「上司は私だ」過度な序列意識が部下の恐怖を煽る 感情を排して部下を監督すると何が起きるか

5/1 9:21 配信

東洋経済オンライン

意のままに部下に動いてもらおうと、「俺が上司だ」と序列を強要する上司はいないだろうか。
だが、統制と遵守が行き過ぎた形で根づいている環境では、恐怖心に常識が歪められても不思議はない。その結果、適切な行動や率直なやりとりが妨げることがあると指摘するのが、マルケ氏だ。
米海軍の原子力潜水艦「サンタフェ」で艦長を務めた経験を持つマルケ氏が提示する、チームの恐怖心を取り払う方法とは何だろうか。その著書『最後は言い方』より紹介しよう。

■安全第一より序列第一となる組織は多い

 「安全第一」を掲げる組織は多いが、人々がとる行動は実のところ「序列第一」だと言える。

 「疑問を持たず、命じられたとおりに行動すべし。そうしなければ深刻な事態に陥る」

 繰り返し徹底してそう刷り込まれれば、その組織で働く人々は、何をするにも、それが命令どおりの行動かどうかを確認するようになる。

 恐怖心をみくびってはいけない。統制と遵守が強く根づいている環境にあっては、恐怖心に常識が歪められても不思議ではない。

 疑問を持つたびに息が詰まりそうになる思いをしていれば、しだいに自ら行動を起こさなくなっていく。

 2015年にハリケーンのせいで沈没した貨物船「エルファロ」の高級船員たちは、船がハリケーンに向かって進んでいる(間違った進路を進んでいる)とわかっていた。

しかし、適切な軌道修正ができなかった(エルファロについては、こちらの記事も参照)。

 自らの命が危険にさらされるなか、エルファロのチームは、舵手に方向転換を命じて航路を変更することもできた。

 だが彼らがとった行動は、緊張した様子で自虐を交えながら、船長に向かってたどたどしい物言いで進路変更を提案することだった。

 ハリケーンが迫る切迫した状況で、直ちに計画の変更を強行する必要があったのに、なぜそうもたどたどしく説得力に欠ける提案となってしまったのか?  

 しかも船長からは、電話をかけることや行動をとることを「ためらうな」と言われたあとに起こっているのだ。

 必要に応じた行動、ものごとをわかっている人間による判断、深刻な脅威についての率直なやりとり。

 これらを阻むものは、いったい何なのか? 

■「垣根を越えてつながる」とは

 それはやはり、人々が抱える恐怖心、権力の勾配、心理的安全性の欠如が根底にある。

 ここで紹介する、「垣根を越えてつながる」とは、恐怖心への対抗手段となるものだ。

 「垣根を越えてつながる」とは、他者を気にかけることである。他者が何を考えているのか、どのように感じているのか、個人的な目標は何かを気にかけることだと思えばいい。

 要は、権力ある立場から判断を下すのではなく、隣に並んで応援する立場をとるのだ。

 垣根を越えてつながることで、実際に見たものや思ったことを安心して口にできるようになる。

 ほかに誰ひとりそれを見たり思ったりしていなくても、正しいと99パーセント確信できなくても関係ない。

 つながることで、多様な考え方や意見のバリエーションを後押しする条件が整う。無気力だった人が行動を起こすようになる。

 垣根を越えてつながることは、青ワーク(判断や意思決定)の有効性を高めるカギだ。

 また、考えることから、行動を起こす(赤ワーク)ことへの移行が促されるので、赤ワークをやり遂げる力を支える役目も果たす。

 「垣根を越えてつながる」ことは、産業革命期に誕生した古いやり方のなかには存在しない。

 古いやり方にあるのは「同化」だ。これは、与えられた役割への同化を求められることだ。

 私は経営者で、君は従業員。あなたは船長で、私は船員。私は親で、おまえは子供。あなたは先生で、私は学生、という具合だ。

 青ワーカーと赤ワーカー、すなわち監督者と作業員に立場が分かれている状況では、垣根を越えたつながりなど不要とみなされるどころか、求められもしない。

■職場に「感情」を取り戻そう

 何よりも求められるのは、序列のなかの各自の役割に同化することだ。

 誰かの下につく立場なら、チームの優秀な一員となることが求められる。

 波風を立てる、誰も認めたがらない事実を口にする、上司が決めたことに異を唱える、といった行動は避けなければならない。

 上の立場なら、感情を切り離し、部下とは距離を置き、立場と権力を使って部下に作業を強要することが求められる。

 産業革命時代の監督者は、職場から一切の感情を排除することを望んだ。

 彼らの仕事は唯一、経営者が決めた作業を労働者に行わせることだった。つまり、労働者に作業を強要して統制し、彼らを従わせればそれでよかったのだ。

 もちろん、現代ではそうした言葉は使われず、「やる気を鼓舞する」や「刺激を与える」といった表現が使われる。

 だがその意味するところは、人を操って何かを強要することに変わりはない。

 他者の仕事を決める立場にある人は、その人たちと一定の距離を保つ必要がある。つながりが生まれると、生産性が損なわれる恐れがあるからだ。

 もちろん、「垣根を越えてつながる」とは言っても、相手の考えや行動をすべて受け入れろという意味ではない。

 相手の行動が不本意な結果を招いてもかばえ、という意味でもない。

 感情の露出をむやみに阻もうとする人為的なものを職場から取り除き、安心を感じられるようにするということだ。

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最終更新:5/1(水) 9:21

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