「爆破予告者」の犯人像と日常生活における注意点 いたずらでは終わらず甚大被害を及ぼすケースも

5/18 9:21 配信

東洋経済オンライン

 今月6日、全国で犯行予告が相次いだ。

 那覇市では、那覇市文化振興課宛に、「午後1時34分に施設を爆破する。たくさんの人間が死にます」という内容のメールが届き、7日昼すぎに那覇市役所で誰の物かわからないスーツケースが見つかり、市役所にいた人を避難させた騒ぎがあった。スーツケースは来庁者の忘れ物と判明したが、爆破予告は悪質ないたずらとみて警察が捜査を行っている。

 また、同日、新潟県上越市本城町の高田城址公園オーレンプラザなど2カ所に「施設を爆破する」旨のメールが届いた。爆破予告時刻は7日午後1時34分で、前述の那覇市の事件との関連も指摘され、同様のメールはさいたま市にも届いたほか、南相馬市などにも届いている。

 これら爆破予告は、施設利用者等の避難を強いるほか、市民に多大な不安を与え、各施設や警察業務を著しく阻害する極めて劣悪な犯罪で、犯行態様によっては威力業務妨害罪や偽計業務妨害罪、脅迫罪等の犯罪の構成要件を満たす。

 過去には、サンリオピューロランドにテロ予告メールが届き、臨時休館となったほか、ディズニーリゾートや周辺施設に対する爆破予告のメールが届き、警察が不審物有無の確認対応に追われるなど、爆破予告の影響は極めて大きい。

■過去最悪の被害をもたらした「恒心教」事件

 2023年8月には、過去最悪の被害を出した事件が摘発された。全国の学校や自治体、企業などに爆破や殺害を予告するファクス30万件以上が送信され、20代の男2人が威力業務妨害の疑いで検挙されたのだが、男らは、ネット経由でファクスを大量送信するサービスを使用、この際に匿名化ツール「Tor」を経由してアクセスしていた。

 この匿名化ツールなど、幾重にも偽装を行う手法が捜査を困難にしている実情があるが、本件は警察の緻密な捜査により検挙に至った。

 男らは、動機として、「アピールしたかった」「大ごとになるのが面白かった」などと供述しているほか、特定のネット掲示板で弁護士らへの中傷を繰り返す「恒心教」を広めたかったという。

 男らが行った爆破予告事件は、いわゆる「恒心教」の“ノリ”で犯行を行い、本気で爆破させる意図はなかったと推察されるが、犯行前後に掲示板に書き込みを行うなど一定の自己顕示欲も見られる。(それも含めて彼らにとっては“ノリ”であると推察される)

■爆破予告者の動機と犯人像

 爆破予告を行う者の動機はどこにあるのだろうか。近年の爆破予告事件の動機は、いたずら目的、自己顕示欲、憂さ晴らしといったものがほとんどだ。

 2009年、財津亘氏による調査研究「最近10年間の爆破予告犯罪における犯人像の分析」によれば、警察資料・ネット・新聞を基に、1999年から2008年6月までに発生し検挙された80名の事件情報を収集し調査した結果、電話および電子ツール(ネット掲示板や電子メール)を使用して爆破予告を行った犯人の動機は以下の表のように示された。

 (※外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

 電子ツールによる爆破予告では、電話に比べていたずら目的の動機で大きく差分が出ていることがわかるほか、金銭目的の部分でも大きな差分が確認できる。

 また、犯人像について、電話および電子ツールを使用して爆破予告を行った犯人の犯罪歴や爆破予告対象との関係でも顕著な傾向が見て取れる。

 さらに、電話および電子ツールを使用して爆破予告を行った犯人の年代は以下の通りだ。

 電子ツールによる爆破予告では、20代以下が87%を占めている。その傾向は直近の検挙事例とも概ね一致する。

 本調査研究は今から15年前のものであり、現在と社会情勢やSNSの普及など犯行予告に使用できるツールの違いも大きいことから、あくまで参考にとどまるが、本研究が示す傾向は興味深い。

 そこで、筆者が、公開情報に基づき最近5年間(2020年~2024年5月現在)における電子ツール(SNS、ネット掲示板、HP問い合わせフォーム への連絡、電子メール、インターネットFAX送信サービス)を利用した爆破予告の検挙事例19件を確認したところ、前述の傾向を示す類似の内容が確認できた。

 ・犯人の年代は、20代以下が84%を占める

 ・ 全て「憂さ晴らし」「いたずら」「逆恨み」の動機によ

 ・ 犯人と犯行予告対象との関係について、84%が関係なし

 なお、参考ではあるが、同期間で電話・手紙を使用した爆破予告は15件確認でき、その内容は以下の通り。

 ・20代以下の犯行は13%、13件は全て30代~60代であった。

 ・「憂さ晴らし」「いたずら」「逆恨み」の動機によるものであるが、具体的な対象への「恨み」が散見された

 ・犯人と犯行予告対象との関係について、73%が関係なし

■犯罪意識の欠如と爆破予告の手軽さ

 ネットが普及する前の犯行予告は、電話や手紙による手法が一般的で、 “足がつきやすい ”ため、その犯罪意識に一定程度の強度があったわけだが、ネットの普及に伴い、掲示板やメール、SNSなど“気軽”に犯行予告が行えてしまう土壌が生まれた。

 その気軽さが犯罪意識の低さを生み出し、犯行予告を増長させている可能性もある。犯行を行った者の中には、ただの“いたずら”を主とした動機も散見され、中には小中学生による犯行も散見される。

