子どもを幸せにする非認知能力「創造性」の育み方 「目に見えない世界」に心を遊ばせよう

3/28 15:02 配信

東洋経済オンライン

「思考力・表現力・判断力・創造力」といったAIに真似のできない力を持つ子が優秀とされつつあるなか、家庭では子どもをどうサポートしていけばよいのでしょうか。話を聞いたのは、自身の国語教室から一流難関校への合格者を毎年輩出している久松由理氏。近著『10歳からの考える力を伸ばす 名画で学ぶ作文ドリル』でも取り上げた、アートを用いて非認知能力を伸ばす方法をご紹介します。

■授業で育てることも難しいとされる「非認知能力」

 「非認知能力」、最近よく見聞きする話題の教育ワードですよね。この能力は、想像力、創造力、協働力、コミュニケーション能力、客観的思考力、学ぶ意欲、人間性などなど、従来の日本のテストでは点数をつけることができず、授業で育てることも難しいとされる能力です。

 「非認知能力」が世界的に注目され始めたきっかけは、2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマンさんが行った「ペリー就学前プロジェクト」という調査でした。この調査で、大人になってからの幸福や経済的安定には、「認知能力(IQ)」の優劣よりも、幼少期に「非認知能力」を身につけているかどうかが大きく影響することが明らかになったのです。

 日本でも近年、「総合型選抜入試」など非認知能力を含めて総合的に人物を評価する新しいスタイルの大学入試枠が急増し、重要視されるようになりました。その非認知能力の中でも、AI時代に特に重要とされ、関心が高まっているのが「創造力」です。

 「創造力」とは、なんらかの価値あるものを新しく生み出す力のこと。今のところ、AI(人工知能)はデータのないところからなにかを生み出すことができないので、無から有を生み出せる人間ならではの「創造力」が、これからの時代を埋もれずに生き抜くために必須の力だと言われ始めたのです。では、この「創造力」、いったいどうやって育てればいいのでしょうか? 

■創造力を駆使して挑む「物語創作」

 私の教室では、入室初年度のお子さんに、国語を学ぶための基礎的な<語彙>と<ものの見方>をインプットする入門クラスがあるのですが、そのクラスの卒業課題が、まさに創造力を駆使して挑む「物語創作」なのです。

 絵日記すら一人で書けないというお子さんでも、しっかりと国語の基礎を学び、毎日読書をしてもらって、物語の構造を指導いたしますと、個人差はありますが大抵1年くらいで、親御さんたちも驚くほどの素晴らしい物語が書けるようになります。

 帰国子女のH君は、入室時、じっくり自分の頭で考えるということをしてくれず、一文を書くことすらままならなかったのですが、コツコツ読書と作文練習を積み重ね、この春、卒業課題に挑むことになりました。

 果たして、H君に長い物語が書ききれるだろうか?  H君の創造力がどこまで伸びているのか、日頃の短作文だけで計り知ることは難しく、私はかなり心配していました。ですが、その心配は全くの杞憂でした。

 H君は、24時間営業のピザ屋で働く、睡眠時間の短い男性「タケさん」を主人公に設定し、タケさんがふらふらの状態でピザの宅配をする様子を面白おかしく描いて、私を笑わせてくれました。

 そして、その翌週の授業では、タケさんが交通事故にあい、店長がタケさんのためにピザ屋の営業時間を22時間に短縮したことで、タケさんの睡眠不足が解消されるという、ユーモラスな物語を書き上げたのでした。

 また、作文が苦手だった4年生の女の子も、この春卒業課題に挑み、実に見事な長編ファンタジーを執筆してくれました。この子が生み出した主人公は、人を見ると寿命がわかるという特殊能力を持った少女。両親の寿命が長くないと知った少女は、寿命が延びる花を探しに、友人たちと冒険の旅に出ます。

 ところが、その旅が長くて長くて、いっこうに物語が終わる気配が見えません。私はまた心配になってきました。というのも、物語は書き始めるのは簡単なのですが、終わらせるのが難しいのです。大人でも途中で投げ出す人が多いのですから、私はいつも、生徒たちが執筆を途中で投げ出さないかと、ハラハラしながら見守っているのです。

