(ブルームバーグ): 為替市場では、ボラティリティー低下を見込む取引が利益を生む機械になっている。ウォール街の金融機関によると、顧客はその逆の取引に見切りをつけているという。
1日7兆5000億ドル(約1128兆円)が取引される外国為替市場における大きな変化だ。新種のアルゴリズムトレーダーが市場が平穏であることに賭けるようになり、かつて収益機会だった変動はほとんどなくなった。バンク・オブ・アメリカ(BofA)、ナットウエスト・グループ、UBSグループの通貨デリバティブ責任者たちにとっては、為替変動が小さくなることに賭ければ誰でも利益を得られるサイクルが生まれている。
ショートボラティリティーのトレンドは株式からコモディティーに至るまでさまざまな市場を変貌させている。このような穏やかな環境が新たな現実なのかと疑問視する向きもある。もちろん、コンピューター主導のファンドが間違っていて、次の相場変動が迫っているというリスクもある。
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ナットウエスト・マーケッツで通貨オプション取引の責任者を務めるヘンリー・ドライスデール氏は「システム化されたボラティリティー売りファンドの出現と優位性は、少し自己実現的だ」と言う。「この戦略が成功すれば、さらに多くの投資家がこの分野に参入して取引は集中し、ますます多くの参加者がより低レベルでボラティリティーを売るようになる」という。
例えば、ルーミス・セイレスのオルタナティブ・リスク・プレミア・ファンドは、機械学習を使ってボラティリティー市場の非効率性と行動バイアスをターゲットにする。このファンドは昨年15%のリターンを上げ、ボラティリティーの低下に向けてポジションをとり続けている。
ルーミス・セイレスのシステマティック投資戦略責任者、ハリシュ・スンダレシュ氏は「こうした戦略はとてつもない利益を生む可能性がある」と述べた。しかし、簡単に利益が得られる状態が5年以上続くという見方には疑義を呈し「蒸気機関車の前で小銭を拾っているようなものだ」と警告した。
平穏に賭ける
ボラティリティー売りによって、JPモルガン・チェースのグローバルFXボラティリティー指数はすでに3年で最低の水準まで低下している。激動で悪名高い新興市場通貨でさえも静まりかえっている。
従来であれば、資産運用者はこのような状況を、より大きな変動に対する安価なヘッジを手に入れるチャンスと捉えていたが、現在ではそのようなヘッジを手に入れる理由はほとんどないと考えている。
市場が落ち着いているもう一つの理由は、主要中央銀行が今年利下げを実施すると予想されており、それが通貨を同じような方向へ押しやっていることだ。
BofAのグローバルG10バニラFXオプション責任者、ジュリアン・ワイス氏は「ほとんどの中央銀行が同じことをすると考えれば、為替が動く自然な原動力はない。外国為替のスポット価格がほとんど動かないという悪循環に陥っており、方向性のあるマクロ的な取引にレバレッジをかける需要も減っている」と話した。
もちろん、皆が一方向の取引に集中することにはリスクもある。4年前にもボラティリティーの指標は低下し、トレーダーは価格変動に賭ける未来があるのか疑問に思っていた。その後、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が発生し、ボラティリティーは過去の金融危機で見られたレベルまで急上昇した。
ソシエテ・ジェネラルのクロスアセットクオンツ調査責任者、サンドリーヌ・ウンガリ氏は「ボラティリティーのショート戦略は重力のように作用し、市場を安定させ、誤った安心感を与える可能性がある。それを止めるのに必要なのは、たった一つの大きな出来事だけだ」と述べた。
とはいえ、利下げや米英の選挙など、近い将来のリスクを市場が心配している気配はない。欧州最大の資産運用会社であるアムンディのグローバルFX部門責任者、アンドレアス・ケーニッヒ氏は「あと1年たってもボラティリティーが上がらない可能性はある。今のところ、きっかけは見当たらない」と話している。
原題:Short Volatility Trades Are Starting to Rule Currency Markets(抜粋)
--取材協力:Vassilis Karamanis、Naomi Tajitsu、Justina Lee.
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最終更新:3/19(火) 17:01
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