● 記者会見でわかる質問力
近年では例えばジャニーズ事務所や宝塚歌劇団など、企業の不祥事が明るみに出ると、その釈明やおわびの記者会見が必ず生放送・配信されるようになった。そこで、記者と言われている人たちがどのような質問をしているかを一般視聴者も目の当たりにする機会が増えた。もちろん中には、「なるほど」と思える良質の質問を投げる人もいるが、その出現確率は低い。「この人は本当にプロなのか?」と疑問を持たざるを得ない記者もいる。
翻って、企業の中でのやりとりはどうか。記者会見ではないが、社内の業務もまた、プレゼンテーションがあって、その内容についての質疑応答が日々行われる。こちらの質疑応答はプロのビジネスパーソンとして十分なレベルに達しているだろうか。残念ながら、ここでもほとんどの場合、不毛なやりとりが行われている。
記者会見での記者の振る舞いやレベルの低い質問に対して揶揄する人は多いが、果たしてビジネスパーソンとしての自分はどうなのか。そして何を意識すれば、「いい質問」ができるのか、記者はもちろん、記者ではないビジネスパーソンも自分事として落とし込んで考えてみてほしい。
「いい質問」をするには7つのポイントがある。
今回は良い質問をするために、どのようなことに気をつけるべきかについてまとめてみた。なお、以前、『「いい質問」ができる人は出世する』で質問についての記事を書いたこともあるので、こちらも参考にしてもらえれば幸いである。
以下、7つの項目に分けて、「いい質問」をするためのポイントをまとめてみた。
● (1)主張をするのではなく、質問をしよう
基本中の基本だが、ここですべきは質問であって、主張ではないということを認識しよう。もちろん、普通はこのことはわきまえられている。ただ、偉い人が下位の人のプレゼンテーションを聞いた後の質疑応答の時間で、質問ではなく当人の評価を延々と述べるようなことが会社では行われる。
講評の時間であればそれは許容されるが、質疑応答とは質問と疑問について意見を交わす時間なのであるから、ふさわしくない。記者会見の質疑応答や国会の委員会などでの質疑の時間において、質問をせず、ひたすら主張をする記者や議員を見て、「あれはひどいなあ」と思っているのであれば、自分も同じことをしていないか、特に上級管理職の人は自分の言動を振り返っていただきたい。
● (2)何を質問したいのか(何が聞きたいのか)を明確にしよう
(1)に関連するが、まずは自分が何を聞きたいのかを明確に絞り込んでから質問することが重要である。よくあるのは、「○○のようなことが起こっているが、それをあなたはどう思うか」といった質問である。普段の会話であれば何も問題はない。相手が答える範囲に制約を設けず、自由に答えてもらうことができるいわゆる“オープン・クエスチョン”であり、楽しい会話を進めていく上ではお勧めできる質問形態である。
しかし、深刻かつ重要な場面での質問の形式としてはふさわしくない。このような質問は、聞き手が本当に聞きたいことが絞り込めていないから、とりあえず言っただけで、「何を質問すればいいんでしょうか」と聞いているのに等しい。すなわち、聞き手の中で重視すべき評価基準やこだわるべきポイントがないことを意味する。
少なくとも「○○のようなことが起こっているが、この事象は今あなたが発表した○○の内容に対してどのような影響を与えるか。ポジティブ・ネガティブの両面から説明してくれないか」のように質問すべきである。この際、聞き手は、○○の事象がどのように影響しそうなのか、すでに自分なりの仮説のようなものを持っておくべきだ。この質問によって、相手が影響度をしっかり考慮しているかを把握し、さらにはネガティブポイントに対して対応策を用意できているかを(追加で)聞くことができる。
もしこれらがしっかり答えられる相手であれば、プロジェクト運営として確実に進められていることが明らかになる。それはもちろん聞いている人全員にとっても大きなプラスとなるし、その質疑応答自体がプロジェクトを進めるためのひとつのプロセスとして機能しているという意味でも意義深いものになる。このように明確な意図を持って絞り込んだ質問を行うことが重要である。
● (3)感情的にならずに冷静に具体的に質問しよう
質問なのだから冷静に聞き、冷静に答えを聞きたい。残念なことに、質疑応答の時間なのにケンカ腰で、糾弾口調で“質問”をする人がいる。
ここでの“質問”は、「なぜ何もせず放置していたのか」「これからどう対処するのか」と、文章で書くといかにも質問形式に見えるものなのだが、実際には強烈な非難(というか野次)である。このように問い詰められると普通の人は、肝心の問題に関してかたくなに口を閉じ、自己正当化に走るため、真の問題が明らかになることは一切なく、建設的な方向で事態が改善されることもない。また会議の参加者も聞いていて嫌な気持ちになる。人間だから感情を完全にニュートラルにはできないが、できるだけ感情的になるのは避けて冷静に質疑を進めたい。
感情的にならないためには、個別、具体的な事実のみを挙げながら質問を展開するという方法がある。「〇月〇日に○○からA社に○○の情報がもたらされたことは明らかになっています。では、この段階で会社が取り得る選択肢はどのようなものがあったのか。その中で、何もしないという選択肢を選んだ理由は何か」という具合に聞けばいいのだ。相手も回答すべきポイントが明確に理解でき、かつ、感情の応酬になることもなく、有用な回答が得られる。質問者が感情的になるのは往々にして事前の情報不足(質問する側の調査不足)に由来することが多い。
● (4)できるだけ短く質問しよう。質問の背景事情の説明は後に
