北大阪急行電鉄「箕面延伸」はこうして実現した 地元待望、大阪メトロ御堂筋線と一体直通運転

5/24 4:32 配信

東洋経済オンライン

鉄道ジャーナル社の協力を得て、『鉄道ジャーナル』2024年7月号「北大阪急行電鉄 地元待望の箕面延伸開業」を再構成した記事を掲載します。

■千里ニュータウンの足となった北急

 北大阪急行電鉄は、大阪の地下鉄Osaka Metro御堂筋線終点江坂(吹田市)より先、千里ニュータウン方面の足となる南北線を運営する鉄道である。大阪市高速電気軌道(株)を正式社名とするOsaka Metroの前身は大阪市交通局だが、大阪市を脱した吹田・豊中市域の、それも開発途上だった地域に延ばすため阪急と大阪府が主要株主となる別会社となった。「北急」と呼ばれる。

 開業は1970年2月24日。アジア初開催、過去最大規模で国の威信をかけたと言われるEXPO’70「日本万国博覧会」が千里丘陵で開かれた年である。当時は我孫子―新大阪間であった御堂筋線を万博会場アクセス路線とするため、新大阪―江坂(吹田市)間を市営地下鉄として、さらにそれと一体で北急の江坂―万国博中央口間を作った。万博は3月から9月の会期中に約6400万人が訪れた。

 そして万博閉幕後、北急の路線は江坂―千里中央間に改められ、今度は計画人口15万人、約3万7000戸もの日本最初の大規模ニュータウンとして名を馳せた千里ニュータウンの足となる。

 それから54年を経た今年、2024年3月23日、千里中央から箕面市域の箕面萱野まで延伸開業した。距離は2.5kmで、既存の江坂―千里中央間5.9kmと合わせて北急全線としては8.4kmとなった。新大阪から箕面萱野までは11.3km、18分、梅田からは14.8km、25分である。

 新大阪から乗車して、千里中央から箕面萱野への新線区間に入る。トンネルは箱型から単線シールドの円型になり、次の箕面船場阪大前まで続く。千里中央―箕面船場阪大前間1.4km、箕面船場阪大前―箕面萱野間1.1kmと、新線区間は歩けない距離ではないので別途たどってみると、土被りの厚い山中とか既設路線と幾重にも交差する都心地区でもなく、変わらず新御堂筋の下を通っている。昔なら開削工法で上から掘ったであろう。しかし今は地上を工事現場として制約しないために、駅部を除いてはシールドマシンで掘る。そのような時代の違いがトンネル構造に現れている。

 当たり前だが、駅も新しくて既存区間とは見違えるほどに美しい。箕面船場阪大前駅のホームは、反物を幾重にも重ねたようなデザインの壁面が特徴だ。その理由は、大阪の「船場」と言えば、淀川の舟運で商業が栄えた大阪中心地の中でも繊維問屋が集積した地。その繊維問屋街が高度成長時代に中心部の過密、狭隘さがネックになったことで郊外移転を図り、「新船場」となったためである。時期はやはり1970年代だ。それからやはり半世紀が過ぎると、街も再び姿を変えて、今は現代的なビルが新御堂筋の両側に立ち並ぶオフィス街である。

■山並みを前にした箕面萱野は既成市街地

 あたりの地形は千里側から上がって萱野側に下る、ゆるやかな尾根だ。したがって付近は市境となっており、南は豊中市、北は駅名からもわかるように箕面市である。駅に隣接して箕面市の文化施設があり、地下と直結した長いエスカレータで劇場玄関前の歩行者デッキと結ばれている。駅の残工事と並んで大規模に敷地が掘り下げられているのは、タワーマンションの基礎工事であった。劇場や図書館のさらに隣に大阪大学箕面キャンパスがある。

