【スクープ】創業270年超の名門百貨店が私的整理へ!「お手盛り」再生計画に疑問の声も

5/11 5:56 配信

ダイヤモンド・オンライン

 鹿児島県唯一の百貨店である「山形屋(やまかたや)」が借入金の返済に行き詰まり、グループ会社16社とともに私的整理の一種である「事業再生ADR手続き」に入っていることがわかった。複数の関係者が認めた。(東京経済東京本部長 井出豪彦)

● 事業再生ADR手続きを 申請したのは昨年12月

 山形屋は宝暦元(1751)年、出羽国山形出身の源衛門により創業された。安永元(1772)年に薩摩藩の商人招致を知り、鹿児島城下木屋町(のちの金生町)に呉服店を構え、「山形屋」と称したという。大正5(1916)年にルネッサンス式鉄骨鉄筋コンクリート(地下1階~地上4階)の新店舗が落成し、翌年「株式会社山形屋呉服店」として法人化された。

 地元では押しも押されもせぬ名門企業である。現在の会長である岩元純吉氏(56)と社長である岩元修士氏(54)は兄弟で、共に慶応大学を出て伊勢丹(当時)で修業した。ただし、三越伊勢丹ホールディングスとの資本関係はない。

 周知の通り、地方都市で百貨店の経営環境は厳しい。鹿児島では2009年に三越が撤退した。クルマ社会では大規模な駐車場を備えた郊外型ショッピングモールの集客力が圧倒的だ。さらに20年からの新型コロナウイルス禍がダメ押しとなり、業績の悪化から資金繰りがつかなくなった。

 関係者によれば、23年5月にメインバンクである鹿児島銀行が主導する形でバンクミーティングを開催し、借入金の返済を一時停止して、事業再生ADR手続きに入る方向性が銀行団に示されたという。翌月以降、鹿銀が優先弁済を受ける権利のある「プレDIPファイナンス」として当座の運転資金約25億円を貸し出した。その後、23年12月に経産省認可の第三者機関である「事業再生実務家協会」に正式にADR手続きを申請し、受理された。

● 今月の債権者会議の結果次第で 法的整理に移行する可能性も

 申請したのは、山形屋と資産管理会社である「金生産業」(鹿児島市)、グループで百貨店業の「川内山形屋」(薩摩川内市)、「国分山形屋」(霧島市)、「宮崎山形屋」(宮崎市)、「日南山形屋」(宮崎県日南市)、さらに食品スーパー子会社の「山形屋ストア」(鹿児島市)や飲食店子会社の「ベルグ」(同)など計17社。

 23年2月期時点で17社の売上高の合算は約740億円、有利子負債の合計は約360億円で、対象債権者(取引金融機関)の数は鹿銀を筆頭に全部で20社弱という。

 その後、銀行団にはデューデリジェンスの結果報告を経て、今年4月の債権者会議で5カ年の「事業再生計画案」が示された。そして今月下旬に予定される次回の債権者会議で事業再生計画案の決議が行われ、対象債権者すべての同意が得られれば、成立となる。万一、マレリホールディングスのときのように1行でも反対に回れば、法的整理に移行することになる。

 関係者によれば、事業再生計画案の骨子は、DES(デット・エクイティ・スワップ=債務株式化)40億円とDDS(デット・デット・スワップ=借入金の劣後ローン化)70億円を実施し、残る250億円の借入金についても大部分は5年間返済を棚上げするというもの。スポンサーはつかず、自主再建を目指すとしている。

 グループの合理化・再編を通じてホールディングス体制に移行し、鹿銀から2人、「ルネッサンスキャピタルグループ」(東京都港区)から1人の出向者を受け入れるという。ルネッサンスは地域の事業再生に強いファンドの運営会社として知られる。山形屋の会長と社長は経営責任を取って当面報酬を全額カットするが、退任はしない方針だ。

● 事業再生計画について 「お手盛り」との不満の声も

 この5カ年計画について事業再生分野の実務家は「圧倒的なシェアを持つメインバンクの鹿児島銀行が主導しており、表立って反対する金融機関はいないから成立は間違いないだろう」とした上で、「しかし、抜本的な再生とは程遠いお手盛りの再生計画だ」と不満をあらわにする。どういうことか。

 5カ年計画では、DESにより銀行団に発行する40億円の優先株の買い入れ消却予定やDDSにより生じる70億円の劣後ローンの返済予定が示されておらず、再生の出口に対してどのように責任を負うのかが明確になっていないのが最大の問題だという。

 地方百貨店というビジネスモデル自体がきわめて厳しい状況にあるなか、本業の利益を回復させて出口(弁済計画)を見出すのが無理なのであれば、有力なスポンサーを連れてくるしかないはずだが、その議論は先送りされた。

 前出の実務家は「山形屋グループのADRはADRが本来想定した利用のされ方から乖離している」と指摘する。「こうしたお手盛りのADRで一番もうかっているのは計画づくりに関与する弁護士、会計士、コンサルタントなど。彼らは裁判所を通じた法的整理になってしまうと稼げない。実際は法的整理で債権カットにより過剰債務問題を解消したほうがよほど当該企業にとっては迅速に抜本再生を果たせるケースは多いはずだ。しかも、彼らはADR手続きで再生計画の入り口にしか責任を持たない。ADRが格好のメシのタネになってしまっている」。

● 仮にADRが成立しても 経営再建のスタートにすぎない

 ADRは法的整理と異なり非公表で商取引債権者には影響を与えず、事業価値の毀損(きそん)を最小限にとどめられるという利点があり、しかも迅速かつ柔軟な手続きのはずだった。山形屋グループのADRでは5年後もDES(優先株)とDDS(劣後ローン)の合計110億円はそのまま残り、その他の借入金もほとんど返済されない。仮に返済原資が生まれても鹿銀のプレDIPファイナンス約25億円の弁済が優先される。

 「最終的にスポンサーを見つけるのか、法的整理になるのか、いずれにしても今回のADRは単なる時間稼ぎではないか」(一部の債権者)という声が上がるのも無理はない。

 最近は百貨店の閉店のニュースが相次ぐ。島根県唯一の百貨店だった「一畑百貨店」は今年1月に閉店し、百貨店のない県は山形、徳島に次いで3県目となった。さらに7月には岐阜県唯一の百貨店である高島屋岐阜店が閉店を予定している。長野県松本市唯一の「井上百貨店」も来年3月で営業を終えることが決まった。

 また、近鉄百貨店は29年2月期までに本店以外の「近鉄百貨店奈良店」(奈良市)や「近鉄百貨店和歌山店」(和歌山市)など郊外9店舗で店名から「百貨店」を外す方針を明らかにしている。アパレルなどのテナントを誘致する従来の百貨店モデルから脱し、日常使いの商業施設として生き残るための苦肉の策だ。

 山形屋については今月末にかけて仮にADRが無事成立したとしても、経営再建は緒に就いたにすぎないといえるだろう。

 なお、ダイヤモンド・オンラインは山形屋に質問状を送付したが、「今回のご質問には回答致しかねます」として、回答を得られなかった。

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最終更新:5/11(土) 5:56

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