5年で1000枚以上、「生コン女子」がセメントグレー写真を投稿する訳《楽待新聞》

6/16 19:00 配信

不動産投資の楽待

5年間に渡り、自身のXやインスタグラムに「生コンクリート」写真を投稿し続けている女性がいる。

「生コン女子部(新米)」さん。2人の子を持つ母であり、コンクリート製造工場で働く技術者でもある。

2019年から投稿を始めた「スランプ試験」の写真はすでに1000枚を超える。インスタグラムには似つかわしくない、セメントグレーに染められた画像欄は、ちょっとクセになる不思議な魅力がある。

建物はもちろん、橋やダム、トンネルなどあらゆる構造物に使われるコンクリートは、不動産オーナーにも身近な存在。しかし、そのコンクリートが「どこからやってきたのか」を知る人は少ないだろう。

今回は、生コン女子部(新米)さんに、知っているようで意外と知らない「生コンクリート」について、製造過程から生コンの魅力まで、製造する側の目線から語ってもらった。

■生コンは「地産地消」

―まずはお仕事の内容について教えてください

生コンクリート(生コン)を製造する工場で仕事をしています。英語で「Ready-mixed concrete(レディーミクストコンクリート)」と言い、固まる前のドロドロとした状態のコンクリートのことです。

みなさんが日常の中で生コンを目にするのは、住宅の基礎工事が多いかと思います。ミキサー車で運ばれた生コンを、型枠の中に流し込む「打設」の様子は見たことがあると思います。

私の携わる仕事は、その前です。生コンの製造・出荷を行う工場で、生コンの「品質管理」を担当しています。

生コンは、お客さんからの注文に応じて、決められたレシピ(調配合)に基づいてセメントと砂利・砂などを水などと混ぜて作ります。ただ、工場によってコンクリートの性質や状態がバラバラだと問題ですよね。

そこで、国内の統一規格として日本規格協会さんがJIS規格(日本産業規格)を定めていて、その製造方法や管理についての細かい決まりが作られています。

私の仕事は、製造出荷する生コンがその規格通りにつくられているか否か、それをチェックすることです。

―具体的にはどういったJIS規格の決まりがあるのでしょうか

例えば、生コンは基本的に生産してから90分以内に使用しなければならない、と決められています。セメントと水が混ぜられた時から化学反応が始まり、硬化が始まっていくからです。

現場まではミキサー車で攪拌しながら運搬するのですが、もちろん運んでいる最中にも凝固していきます。そのため、JIS規格で「90分」という、言わば使用期限が定められているんです。

使用期限までに現場に届ける必要があるので、生コン工場は各地域ごとに点在しています。そういう意味では生コンって「地産地消」ですよね。

ちなみに、生コンの調配合はコンクリートの用途によって異なります。建築用と土木用では見た目や性質もかなり違いますし、同じ建築用でも超高層ビルとかタワーマンションには高強度の生コンが使用されるので、粘り気が強くなったり、流動性がとても高くなったりします。

コンクリートと言っても、用途によっていろいろ細かな違いがあるんですよ。

■事務職から志願して技術職へ

―生コン工場で働き始めたきっかけを教えてください

私はシングルマザーなんですけど、離婚に伴って引っ越しをして、そのまま職探しをしました。当時子供は1歳と3歳で、預け先の保育園も決まっていない中での職探しでした。

そういう状況もあって就職活動がうまくいかなくて、唯一ご縁があったのが生コン工場だったんですよね。

最初は事務職としての採用でしたが、実際に働き始めると、やっぱりコンクリートについてもっと知りたい、知っておかなきゃ、という気持ちがだんだんと芽生えてきました。

―そこから、事務職ではなく技術職の道に進んだのですね

お客さんとお話をする中で専門的なことを質問されることもあったので、そこでちゃんと答えられないようじゃダメだよな、って。それで品質管理の部署に行きたいと希望を出しました。

そこからはとにかく勉強です。就職が決まった時点で専門書をたくさん買って読んだり、自分で調べたりはしていましたが、試験室の仕事をするようになってからは日常業務の中でより専門的なことを見たり、聞いたり、経験したりしながら学んでいきました。

そんな中で生じた自分なりの疑問なんかを、備忘録的にXでポンポンつぶやいていたところ、幸運なことに、普段では知り合えないような大学の教授や職人さん、建築士さんなど専門家の方とのつながりが生まれて、いろいろ教えてもらうようになりました。本当にありがたいことだなと思います。

昨年、ようやく実務経験が3年となったので、コンクリート技士試験にチャレンジして無事合格し、資格を取得しました。工業系の大学出身の方や高等専門学校などでコンクリート技術の勉強をしていた場合は卒業後すぐに受験できるのですが、私はまったく畑違いの大学出身だったので、実務経験が必要だったのです。

■品質管理は技術を守る「番人」

―生コンのどんなところに魅力を感じますか

生コンって、文字通り「生モノ」なんです。その日の気温や天候、使用する材料の状態によっても状態が変わるんですよね。

「セメントと水と砂や砂利を混ぜればできるんでしょ~?」って思われるかもしれないんですが、それこそ骨材(砂や砂利のこと。コンクリートの骨となる材料)の種類だけじゃなく、その密度や性質、粒度や吸水率などが変わっただけでも、完成した生コンは変化します。

また一口に生コンと言っても、使用用途によっても全然違う。使っている材料はすごくシンプルなのに、まったく一筋縄じゃいかないんです。でもその難しさが、同時に面白さでもあると思います。そういう単純なようにみえてすごく複雑なところとかが、人間に近いなって思ったりしてて…(笑)。生コンのそういうところが、面白いと感じてるのかもしれませんね。