 箕面船場阪大前を出ると、最後は地上区間となる。新御堂筋は萱野に向けて下るが、線路は逆に登り続けて道路脇の高架線に上がる。千里中央以南では遠かった箕面の山並みが目の前に迫っている。その山に突き当たる場所に箕面萱野駅はあり、駅と道路を挟んで数棟のショッピングモールが建ち並び、左右をまだ工事中の歩行者デッキが結んでいる。1面2線だが、ホームはフラットに正面の駅舎改札口を経てデッキとショッピングモールにつながっている。高架下にも改札口があり、新御堂筋の側とバスバースを含む交通広場(現在、工事継続中)にアプローチする。

 正直、北急の延伸計画を聞いた段階では、ハハァ、山を拓いたニュータウン開発路線だろうと早合点していた。ところが現地を訪れてみると、箕面船場阪大前はオフィス街であり、箕面萱野は一面に市街地が広がっている。

 そこで箕面市役所と北急本社を訪ね、市の姿と延伸について知識を仕入れた。箕面市は大阪府の平野部北端に位置しており、市役所は阪急箕面線の牧落駅からほど近い場所にある。承知のとおり、阪急箕面線は現阪急が箕面有馬電気軌道として創業した当初の終点の1つで、今も箕面温泉や箕面大滝の名が知られる一方で、早くから電車で都心とつながる郊外住宅地として歩んできた。したがって阪急箕面線沿線が最も早くから開けた地だが、そこは市域の西端であり、市街地は山裾を東へ東へと広がった。

 発展の大きな契機となったのは、1960年代に開発された千里ニュータウン(吹田・豊中市域)で、阪急千里線が1967年3月に北千里まで延伸された。次いで阪急両路線の間に北急が千里中央と万博に延びた。北千里や千里中央が結節ターミナルとなってバス路線網が巡らされ、萱野や新船場あたりがどんどん発展していった。だから、今回の延伸区間の車窓は、意外なまでに既成市街地ということになる。

■南北に集中して東西が弱かった箕面のバス路線

 ちなみに箕面市の東端、茨木市との市境付近には、下って1998年10月、大阪モノレール彩都線万博記念公園―阪大病院前間、次いで2007年3月に阪大病院前―彩都西間が開業(駅は吹田・茨木市域)している。したがって現在、阪急箕面線から大阪モノレール彩都線まで約6kmの間には、主要な南北軸が複数並ぶ姿となっている。

 箕面市は市街中央部の萱野を新都心と位置付けており、ショッピングモールにしても今回の延伸に合わせた開業ではない。もちろん路線計画があっての進出ではあるが誕生は2003年で、すでにランドマークとしての存在感を示していた。なお、「キューズモール」の名が示すところ、そのデベロッパーは東急である。

 また、箕面萱野へ向けて列車が高架線に上がると、千里中央までのように大規模マンションやオフィスビルに囲まれる光景ではなく、市街地が広く見渡せるので、その違いにも驚かされる。それはもともと阪急箕面線沿線が職住分離の理想的郊外住宅地として育まれたことに起因し、箕面市は乱開発を避けるために制限を設け、自然環境ゆたかな市域全般に高層建築を許容していない。そのため、住宅地は戸建て中心に平面で広がることになったのだ。

 一方、「北大阪急行線延伸事業」が具体的に動き始めたのは、2004年の近畿地方交通審議会第8号答申になにわ筋線などと合わせて登載されてからである。ただし、登載に至るには事前の活動がある。中心となったのは箕面市だ。

 市は、市街地が東へ長く広がるのに阪急箕面線以外に鉄道はなく、バスに頼る格好であった。バスは熊手状に千里中央に集中するので南北交通ばかり過度に集中し、東西軸の公共交通が乏しく、府下平均に比べてマイカー依存率が高かった。それを課題として、東西の真ん中である萱野への鉄道延伸を1985年の市の総合計画に採択した。萱野を新たなターミナルとし、東西両方向へのバス交通を充実させるとのシナリオだ。

