投資初心者が知らない「投資と投機」の決定的な差 今から投資しても間に合うのかを考える

3/15 13:02 配信

東洋経済オンライン

 日経平均株価は3月4日に史上初の4万円台に到達するなど株式市場は好調に推移してきました。株価が上がってくると、投資でお金を増やした人の話も耳にしますし、「自分も投資してみようかなぁ」と思われるかもしれません。

 今回は“投資”をする際に、必ず頭の片隅にいれておくべき、一丁目一番地のお話をします。そして足元の株価はすでに高水準に達しているとの見方もありますので、今から投資しても間に合うのかを、PB”R”OEモデルを使って考えましょう。

■投資と投機はいったい何が違うのか

 まず、投資の際の一丁目一番地は「投資と投機の違い」をキチンと把握することです。証券用語辞典を使って投資と投機について調べると、投機は値段が上がりそうなタイミングを狙って売買するもの(”機”会に”投”じるから”投機”)、投資は長い目で見て利益を見込んでお金を投じること、といった説明もされます。

 このように“短期で利益を狙うのが投機、長期で狙うのが投資”と言うように期間の違いで説明すると、確かに聞いている方にとってはイメージしやすいとは言えます。しかし実は、投資と投機の違いの本質は期間ではありません。別のところにあります。

 正解は、投資は“投じたお金で価値の創造を期待するもの”、投機は“価値の創造を期待しないもの”です。もうすこしわかりやすく説明しましょう。例えば、ある友人がクラフトビールの製造・販売会社を作るとします。その会社に出資(投資)するケースを考えてみましょう。

 出資したお金は、原料の購入や設備投資などに使われてビールという価値のあるものが生まれます。企業がビール販売により得られる利益は価値を金額でわかるように評価し直したものとも言えます。毎年積み上がっていく利益が、将来、出資額を上回る見込みがあるなら、この会社への出資は投資となります。

 少々説明が難しかったかもしれません。もう一方の“投機”の説明がわかれば、投資のこともより深くわかります。投機は“価値を創造しないもの”です。代表的な投機は、商品相場でよく行われたりします。

 例えば、アメリカで干ばつが深刻な年には、小麦の収穫が減ります。供給不足を見込んで、事前に小麦を買っておけば、将来価格が上昇するので、もうけが期待できるというものです。小麦を買った人は、投じたお金が何かの生産活動で価値を生むことを期待しているわけではありません。単純に小麦の供給不足で値上がりを期待するというものです。

 少し難しいお話に聞こえたかもしれませんが、ポイントは投じたお金が価値を生むものに使われて、将来、投じたお金を上回る価値が期待されるなら“投資”。そうでなけれれば“投機”のようにザックリと捉えるくらいで十分です。

■株価が堅調に推移してきた背景

 ところで、足元にかけて株価が堅調に推移してきた背景にはさまざまな要因があります。1月からの新NISA(ニーサ、少額投資非課税制度)開始で個人投資家の株式投資姿勢が高まってきたことも、その1つです。また、外国人投資家の日本株の大幅買い越しなども株高の牽引役となってきました。その外国人投資家の買いが増えた大きな理由には、日本株の投資魅力が高まってきたこと、そして、今後も魅力が高まるだろうとの期待があります。

 昨年3月に東京証券取引所(東証)から上場会社に対する要請がウェブサイトで公開されました。内容は、株価の上昇を目指して、経営者が企業の魅力を高める意識を持ってほしいとの趣旨です。先ほど解説した“投資”の定義にも関係しますが、魅力を高めるには、企業が“価値をどれだけ創造できるか”が重要です。

 これは企業が投資家から集めたお金、つまり株主資本に対して、どれだけ利益を稼げるか、つまり収益性の尺度であるROE(アールオーイー、株主資本利益率=純利益 ÷ 自己資本)を高めるということになります。

 東証からの要請内容は、企業の収益性を高めるための取り組みなどや、実施時期も広く開示してほしいというものでした。そのフォローアップとして、今年1月には、要請に基づいて取り組みなど開示した企業一覧が東証のウェブサイトで公開されました。

 一覧に名前がない企業は株価上昇を目指すための姿勢を示していないというプレッシャーを受けることにもなります。東証からの開示は毎月行われることから、今後、さらに開示企業が増えていくでしょう。こうした企業の投資魅力を高める姿勢に期待した外国人投資家が日本株を買い越してきたと見られています。

■PBRの根底にある考え方とは

 ところで、経営者は企業の投資魅力を高めれば、その先の目標が、株高を目指すものです。実際に株価がどれだけ高くなるかはシンプルに株価水準を見ることでもわかりますが、企業価値との関係から考えるなら、PBR(ピービーアール、株価純資産倍率=株価 ÷ 1株当たり純資産)が使われます。

 PBRの根底には、次のような考え方があります。会社が所有する土地や建物などの「資産」から、銀行からの借り入れなどの「負債」を引いたものが、その会社の株主が保有する権利があると見られる資産(純資産)です。

 PBRがちょうど1倍ということは、株価と1株当たり純資産が等しいことです。そしてPBRが1倍を上回って上昇するということは、株価が1株当たり純資産を上回るわけですから、この分は投資家から企業に対する“価値の創造”への期待になります。