 ですが彼女は、思いもよらない素敵な方法で、物語を一気に終盤へ持ち込みました。冒険の果て、森の中で目覚めた少女の前に現れたのは、なんとユニコーン。少女はユニコーンに導かれ、寿命を延ばす花の場所に無事たどり着いたのでした。私は、この幻想的で美しい物語の展開に感動し、子どもの創造力の凄さに舌を巻きました。

 こうした創作課題は、クラスが進級しても時々出題しますので、中学生・高校生も素晴らしいストーリーを創ってくれます。語彙も増え、筆力も年々上がるわけですから、学齢が進むにつれ表現力が磨かれるのは当然のことです。ですが、爆発的な創造力の伸び、大人の想像を超える奇想天外なストーリー展開を考え出す力、という点においては、やはり入門クラスの小学生たちに敵わないのです。

■子どもの「目に見えない世界」を否定してはいけない

 これは一概に、小さい子ほど創造性に優れているということではなく、心が現実と非現実の境界を行ったり来たりしている時にしか、創造性というものは大きく伸びないからではないか、と私は考えています。

 小さい頃は、誰もが目に見えない世界に心を遊ばせられます。ですから、妖怪や妖精や魔法使いが出てくる物語を読むだけで、まるで自分がその世界に入り込んだように、ハラハラ、ドキドキしながら、リアルに物語世界を楽しむことができるのです。

 ところが、学齢が上がり、そういうファンタジーの世界、非現実の世界を「どうせ作り話だろ、くだらない」と否定するようになると、その子の創造性は急速に萎縮してきます。目に見えるもの、手で触れられるものにしか価値を見出せなくなるために、想像の中で新たな価値あるものを生み出すことが難しくなってくるのです。

 ですから私は、お預かりしたお子さんたちの心を、できる限り長く「現実と非現実の間」に置いておくことを心がけています。目に見えない世界を否定せず、愛や正義や勇気といった、手に取ることのできないものにこそ価値があるのだと繰り返し語りかけ、本やアートや哲学を用いて、可能性に満ちた子どもたちの柔らかな創造性を刺激し続けているのです。

 例えば、こちらは19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの素朴派の画家、アンリ・ルソーの「眠るジプシー女」という作品。草一本生えない不毛な砂漠で、月明かりの中、1匹のライオンが疲れ果てて眠るジプシー女に近づいている絵です。教室では、子どもたちにこの絵をじっくりと鑑賞してもらい、どうしてライオンが女性に襲いかからないのか?  その理由を想像して説明文を書く、という課題に取り組んでもらいます。

■非認知能力は、人生を豊かにしてくれる一生ものの財産

 子どもたちが考え出す「理由」は千差万別。「ライオンはお腹がいっぱいで、獲物に興味がないのだろう」と考える子や、「このライオンは年寄りで、目もあまり見えず、鼻もきかないからジプシー女に気づいていない」などなど、ありとあらゆる答えが返ってきます。

 あまりに理由が面白すぎて、みんなで読んで爆笑することもあるほど、個性豊かな記述解答ができ上がるのです。こうして楽しく記述をしているうちに、創造力はもちろんのこと、21世紀の新学力である思考力・表現力もぐんぐん伸びてきます。

 親御さんたちは、「高い偏差値をとるための読解力と記述力を身につけさせたい」とよくおっしゃいますが、実は、そうした力が高まるのは、読書と作文の「副産物」であって、まず子どもたちの中に育てるべき力は、物語の登場人物の気持ちに寄り添い共感する力や、主人公が直面する課題を自分のこととして捉え複数の問題解決策を思いつく力、さらには、そうした自分の気持ちや意見を人に伝えるコミュニケーション能力、などといった非認知能力なのです。

 「読解テストで高得点をとる技術」は、人生の前半ですぐに不必要になる受験のためだけの力ですが、非認知能力は、子どもの人生を豊かで幸せにしてくれる一生ものの財産です。そして、非認知能力が高まると、心配せずとも認知能力は自ずと、しかも驚くほどに伸びてくることを、私の教室で育った生徒たちがすでに実証してくれています。

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最終更新:3/28(木) 15:02

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