 その“犯罪意識の欠如”と“犯行予告の手軽さ”という土壌が犯行予告を容易にしてしまっている環境も問題であろう。

また、株式会社Specteeが2020年10月に発表したレポート「【SNS分析】爆破予告の急増について」によれば、2019年10月1日から2020年9月30日までの1年間で爆破予告を覚知した件数は176件。うち、コロナ禍が本格化した2020年6月頃から爆破予告が急増、コロナ禍のストレスが爆破予告の増加に影響している可能性があるという。

 爆破予告対象として最も多かったのは「教育機関」で、総件数85件のうち、実に69%を占める59件が「大学」を対象としたものであった。このように、環境が与えるストレスも爆破予告を行う動機となっていると言えよう。

 では、爆破予告を含む犯行予告は実行されないのだろうか。今年、世間を震撼させた“桐島聡”の発見劇は記憶に新しいが、その桐島聡が所属した東アジア反日武装戦線による三菱重工爆破事件(1974年発生)では、三菱重工ビルの電話交換手に時限爆弾を設置したから退避するよう爆破予告電話をかけたが、「単なるイタズラ」と捉えられたため、避難処置はとられず、死者8名、負傷者376名といった多大な被害をもたらした。

 また、爆破予告ではないが、犯行予告を行った者が、実際に犯行を実施した事例は多数ある。

 2000年5月に起きた「西鉄バスジャック事件」では、犯人がネット掲示板に犯行予告ととれる書き込みを行っている。

 さらに、2008年6月の秋葉原通り魔事件でもネット掲示板で予告が行われている。

 2019年7月に発生した京都アニメーション放火殺人事件では、事件の前に同一のIPアドレスから殺害予告が相次いでいたが、匿名化ツールが使われており、死刑判決を受けた被告との関係は裏づけられなかったが、その関連を指摘する声もある。

 最近の爆破予告は、その予告内容から前述の事件のように「必ずやる」という強い意志が感じられないものが多い。最近でも爆破予告が相次ぐ中で、我々社会もオオカミ少年のようにその報道に随分慣れてしまっている部分があるが、実際に切迫性のある爆破予告がなされた際、我々は真剣に避難行動がとれるだろうか。

■爆破予告に対する基本的な心構え

 爆破予告に対しては“本物である”という心構えで十分警戒し、備え、厳格に対処しなければならない。

 官公庁や教育現場でも危機管理マニュアル上、爆破予告に対処するフローが整備されているが、基本的に、前述の実際に犯行が行われた事件を教訓とし、“いたずらだ”と軽く認識しないことが極めて重要だ。

 しかし、すべてが“本物“と仮定して避難行動をとることは組織の活動に大きな支障をきたすため、それもナンセンスである。

 爆破予告が、いたずらか否か見極める脅威評価の指標として、

 ・犯行予告の具体性(標的、場所など)

 ・匿名か否か(氏名や団体名を名乗っているか)

 ・要求の有無(金銭的要求など)

 ・予告に関連する事象の有無、連続性

 といったものが挙げられるが、結論としては、原則通り、整備された危機管理マニュアルに沿って関係機関と速やかに連携して対処すべきであることは言うまでもない。

■日頃の備えとして重要な訓練

 危機管理マニュアルが整備されていても、そのフロー通りに動けない可能性もあるため、以下の点に注意して訓練しなければならない。

 ・行動/避難基準、対応要領を定め、全職員に周知させる。

 ・爆破予告を受けうる全職員に対し、爆破予告への対応要領を周知し、訓練を行う。

 ・電話対応の場合は、犯人のなまりや周辺の音などの留意するべきポイントがある。

 ・実際の避難時に混乱しないよう避難訓練を反復実施する。 

 ・パニック状態なると、人的および物的損害の可能性が飛躍的に高まる。

(外務省「海外へ進出する日本人・企業のための爆弾テロ対策」)

 また、米国CISA「BOMB THREAT GUIDE」では、SNSやEメールで爆破予告を受け取った際の対処要領について以下のように示している。

 ・インターネット、ソーシャルメディア、電子メールのアカウントをログアウトしない。

 ・デバイス上でメッセージを開いたままにする。

 ・印刷、写真撮影、スクリーンショットを行う、またはメッセージと件名をコピーする。

 ※英国NaCTSOでは、さらに「警察の捜査に役立つよう、組織のすべてのWebログファイルを保存する」ことを求めている(目安として、爆破予告受理の7日前とその後48時間のデータ)。

 そして、実際に爆発物などの不審物が発見された場合は、以下の点に注意して、爆発物対応3原則「触るな、踏むな、蹴とばすな」を守って行動しなければならない。

 ①不審物に触ることなく、速やかに物件から遠ざかり、警察等関係当局へ通報し、事後の処理を依頼する。

 ②不審物が小さくとも軽視しない。指サックやライター大の爆弾で人を殺すこともできる。

 ③物件は一つだけとは限らない。犯人は分かりやすい所に一個を仕掛け、他の爆弾から注意をそらせ、より大きな被害を発生させようと考えていることがある。

 (外務省「海外へ進出する日本人・企業のための爆弾テロ対策」から抜粋)

 最後に、爆破予告は悪質極まりない犯罪である。

 警察庁は、犯行予告のあった事件を未然に防止するためには、警察が犯行予告を早期に把握することが必要不可欠であるとし、インターネット上の犯行予告を発見した時は、警察への通報(緊急の対応を要する場合は110番通報)を要請している。

 警察による徹底的な捜査により1件でも多く立件されることを願いつつ、我々社会も爆破予告に慣れてしまわないよう、日頃から危機対応を心掛けておかなければならない。

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最終更新:5/18(土) 9:21

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