仕事は最低限だけ「静かな退職」選ぶ若者増える訳 意欲的に働くようになるにはどうするか?

4/8 8:02 配信

東洋経済オンライン

 「静かな退職」という言葉が依然として話題になっている。

 2022年にアメリカのキャリアコーチが発信し始めた「Quiet Quitting」の和訳で、企業を辞めるつもりはないものの「出世を目指してがむしゃらに働く」ことを選択しないあり方だ。最低限やるべき業務をやるだけで、積極的に仕事の意義を見出していないことが特徴とされている。

■静かな退職を選ぶ日本人

 アメリカの世論調査会社「ギャラップ」が2022~2023年に行った調査「2023 State of the Global Workplace」によると、世界160カ国以上、12万人を超える15歳以上の従業員のうち、59%が「静かな退職」に該当。こうした「意欲的ではない」従業員のコストは、世界で8.8兆ドル(約1320兆円)にもなり、これは世界のGDPの9%に相当すると見積もっている。

 地域別でみると、日本を含む東アジア地域は62%で、アメリカとカナダ地域の52%を10ポイント上回っていた。それほど「がむしゃらに働く」印象がないラテンアメリカ・カリブ海地域(59%)よりも「静かな退職」の割合が多いことは興味深い。

 また、日本で2024年1月に行われた「Great Place To Work®️ Institute Japan」の調査では、「静かな退職」を実施している人の7割が、働き始めた後で「静かな退職」を選択したと回答。理由は「仕事よりプライベートを優先したいと思うようになったから」(38.2%)、「努力しても報われない(正当に評価されない・給与に反映されない)から」(27.3%)という結果だった。

筆者は、UZUZという会社でかれこれ10年以上、20代を中心としたキャリア相談や就業サポートに携わってきた。今回は、こうした「静かな退職」を選ぶZ世代が、会社や仕事に対して冷めている5つの要因について考える。

 ① 「失われた30年」を生み出した当事者ではない

 日本の経済は1990年代のバブル崩壊から低迷し続け、すでに30年以上が経過してしまっている。

 Z世代にとっては生まれる前のことであり、それを「景気回復のためにもっとがんばれ!」と言われても「いや、わたしたちじゃなくてあなたたちが頑張っといてよ」という思いが本音だろう。

 30代の筆者も社会人になったばかりのとき、「年金システムがこのままでは破綻します」というニュースを見て、高齢化が進むにつれ増大していく保険料に愕然とした記憶がある。

 「増える高齢者をどんどん少なくなる現役世代が支えなければならなくなるとある程度早い時期に予測できたはず。なぜ、そのときに対処せずに次の世代に背負わせるようなことをするのか?」と、怒りを感じたほどだった。

 筆者の場合はその怒りがたまたま仕事へのモチベーションになったのだが、「こんなひどい状況では頑張ってもしかたない」と、冷める方向に働いたとしてもまったく不思議ではない。

 むしろ、停滞した経済を何ともできず、ここまで負の遺産を大きくしてしまった先輩世代から「がんばれ!」と言われることは、Z世代が社会に冷める最初の要因だと感じている。

■日本企業は制限・制約が多い

 ②「やろう」と思っても、旧態依然としたルールや縛りが多すぎる

 実社会に出て、どんな意味があるのかわからない、謎のビジネスマナーやビジネス慣習に首を捻ったZ世代は多いだろう。実際、日本の企業社会は何かをやろうとしても、縛り、制限・制約が壁になることが多すぎる。

 いちばん困るのは、上司や先輩から「うまくいってこなかったやり方や慣習」を「今まで通りやれ」と言われることだろう。「結果は出せ。ただし、今までのルールや慣習は守れ」。結果はプロセスによって生み出されるもの。だから、結果を出すためには、ルールや慣習に縛られずに必要なプロセスを構築していく必要があるにもかかわらずだ。

 ③「静かな退職」は今に始まったことではない。上司や先輩も冷めている

 ここ1、2年で概念が広まった「静かな退職」だが、指示通りにやるべき業務をやっても、それ以上積極的に打ち込まない従業員はもともと大量にいたはずだ。

 しかも、社会が停滞すればするほど、手本になる仕事に熱心な先輩や上司はどんどん減ってしまう。

 「静かな退職」をしている先輩が増えると、ドミノ倒しのように若手や新しい従業員も「静かな退職」を選びやすくなるのは必然だと言える。どんな問題も急に発生したわけではなく、徐々に蓄積されてそうなっているのだ。

 ④お金を得るための方法が「サラリーマン一択」ではなくなっている

 仕事に冷める要因の1つに、「サラリーマンがお金を稼ぐ1つの手段に成り下がった」ことも一因だと言える。つまり、冷めているのはサラリーマンとして働いている職場だけで、副業ではがむしゃらに働いている人が出てきている。

 高度経済成長時代、サラリーマンになることは「生計を立てる基盤」だったが、その「王道一択」が崩れている。本業とは別で個人として行う「副業」もあるし、お金によってお金を稼ぐ「資産運用」という手もある。会社に所属しなくてもお金は稼げる時代なのだ。

 「仕事より大事なものがある」という価値観の広がりが、拍車をかけているかもしれない。

 ただ、会社の影響力が低下しているとはいえ、在籍していると社会保険や福利厚生というメリットを享受できる。実は、「静かな退職」を選ぶZ世代は「冷めている」というより、「賢く組織の仕組みを使っている」と言ったほうがいいのかもしれない。

■ミスマッチが起こりやすい新卒一括採用

 ⑤「新卒一括採用」だと適性や仕事観と合致した仕事選びができない

 実は筆者は、Z世代が仕事に冷める大きな要因は「新卒一括採用」という仕組みにあるのではないかと思っている。新卒を一括で採用する仕組み自体はいいのだが、その後の人材の移動が少ない点が問題だと感じている。

 学生時代に受けられるキャリア教育はいまだにほとんどなく、インターンがあっても選考目的になっているため、実務経験を積むことができないのが実情だ。つまり、若者たちは「実際に企業で働いて自身の適性や仕事感を確認する」経験がほとんどできないのだ。

 新卒一括採用のレールに乗って就職はするが、自分の適性や仕事観と合致した仕事選びをしたわけではないので、ミスマッチが起こりやすい傾向がある。

 就職活動を乗り越えたのに「こんなはずじゃなかった」という思いになると、やることはやるが意欲的には働かないという冷めた選択になるのも当然だろう。

 人材の流動性も低いので、そのまま「なあなあで残ってしまう」と、頑張ろうにも頑張れない年齢になってしまっているケースも多い。

 以上、Z世代が会社や職場に冷めて「静かな退職」を選ぶ要因を5つ挙げた。

 改めて5つの点を整理すると、以下の通りだ。

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 最後に、どうすれば意欲的に働く人が増えるのかについても触れておきたい。

 1つは、やや乱暴な考え方かもしれないが、「新卒で就職した会社を全員3年で辞める(転職する)」ことだ。

 1つ目に選んだ職場が自分にとって「適職」である可能性は低い(「適職」だったとしても比較対象がないのでそう思えない)ため、最初の就職の3年間は「社会人学校」と捉えて、できれば全員が20代早期で転職したほうがいいのではないかと思っている。

 現在は転職も一般化しており、以前のように「転職=悪」のような状況ではなくなった。1社目しか知らない状態で「静かな退職」状態となってしまうのであれば、転職しやすい状況をうまく活用して「自分の適性や仕事観に合う仕事」を探すことを強く勧めたい。

 実際、就活支援の現場感覚でも、2度目の就職のほうが納得感を得られると確信している。納得して選んだ職場であれば、「静かな退職」になる可能性はグッと減るはずだ。

■Z世代にとっての仕事の目的を知る

 もう1つ大事なことは、経営者層が、Z世代にとっての仕事の目的は「お金を稼ぐ」だけではなくなっていると、認識を新たにすること。

 SNSなどを通じて「自分らしさ」を発信しやすくなった中、今の若者たちは自分を表現することに慣れてきている。そして、仕事に対する認識も「お金を稼ぐこと」に加えて「自己表現」を求めるように変わってきているのだ。

 だから、お金を稼ぐ以外の働く理由、つまり「やりがいを見出せる」という会社に生まれ変わっていかないと、いっそう若手人材は採用できなくなっていくだろう。「お金を稼げるんだから働くはずだ」という考えでは、若手の採用は難しいし、採用した人材も「静かな退職」を選んでいくことになる。

 「静かな退職」という概念が広まったことは、社会の仕組みを見直すいい機会なのかもしれない。

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最終更新:4/8(月) 8:02

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