コンパクトシティを目指す金沢市、兼六園も近い「片町」再開発が本格始動《楽待新聞》
北陸最大の都市である石川県金沢市で、再開発計画が進められている。
金沢市は新幹線の開通・延伸により、ほかの地域からも注目を集めるエリア。北陸新幹線の「かがやき」「はくたか」は東京駅まで直通しており、首都圏に2時間半~3時間ほどでアクセスできる。
金沢市内にも、日本3名園の1つである「兼六園」のほか、歴史的な建造物が多く建ち並び、観光地としても人気を博している。
今回再開発の対象となったのは、金沢駅から2キロほど離れた中心市街地に位置する「片町四番組海側地区」。兼六園や武家屋敷などからもほど近く、昼夜間とも多くの来街者が訪れる場所だ。
再開発の概要や、その背景とは? 金沢市がどのように変わるのか、片町四番組海側地区から紐解いていこう。
■観光資源に恵まれた金沢市
石川県の県庁所在地である金沢市は、2024年1月1日時点で45万9504人の人口(推計値)を抱える都市だ。
1996年には中核市に指定されるなど、長らく人口増加の傾向にあった市だが、直近の推計人口推移を見てみると、2018年からは減少傾向に転じている。
2019~2024年の5年間で金沢市の推計人口は約6800人減っており、その減少率は1.5%ほど。国立社会保障・人口問題研究所の試算によると、2040年には約41万7000人まで人口が減少するという。
そんな金沢市の地域経済を支えるのは、卸売業・小売業を中心とした第3次産業だ。
2021年の経済センサス調査によると、全事業所数のうち23.4%は卸売業・小売業が占めており、次いで宿泊業・飲食サービス業(13.0%)の割合が高くなっている。
第3次産業が盛んな理由は、やはり観光地として注目されていることが大きい。金沢城公園やひがし茶屋街、国の特別名勝である兼六園など、歴史的観光資源に恵まれている。
他にも、鼓門が印象的な「金沢駅」、現代美術を収容した「金沢21世紀美術館」など、建築やアートの人気スポットも多く存在している。
2015年の北陸新幹線開業も、国内外からの観光客が増えた要因だろう。
石川県の統計によると、金沢地域の観光入込客数は2021年で518万人、2022年は863万人だった。県内ではトップの観光客数であり、周辺地域(加賀・白山・能登)に比べると増加率も大きい。
2021年まではコロナ禍の影響を受けたが、それでも金沢地域の観光客数は回復傾向にある。今後も外国人観光客の増加が予想されるため、2024年はコロナ前の水準まで戻るかもしれない。
地域住民の暮らしについては、金沢駅を中心とした都心部に商業・業務機能が集積している。その周辺に住宅地が広がっているため、居住エリアの利便性は高いと言えるだろう。
しかし、近年は郊外への人口流出や中心市街地の空洞化が課題とされてきた。人口減少に歯止めをかけるため、行政はコンパクトシティの実現に向けて模索しているところだ。
■まちなかを「核」として都市機能を集約
今回の再開発では、中心市街地の「片町四番組海側地区」が対象エリアに指定された。なぜこの地域が選ばれたのか、まずは上位計画にあたる「金沢市集約都市形成計画」の概要から見てみよう。
本計画は、コンパクトシティ(軸線強化型都市構造)の実現を軸にした都市開発プロジェクト。持続可能で魅力と活力にあふれる都市づくりを目的として、金沢市が2017年3月に策定したものだ。2040年までを対象期間としつつ、2060年までの長期的なビジョンも見据えている。
市が目指す軸線強化型都市構造とは、まちなかを「核」として都市機能を集約するとともに、軸となる公共交通重要路線の沿線に住居や施設を誘導した街である。
コンパクトシティの実現にあたっては都市区域を「一般居住区域」「居住誘導区域」に分けて、それぞれ別の方針で街づくりを進めるという。
一般居住区域については、日常生活に関わる施設の維持が目的とされている。市内の移動は自動車や自転車が想定されるため、道路の拡張・整備などが計画に含まれるのだろう。
一方、人口密度の維持を目的とした居住誘導区域では、生活に必要な公共サービスなどが確保される予定。同エリアは都市機能を集約する「都市機能誘導区域」と、商店街がある「生活拠点」に分けられている。
中でも都市機能誘導区域は、さまざまな再開発が予定されている区域だ。「都心拠点」「地域拠点」「特定機能地区」に細分化し、各エリアを明確な役割をもった拠点にする構想である。
今回の再開発対象である片町四番組海側地区は、高層ビルや多くの店舗が集まる繁華街。観光客を呼び込む都市資産が集積しているため、都心拠点としての再開発が見込まれている。
■商業施設やホテルを建てる計画
片町四番組海側地区で進められている再開発は、第一種市街地再開発事業。2015年8月の、金沢市や地権者による勉強会が起点となって計画されたものだ。2018年3月に市街地再開発準備組合が設立され、その翌年には野村不動産が参画を表明している。
再開発の計画地は、金沢駅から南に2キロほど離れたエリア。歴史文化遺産や飲食店街が見られるほか、東方には金沢市役所もある。
施行区域面積は約0.4ヘクタール、商業施設やホテル、住宅などが建設される予定だ。車でもアクセスしやすいよう、駐車場も整備される。
片町はすでに中心的な商業拠点だが、建物の老朽化が目立ちはじめている。街のにぎわいや活性化を考えると、周辺地域を含めた回遊性にも課題が残されていた。
そのため、今回のプロジェクトには多機能複合施設や商業施設の整備が含まれている。また、アーケードの更新や壁面後退によって歩行者空間を整備し、地域の回遊性を高める狙いもある。
今年7月には金沢市による都市計画決定の告示がされ、2025年度には再開発組合が設立認可される見通しだ。着工は2027年度、竣工は2030年度が予定されている。
商業機能が強化されれば、片町周辺を中心にコンパクトシティが形成されていくだろう。まずは、金沢市の新たな顔となる複合施設の開発に期待したい。
朝霧瑛太/楽待新聞編集部
不動産投資の楽待
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最終更新:8/11(日) 19:00