中国人オーナーを悩ませる「使えないEV」
(文 藤 和彦) 中国国内で電気自動車(EV)を購入した16万人ものオーナーが、「修理難」に陥っているという。
中国メディアの「澎湃新聞」が伝えたところによると、修理難は新興EVメーカーの「威馬汽車」や「天際汽車」、「愛馳汽車」などが生産停止に追い込まれたことで、部品や技術の供給が無くなってしまったことが原因だという。
中国では、供給過剰による新興EVメーカーの倒産が相次いでおり、オーナーたちはそのあおりを受けたかたちだ。EV購入者の2人に1人が「買わなきゃよかった」と後悔しているとも言われ、国内でのEV離れを加速させるのではないかと不安視されている。
中国政府は自動車ローンの頭金比率の引き下げによる販売促進を検討しているが、専門家の間では「うまくいかない」の見方が大勢を占める(3月15日付ロイター)。
習近平の「経済粛清」で生贄となる「中国製EV」
EVの売り上げ低迷に拍車をかけているのは、言わずもがなだが中国の内需低迷だ。
その不況の権化の不動産危機は、悪化の一途をたどっている。
恒大集団、碧柱園に続き、不動産開発2位の万科まで経営難に陥ってしまった。
住宅ローンの延滞件数も急増しており、消費に対する一段の下押し圧力となっている。このため、中国経済の需給ギャップがさらに進んでいる。
中国政府が発表した1~2月の工業生産は前年比7.0%増と昨年12月の6.8%増から加速した。一方、消費動向を表す小売売上高は前年比5.5%増と昨年12月の7.4%から減速した。
高価で“不便な”EVを買おうという気前のいい人間は、どんどん減っているわけだ。そのため、中国EV企業は、不景気でモノが売れなくなった国内に見切りを付けて海外進出が加速させつつある。
しかし、そこには世界の中国EV包囲網が立ちはだかっている。
世界で嫌われる「中国製EV」
中国のEVの性能は世界屈指である。EVを土台とした自動運転車の開発競争が世界規模で熾烈さを増しているが、その先頭を走っているのはアメリカではなく中国である。
米テスラモータースのイーロンマスクCEOも中国の自動車メーカーを「最も競争力がある」と評したとされるが、かえってそれがアメリカの「中国脅威論」に拍車をかけているようだ。
イーロンマスクは、こう発言したという。
「どのような関税、貿易障壁が設けられるかにもよるが、(中国EVは)中国以外でも大きな成功を収めるだろう」
「貿易障壁がなければ、世界の同業のほとんどを打ち負かすだろう。彼らは非常に優秀だ」(台湾メディア『中時新聞網』3月15日付・Record China3月19日付を参照)。
中国の高性能EVは、車載のセンサーや機器によって情報収集されたビッグデータの賜物だ。しかし、そのことが「自動運転車」やEVによる「コネクティッドカー(繋がる車)」への安全保障上の警戒感を高めている。
この傾向が特に強いのが米国だ。中国製EVは、国内もダメ、海外でもダメ、特にドル箱市場のアメリカでもっとも苦境に陥っているようなのだ。アメリカではトヨタをはじめ日本製のハイブリッド車が売れているという。
しかも、中国勢の劣勢の要因はそれだけではない。
アメリカは、単に安全保障上や競争優位性から、中国製EVを排除しようとしているのではない。その背景の実態には、恐ろしいほどに高まった「嫌中感情」がある。
後編「「中国EV」が窮地に立たされた「本当の理由」…アメリカで加速する「中国ぎらい」と、エスカレートする「アジア排斥運動」恐怖の実態」では、その実態を明らかにし、米中分断の深刻な一面を詳しく解説していこう。
マネー現代
最終更新:3/27(水) 10:56
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