セミナーや講演会などの質疑応答などでもよく見られる光景だが、長い長い前置きがあった上で、最後に質問のようなものがようやく発せられることがある。または1回の発話の中に何個も質問を入れる人がいる。
答える方の立場から言うと、本当に困る。混乱して何をどう答えて良いかよくわからなくなるのだ。このような場合、回答者は、質問を整理して、「ただいまのご質問を整理させていただくと、○○について会社としてどのような対応を考えているかというご質問と、○○についてなぜ失敗したかという理由についてのご質問と、○○についてのご質問の3つということで、相違ありませんか」と聞き直してから回答するのがセオリーになっている。
ただ、この場合でも、もともとの質問がクリアでないことも多く、トンチンカンな質疑応答になることが多い。よって、より良い質疑をするためにも、質問はできるだけ「短く」かつ、一度に質問する内容は多くても「2つ」までにしたい。
また、質問をする際には、背景事情や事の経緯の説明が必要な場合もあるが、そのような場合も、最初に「これから○○についての見解についてお聞きします」と述べた上で、必要となる背景事情等を加え、最後に具体的でクリアな質問を投げかけるといった展開にしたい。
今話されていることの最終目的地が想定できない中で、多様な情報を投げられると、ただでさえ緊張している回答者はむろん、その場で聞いている人も内容を消化できないからである。
● (5)基礎的な知識は予習をしておこう
素人や若手の人が、基礎的な用語について質問するのはありだ。例えば、研修の場面であれば、「ROICって何ですか?」と聞いてもまったく問題はない。しかしながら、真剣勝負の意思決定の会議などでは、知らない単語や概念は質問者の方が予習しておくべきだし、そのような初歩的な質疑に参加者全員の貴重な時間を費やすのは控えるべきである。
例えば、元の会社からある事業が別の会社に移転されるといううわさが事前に広がっているとしよう。その形態は事業譲渡なのか別会社にした上での売却なのか、元の会社にあった知的財産権はどのように移転するつもりなのか、しないつもりなのかといった権利関係の基本事項について、何を聞くべきかしっかり予習しよう。そして回答者からそのような基本事項が説明されなければ、それについてこそ、突っ込んで聞かなければならないのである。
あるいは、大学の問題について話を聞くのであれば、学生の修学に関連する事項についての最高責任者は学長であり、法人全体の運営を統括する理事長とは役割が違うことくらいは知っておかなくてはならない。それも知らずして学生が起こした事件について、「理事長出てこい!逃げるな」と声を荒らげるのは決してプロのやることではない。よって、質問をする前に最低でもその分野に詳しい人に基礎知識をレクチャーしてもらい、それを理解した上で質問に臨まなくてはならない。
● (6)話をよく聞き、矛盾点や改善すべき点などあれば、追加で質問してみよう
質問をするときにやりがちなことは、良い質問をしようと頑張るあまり、質問をしただけで満足してしまい、相手の回答をしっかり聞くことができないことだ。回答を注意深く聞き、そこに矛盾点や改善点などがあれば、追加質問をすることが重要である。
また、その質疑は、回答者が建設的に考えるきっかけを与えるものであれば、なお望ましい。というわけで、できれば1つの質疑で終了するのではなく、2往復くらいの質疑が展開できるような形式を選び、かつそれに値するような良い質問を質問者は考えて発するべきであろう。
● (7)枝葉末節にとらわれず、本質的なことを聞こう
さて、これが一番重要なポイントである。資料を作り、発表する立場になってみれば、いろいろできていないこともあるし、考慮しきれていないこともある。そのような状況の中で、発表者は無防備な形で質問を受ける。一方、質問者は立場が強い。何でも聞けるし、質問という名目での糾弾もできる。資料のフォントがそろってないとケチをつけることもできるし、誤字脱字があると非難もできる。
質問する側として、安全地帯から自由に物が言える立場にあぐらをかき、枝葉末節についての質問(という名の文句)を垂れ流す人をあちらこちらの会議で見かける。もちろんそういう対応が常にNGというわけではないが、できるだけ提案の本質に関わるところを抽出し、その分析や提案の中身そのものを議論するための質問を投げかけたい。
本質的な質問とは、質問を受ける立場の人が、「あの質問は厳しかったが、その後、再考することで、失敗を免れることができた」とか「あそこで突っ込まれたから、計画が盤石になった」とか「あのときの一言で、その後の仕事の仕方が変わって自分にとってとても良かった」などと振り返ることができるような質問のことを言う。特に会社の上位者は常にそのように思われる質問を投げかけられるように、不断の努力を続けなければならない。
質問はすごく重要である。良質なやりとりが行われると、話の内容の理解が深まるだけでなく、そこにいる人たちに幸せな未来の予感が生まれ、明日から何をやれば良いかのイメージが形成される。そして、一体感が生まれて、組織の士気が大幅に向上するのである。
いろいろと述べてきたが、記者会見での記者の質問技術を揶揄しているばかりではなく、自らをも含めた社員全員の質問技術を上げて幸せな組織を作っていきたいものである。
(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)
ダイヤモンド・オンライン
最終更新:11/21(火) 7:02
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