 これを受けて1989年の運政審第10号答申に「2005年までに整備に着手することが適当な路線」として登載された。しかし、実際は箕面市が延伸検討委員会を設けたのが2005年となり、以後、路線延伸の意義、需要や収支予測、事業スキームなどを検討、2008年4月に大阪市、箕面市、阪急、北急の4者間で協力し合う旨の覚書を交わした。

■全額公費とするため立体交差の路面電車に

 鍵を握るのは阪急の姿勢と言えた。北急も阪急阪神ホールディングス傘下の企業とは言え、阪急バスの牙城を崩す新たな輸送機関の出現であり、そして箕面線や千里線への影響も避けられない。そのような立場から、一帯のバス路線網を堅持することと、路線を再編して街の発展による成果を期待することが天秤に掛けられた結果、事業には協力するという選択をした。その姿勢は整備費の負担からもうかがえ、北急が受益分を負担する以外の部分についてはすべて国と地方が分担し、阪急は直接的な出資は受け持たない。このような取り決めで2014年3月に4者で基本合意を交わし、2015年12月に都市計画決定、鉄道事業法許可、軌道法特許を取得、2017年1月に起工式を行った。

 延伸区間の準拠法は千里中央―箕面船場阪大前間が鉄道事業法、箕面船場阪大前―箕面萱野間が軌道法である。正確には箕面船場阪大前の南側、豊中箕面市境で分かれる。この特殊性は補助金の関係から生じた。

 北急のような地下を主とした都市鉄道を整備する際、従来は国の地下高速鉄道整備事業費補助が適用されてきた。ただ、その補助率は対象事業費の35%以内と規定されている(公営・準公営および東京メトロが対象で、地方公共団体からの補助額の範囲内)。だが、それでは鉄道事業者の負担がなおも大きく(国35%、地方自治体35%、事業者30%)、障壁になっていた。そこで今回、箕面市は、国の補助率を50%にできる、すなわち地方の協調補助と合わせて全額を公費負担にできる、社会資本整備総合交付金制度(2010年度に創設)をこの案件で活用できないかと国に提案した。

 ただし、この社会資本整備総合交付金は“まちづくり”に充当することを前提に、自治体が管理する道路建設には適用できるが、“鉄道”は補助対象ではない。そこで、近年のLRT整備の手法を用い、電車の走行空間を特殊街路に位置付けて確保する。だから、道路を走る電車として軌道法の適用を受ける。さらに、その路面電車は他の自動車や歩行者の通行の妨げとならぬよう立体交差とする。

 市と国が協議を重ねた結果、こうした取り扱いが認められて全国初のケースとして適用され、延伸事業の実現に至った。そして、このロジックに基づいて箕面市の区間は、インフラ部であるトンネルや高架橋の実体部分はすべて国の補助を受けた市の負担で整備された。これにより北急として整備する範囲は限定的(線路設備、駅の建築や内装、駅設備など)になり、北急の支出は抑制されて採算性が成り立つという仕組みである。なお、対する箕面市外の区間は、箕面市が「市道」を建設するわけにはいかないので、北大阪急行が主体となって「鉄道」として整備した。

■箕面市が事業の中心的な存在に

 整備費の総額は874億円で、建設費811億円、延伸に伴う3編成増備の車両費が63億円の内訳。この総額において、北急は受益範囲内の額として110億円を負担し、これ以外の764億円を国と地方で協調補助として折半、382億円ずつとしている。そしてその地方分については箕面市の負担が282億円、残る100億円を大阪府とした。箕面市内区間のインフラ部整備を全面的に受け持った箕面市の負担が目立ち、取りも直さず事業に対して中心的な存在を表す。

 新設2駅の乗降者数は1日約4万5000人と予測、北急全体の輸送人員は千里中央までだった従来の1日14万人に対し、およそ18万人になると見込む。新駅の乗降者数は、初期効果や年間効果とともに上方修正している。また、バス路線は多くの路線が箕面萱野駅発着に再編され、千里中央―萱野間が廃止となる分、働き方改革や人材不足といった昨今の状況下でも営業区間のサービス維持につながった。

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最終更新:5/24(金) 4:32

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