報告書でまとめられたのは、愛知県東郷町の井俣憲治町長(57)だ。

 報道によれば、町が臨時職員も含む739人の職員に対してアンケートを実施し、582人から回答を得た。その中で町長からハラスメントを受けたと回答した人は108人に上ったという。

 井俣町長は2018年5月に初当選。当選後からハラスメントが続いているとすれば、職員たちは実に6年近くもこの状態に苦しんでいたこととなる。朝日新聞が4月22日に報じている内容によれば、ハラスメント発言の内容は「死ね、春木川に落ちて、流れていってしまえ……そのまま流れて、下流で見つかればいい」「いつ降格してくれるの?早く降格してくれ」「たとえば旦那さんとエッチなことをしている時に期待しているところじゃないところを触られるってことない?そこじゃないって思うでしょ」「○○さんが僕の愛人だとするでしょ」などとなっており、思わず目を疑う。

 【参考】朝日新聞記事(2024年4月22日)
https://digital.asahi.com/articles/ASS4Q3JHWS4QOIPE015M.html?pn=14&unlock=1#continuehere

 これだけではない。岐阜県池田町の岡崎和夫町長(76)も15人への女性に対するセクハラがあったと認定され、4月25日に辞職願を提出した。岡崎町長の場合は2003年に初当選。辞職にあたっての会見では「独り善がり、裸の王様だったのではないかと昨晩考えていた」と述べたという。

● 市議から女性職員へのストーカー行為 国会議員による「威圧的な言動」も

 数カ月のうちに相次いで町長によるハラスメントが報道された。岐南町と東郷町については具体的なハラスメント内容が列挙されているだけに信憑性が高く、また深刻度が伝わってくる。

 そして地方自治体での職員に対する議員のハラスメントは、最近の報道だけでも複数ある。

 たとえば福島県白河市では、84歳の男性市議が女性職員に対して「私的な内容の手紙を渡したり職員宅に贈り物を届けたりといったストーカー行為」(※)
や、その他の職員に対するパワハラを繰り返したとして、4月24日に辞職勧告決議案が可決されている。(※)「職員に手紙や電話のストーカー行為、断られパワハラ 市議に辞職勧告」(4月25日/朝日新聞)より
 また、道職員に対して威圧的な言動を繰り返したとして問題になっているのは、長谷川岳参院議員(自民)。長谷川議員については、北海道計画推進課が予算の成立時などに「お礼メール」や祝電を送ることを全庁的に促したり、長谷川議員と面談するために管理職たちが年間60回もの東京出張に対応したりしたとも報道されている。

 国会議員への過剰な配慮から透けて見えるのは、職員との強烈な上下関係だ。

 ちなみに長谷川議員は3月に歌手・吉幾三氏のYouTubeで、客室乗務員への横柄な態度を告発されている。長谷川議員は反論したものの、批判の声は大きい。

● 職員が声を上げやすくなった 「ハラスメント条例」の影響

 なぜ議員や首長への自治体職員からのハラスメント告発が相次いでいるのか。これはおそらく、最近になってハラスメントが増えてきたからというわけではなく、これまでは我慢してきた職員たちが徐々にではあるが声を上げやすくなっているからであろう。

 別の町でハラスメントが報道されることにより、「同じようなことが自分の町でも起こっている」と気づくきっかけとなる。こう考えると、今後も同じようなハラスメントの告発は各地で起こりそうだ。

 岐南町と東郷町の場合で顕著なのが、被害者が複数で証言が大量にある点だが、もし被害者が一人や少数だった場合、町長に対して同じように声を上げられていたかはわからない。複数だからこそ問題が揉み消されず、表面化しやすかったのではないだろうか。

 また、自治体職員(公務員)の被害という点について考えてみたい。

 近年、「ハラスメント防止条例」を制定する自治体が増えている。地方自治研究機構の調査によれば、今年3月29日に制定されているハラスメント防止条例は全国で52ある。

 【参考】ハラスメントに関する条例(地方自治研究機構)
http://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/066_harassment.htm

 自治体によって詳細は異なるが、議員から職員へのハラスメントを念頭に置いたもの、あるいは議員間のハラスメントを防止するためのものが多い。

 たとえば今年3月に制定された鴨川市議会の条例では、「ハラスメントは、相手の人格及び尊厳を侵す人権問題であり、被害者の心身に影響を及ぼし、職務への支障にもつながり、ひいては市民サービスを低下させ」るものと定義されており、重要な問題と認識されていることが文面からもうかがえる。

 【参考】鴨川市議会ハラスメント防止条例の制定について
https://www.city.kamogawa.lg.jp/uploaded/attachment/15693.pdf

 各地でハラスメント条例が制定されていることを報じた記事「議員からのパワハラを撲滅せよ 『ハラスメント防止条例』導入した自治体に変化はあった?」(2024年3月1日/弁護士ドットコムニュース)でも、「条例が生まれた背景には、一般市民から職員に対するハラスメントだけでなく、議員から職員に対してもパワハラなどの深刻なハラスメントがやまない問題がある」と言及されている。近年になって被害の可視化があり、対策に乗り出した自治体が多いということなのだろう。

● 「裸の王様」は退場いただく時代に 我が町はどうだろうか?

 地域差もあるだろうから一概には言えないものの、行政機関は民間と比べると「お堅い」イメージがある。また上下関係や慣習が厳しく、慣習で決まっていることに異を唱えづらい雰囲気もあるようだ。

 その中でもやはり特に耳にするのが、議員と職員の力関係であり、古参の議員であればあるほど、職員は従わざるを得ない。地方議会は10年、20年と長く続ける議員も多く、若手、新人の職員は軽んじられがちだ。

 池田町町長は辞任にあたり「裸の王様だった」と自戒したというが、職員が自由闊達にものを言えない空気が、各地に「裸の王様」がいる理由なのではないか。

 パワハラ・セクハラや、上司からの威圧的言動に対する世間一般の意識は高まっており、昔のように「厳しい指導をありがたく受け取る」時代ではない。職員の意識との乖離があるとすれば、それは議員や首長側に問題があるのであり、威張る・恫喝する・揶揄うといった態度で周囲を従わせようとするやり方はもう通用しない。

 鍵となるのは中堅や古参の職員たちが、どれだけ議員らからのハラスメントに立ち向かえるかなのだろう。町長たちの相次ぐ辞職や引退を見て、我が町はどうかを考えたい。

ダイヤモンド・オンライン

関連ニュース

最終更新:4/27(土) 12:02

ダイヤモンド・オンライン

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング