国内外で「インドカレー1000軒超も開拓」彼の情熱の原動力。“インドカレー銀座線路線図”がXでバズる。
仕事が終わって帰宅したら疲れて何もできない──。そんな人がいる一方で、時間、体力、お金をやりくりしながら趣味に没頭するビジネスパーソンがいる。彼らはなぜ、その趣味にハマったのか。どんなに忙しくても、趣味を続けられる秘訣とは。連載 隣の勤め人の「すごい趣味」では、仕事のかたわら、趣味をとことん楽しむ人に話を聞き、その趣味の魅力を深掘りする。
■銀座線沿線のインドカレー紹介がバズる
2022年7月、旧Twitter(現X)でバズった次の投稿をご存じだろうか。
【43枚の写真を見る】これが銀座線カレー路線図だ! Xでバズったインドのケンタッキー再現料理や、日本で食べられるオススメインド料理店も
投稿したのは、アカウント名「なますてクッキング」こと、八木雄建さん。コンサルティング会社に勤務するかたわらインドカレーを食べ歩き、その魅力を発信し続けている。2024年8月にはTBSテレビ「マツコの知らない世界」に出演し、東京メトロ銀座線沿線にあるおすすめのインドカレー店を紹介した。
インドカレーにハマって15年の八木さんがこれまで食べ歩いたインドカレー店は、国内外合わせて延べ1000軒以上。さらにはインド人コミュニティに所属して、インド人と日本人との交流イベントや料理教室を開催したりもしている。
なぜ八木さんは、そこまでインドカレーにハマったのか。話は子ども時代にさかのぼる。
八木さんとインドカレーの最初の出合いは、いわゆる「親父の手料理」だった。
「アラスカの研究所でオーロラの研究をしていた父親が、インド出身の同僚から教わったというインドカレーを家でよく作ってくれていたんです」
八木さんは高校2年生になると、ニコニコ動画で見つけたレシピ動画を見ながら初めて自分でチキンマサラ(粉状にしたさまざまなスパイス「マサラ」とトマト、ヨーグルトなどを使ったチキンカレー)を作った。
■肉じゃががカレー味になると苦情も
もともと料理好きで、動画レシピを見ながらクレープや卵焼きなどを作っていたが、インドカレーを作ってみて、その魅力にすっかりハマってしまったという。
「特に惹かれたのは、香りです。カレーって準備しているときも、作っている最中も、ずっといい香りがして、嗅ぐとうっとりしてしまいます。お小遣いで少しずつスパイスを買いそろえて、コレクションするのも楽しかったですね。レシピを少しずつ変えながら毎週チキンマサラを作っていたので、『フライパンに匂いが移って、肉じゃがもカレー味になる』と家族から苦情がきたのを覚えています」
大学3年になると、八木さんのインドカレー店開拓が加速する。アルバイト先の金融会社の上司がインドカレーのマニアで、南インド料理を出す店に連れていってくれたのがきっかけだった。その店こそ、2023年4月に惜しまれつつ閉店した南インド料理の名店、八重洲の「ダバインディア」である。
「衝撃を受けましたね。それまで、インドカレーは“もったり”としていてナンと食べるものだと思っていましたが、ダバインディアで食べた南インドのカレーは“サラサラ”していて米と合う。インドカレーのイメージが覆されて、店の開拓に拍車がかかりました」
以来、八木さんは多いときには毎日、月に30軒を開拓するようになった。最近ではペースが落ちたものの、いまも平均して週4回はインドカレーを食べている。ただし、週2回は家で自作し、残る週2回を外食で楽しんでいるそうだ。
「店のインドカレーはバターやギー(精製バター)を使ってリッチな味に仕上げてありますし、カレーに欠かせないナンやライスは炭水化物です。本当は毎日でも外食したいのですが、そうすると体重が増えてしまうので、自炊も取り入れてカレーを楽しんでいます」
既存のインドカレー店はほとんど開拓し尽くした、と語る八木さん。いまは気に入ったお店を食べ歩いたり、新規開店の情報が入ると訪問したりして、その情報をXで発信している。なぜ食べ歩きだけでなく、情報発信にも熱心なのか。
「インドカレーの多様性を伝えたいからですね。日本では、インドカレーといえばバターチキンやナンのイメージが強いですが、現地ではチキンカレー1つとっても地域や宗教によって全然違いますし、家庭で作るカレーとレストランのカレーも別物です。
現地のカレーは多様性にあふれていて、日本のインドカレーとはまた違ったおいしさがあります。現地スタイルのインドカレーがもっと人気になれば、そういうお店はさらに増えると思うんです。それを期待して情報発信を続けています」
八木さんの情報源はXと、八木さんが所属するインド人コミュニティだ。八木さんによると、近年は日本のIT企業で働くエンジニアがお金を貯めてインドカレー店を副業で始めるのがトレンドになっているという。
「直近10年で日本在住のインド人は2倍以上に増加しています。そのせいか、ここ5年ほどで現地スタイルの本格的なインドカレーを出す店が増えてきました。私の知っている範囲では、お金儲けではなく、自分のふるさとの味を日本の友人・知人に振る舞いたいと考えて店を始めるケースが目立ちますね」
■年に1回インド現地にも訪問
八木さんは国内だけでなく、インド現地のレストランの開拓にも熱心だ。大学3年のときから年1回はインドに行き、現地のレストランや知り合いのインド人の家庭を巡り、現地スタイルのカレーを味わっている。
「現地でお店を探す手段は、もっぱらインド版食べログ『zomato』とGoogleマップです。もう10年以上インドに行っていますから、最近ではGoogleマップの写真を見るだけで、おいしい店かどうかを判断できるようになってきました」
インド人と日本人の交流の輪を広げたいと、イベント「Indian Cooking Party」も開催している。インド人が日本人にカレーを振る舞ったり、カレー好きの日本人がインド人にカレーを振る舞ったりするクッキングイベントのほか、インド人シェフと協力して料理教室も企画する。
「インドカレーの多様性をもっと広めていきたいですし、優しくて家族思いのインドの人たちのことをもっと知ってほしいなと思っています」
ところで、八木さんにはインドカレー以外の趣味はないのだろうか。
「ありますよ。海外旅行が趣味なんです。ただ、行った先でも必ずインドカレー店を探しますね。たとえば、タイのカレーは何だかパクチーが多かったりするんですよ。そんなローカライズされたインドカレーを見つけるのが楽しいんです」
どこまで行ってもインドカレーが気になって仕方ない八木さんなのである。
■仕事で飲むときはインドカレー店を提案
普段の八木さんはコンサルティング会社に勤める会社員として、さまざまな企業の業務改善やプロジェクト推進の支援に従事している。
就業時間は9~18時。いまはリモートメインで、必要があれば出社している。繁忙期には残業もあり、忙しくて昼食時に外出できないこともあるため、新しいインドカレー店の開拓にはもっぱら土日を充てている。
「一時期に比べればコンサルティング業界もハードワークが減ったので、日付が変わるまで仕事をすることはありません。その分、日中はかなり集中して職場にこもって仕事をしていますから、平日のランチで食べ歩きをするのは難しいです。
そのかわりというわけではありませんが、仕事で飲み会をセッティングしなければならないときは幹事を買って出てインドカレー店を提案することが多いですね。職場にもカレー好きな人は多いですよ」
八木さんに今後やりたいことを聞いてみた。
「日本とインドのインドカレー店を開拓しつつ、世界中のローカライズされたインドカレーを食べて回りたいですね。フランスやイタリアのようにチーズやパン、トマトがおいしい国のチーズナンやインドカレーはどんなふうにローカライズされているんだろう、と気になっています。北海道もチーズがおいしいところですから、北海道のお店も開拓していきたいですね」
そのほかにも、現地スタイルのインド料理を日本人に振る舞いたい日本在住のインド人家庭と日本人旅行者をマッチングさせる取り組みや、インドに関するビジネスにも挑戦したい、と語る八木さん。
もはや「食べ歩きの人」というより、「日本とインドの架け橋」という言葉がぴったりだ。
【そのほかの写真も見る】これが銀座線カレー路線図だ! Xでバズったインドのケンタッキー再現料理や、日本で食べられるオススメインド料理店も
東洋経済オンライン
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最終更新:12/13(金) 10:02