 価値の創造は、ROEの高さと関係することは先ほど述べましたが、”ROEが高い企業は、価値の創造への期待が高く、株価も上昇することで、PBRが高くなるという関係”があるのです。

 そこで日経平均株価を使って、実際のROEとPBRの関係を見てみましょう。

 散布図グラフは、日経平均株価の予想ROEとPBRをそれぞれ、横軸と縦軸でプロットしたものです。散布図ですから時間の経過はわかりません。例えば、直近月末の2024年2月の日経平均株価のROEは8.8%、PBRが1.4倍ですから、グラフのなかの黒点に位置します。

 このように、2004年6月から毎月末の日経平均株価のROEとPBRを使ってプロットすることで、下図の散布図が書けるのです。

■ROEとPBRの関係

 この散布図については、赤丸の領域となるROEが8%以上のとき(図の右側)と、白抜き丸領域の8%を下回るとき(図の左側)の2つに分けて説明する必要があります。

 まず、“ROEが8%以上のとき”を見ると、赤丸は青矢印に示されるように左下から右上の方向に向かってプロットしています。横軸のROEの上昇に連動してPBRが高くなっている傾向です。実際の日経平均株価で見てROEが高くなると、価値の創造への期待が高く、株価も上昇することで、PBRが高くなるという関係がうかがわれます。

 ここで統計の代表的な手法の回帰分析を用いてみましょう。回帰分析は青矢印に示される右上の方向を一方の直線で説明した式を表します。その結果PBR=-2.02 +0.38×ROEという式が求められました。算出式でROEと掛け合わされている値が0.38となっています。これはROEが1%上がると、PBRも0.38倍分上がることを表します。

 PBRは純資産に対してどれだけ株価が買い上げられるかを見るものですから、ROEが1%上がると、純資産の0.38倍分株価が買い上げられることを示します。このようなROEとPBRの回帰式を筆者はPB”R”OE(ピービ―アールオーイー)モデルと呼んでいます。

 一方、“ROEが8%を下回るとき”のPB”R”OEモデルはどうなるのでしょうか。ROEに掛け合わされている値は-0.01とほぼゼロです。これは8%を下回るとROEの水準とPBRがほとんど関係していないことを示しています。ROEが8%以上の時と違って、横軸のROEの上昇に連動してPBRが高くならないのです。

■投資家や企業に大きな衝撃を与えた報告書

 今から10年近く前になりますが、2014年8月に経済産業省から「持続的成長への競争力とインセンティブ」と題する報告書が発表されました。プロジェクトの座長が、現在、一橋大学の名誉教授となっている伊藤邦雄氏だったことから、報告書は通称“伊藤レポート”と呼ばれています。この報告書ですが発表当時、投資家や企業に大きな衝撃を与えました。

 企業は“8%を上回るROEを最低ラインとし、より高い水準を目指すべき”と記されていたからです。その理由は、ROEが8%を上回る場合のみに付加価値を創造できるとされたからです。ですから8%を下回るときは価値が創造できないため、ROEが上がると株価も上がるという関係が見られなくなります。1株当たり純資産が株価を支えるためPB”R”OEモデルは横這いとなるのです(図中の黒点線)。

 3月11日の日経平均株価は868円安となり3万8820円まで下げました。

日経平均株価がいったん、4万円台に乗せたことで、市場に達成感が広がりましたが、これまでの株高で稼いだ利益を確定するために手仕舞いの売りをする投資家が少なくなかったことが大きな要因です。

 株価が下がり始めると相場の先行きに不安を感じる方も少なくないでしょう。

 そこでPB”R”OEモデルを使って、日経平均株価の適正と見られる水準を試算してみます。

 次に紹介する計算は難しく思われるかもしれません。ですから、そういう方法もあるのかという程度で捉えてもらって十分です。

■足元の日経平均株価は割高と言える? 言えない? 

 まず、日経平均株価の1株当たりの純資産は2月末の日経平均株価3万9166円÷PBRの1.50倍から求めると2万6110円です。一方、日経平均株価の1株当たりの予想純利益は2365円(日経平均株価3万9166円÷今期予想PERの16.56倍)です。

 足元の1株当たりの純資産にこの純利益を足して、今期予想の1株当たり配当額となる677円(日経平均株価3万9166円×今期予想配当利回りの1.73%により算出)を引いた値が今年度末予想の1株当たりの純資産2万7798円です(予想1株当たり純資産=1株当たり純資産+予想1株当たり利益―予想1株当たり配当)。

 仮に、来期増益率を8%程度と考えましょう。この場合に、先ほどの日経平均株価の1株当たりの予想純利益が8%増えますから、2554円です(1株当たりの予想純利益は2365円×1.08)。その結果、来期予想ROEは9.2%と計算できます。

 ここで「PBR= -2.03 +0.38×ROE」のPB”R”OEモデルを使います。ROEに9.2%を入れると、妥当なPBRは1.466倍となります。さらに、今年度末予想の1株当たりの純資産の2万7798円を乗じれば(1.466倍×2万7798円)、日経平均株価の適正と見られる水準は4万752円と試算されました。

 来年度の増益率が8%であれば、日経平均株価の試算値は4万円を超える計算となることがポイントです。PB”R”OEモデルから見ると、足元の日経平均株価は割高とは言えないようです。

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最終更新:3/15(金) 13:02

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