生コンは製造中であって完成前の状態、つまり「半製品」なんです。私たち製造者側だけの力では良い製品をつくることはできません。本当に良い構造物を完成させるためには、生コンの性質を理解した施工者さんの技が必要不可欠だと思っています。

私たちが行う品質管理が土台となり、そこに職人さん達の技が生きることで、家やビルや橋ができていく。

よく「地図に載る仕事」なんて言い方がされますが、私も街の中で自分が携わった現場が完成したところを見ると、「ここを作るときに私も関わってたんだな」と感慨深く思えるんですよね。

このあたりも私にとって生コンの魅力の1つなんだと思います。

―品質管理のお仕事について、もう少し詳しくお聞きしたいと思います

私が所属しているのは「試験室」という品質管理の部署です。技術部とも呼ばれます。

朝の8時には生コンを出荷しなければならないので、だいたい7時くらいに出社して、設備の点検をしたり、材料の品質をチェックしたりすることから一日が始まります。

メインの仕事は、製造の品質管理です。先ほどお話ししたように、生コンはJIS規格で調配合が細かく定められているので、自分たちの工場でつくった製品が、ちゃんとJIS規格に則ったものですよ、という証明が常になければいけないんです。

ちょっとイメージしてみてもらいたいのですが、ネジを1本つくるにしても、製造する工場によって規格がバラバラだと、家具などを組み立てるときに困ってしまうと思います。

生コンも同じです。国内での統一された規格を守ることで、地産地消の製品でありながらも全国で一定の品質を保ったものが製造、出荷できるようになっているのです。

個人的には、品質管理の仕事は技術を守る番人で、ディフェンスの仕事だと思っています。生コンを製造・出荷するにあたって、私たちがしっかり品質を守らないと工場全体がJISとしての製品を出荷できなくなってしまうのです。

技術部(試験室)が丁寧な管理をすることが、よいコンクリート構造物につながっていく。この仕事に私は誇りを持っていますし、しっかりとしたものを作ってお客さんに届けたい、っていう気持ちを常に持っています。

■「スランプ試験」ってどんな試験?

―生コンの試験では、具体的に何をするのでしょうか

まず1つは「スランプ試験」です。私が1番好きな試験ですね(笑)。インスタグラムにはスランプ写真をたくさんアップしていますし、Xでは「#本日のスランプ」というタグをつけて投稿しています。

スランプ試験は、生コンの柔らかさ(流動性)を確認する試験です。水平がとれた板の上に置いた、三角コーンのような金属製の容器に規定の方法で生コンを満たし、それを垂直に引き上げ、生コンがどのくらい下がったのか? を測ることでその柔らかさを見たり、広がり方や崩れ方を確認したりします。

生コンは使用用途によって求められる柔らかさも全く変わってきます。そのためSNSにアップするスランプ写真も日によって様子が全然違ってくるのです。

毎日アップしているので、私のことを「スランプ試験の人」と認識してくれる方もいるかもしれませんね(笑)。このスランプ写真をそもそもSNSにアップし始めたのは、勉強のためだったんです。

一見するとすごく単純そうに見えるスランプ試験ですが、業界に入ったばかりの頃は全然うまくできませんでした。

試験道具が重たいっていうのもあるし、今まで使ったことのない筋肉を使うことや、一定のスピードで垂直にスランプコーンを持ち上げる動作が本当に難しかったんです。

なので練習のために自分の動きを動画で撮って確認したり、自分が抜いたスランプ写真を画像に記録しておくことで、あとで見返した時にそれがいつの、どんな調配合の時の試験だったのかを自分が覚えておくために記録を撮りだしたのが始まりです。

ただ自分のカメラロールに保存しておくよりも、勉強用に始めた生コン女子部(新米)のアカウントで共有しておく方が、あとで自分が探す時に探しやすいと思ったんですよね。もともとTwitter廃人だったので(笑)。

―今ではスランプ試験の写真を楽しみにされている方もいます

はい、なかなかスポットライトが当たる業界ではないので嬉しいことですね。

「今日のは珍しい硬さだね」とか、「すごくドロドロ!」など色々とコメントをくれたりする方もいてくれて、生コンに興味を持ってもらえることに嬉しさを感じることも多いです(笑)。

そもそもスランプ試験は、生コンクリートの性状をみるための試験の1つですので、試験自体は合格か不合格かの2択です。

ただこれは完全に「私の中で」という話ですが、うまくいった、いかないっていう手ごたえ? みたいなのはやっぱりあります。

合否には関係なくて本当に私の中での「映え」のような感じです(笑)。

まっすぐ真上に抜かないと形が崩れたりとか、正しい試験結果が得られなかったりもするので「今日は綺麗に抜けた!」みたいな。

スランプ試験の道具って、鋼製なので結構重たいんですよ。体幹を鍛えないとブレてしまって上手に扱えないので、身体の動かし方に慣れるまでは私は大変でした。

―スランプ試験の他にはどのようなものがありますか

同じく生コンクリートの試験として「空気量試験(エアー試験)」というのがあります。生コンの中にどのくらい空気が入っているか? 定められた量の空気がきちんと入っているのか? をチェックする試験です。

生コンには「空気量」にも決まりがあります。空気量しだいでフレッシュの状態の品質や硬化した後の品質が左右されるので、これもJISで規格が定められています。

気泡がたくさん入っているチョコレート、ご存じですか? 軽い口どけのおいしいチョコなんですけど、あれって普通の板チョコに比べると、力をかけたらグシャって潰れやすいイメージがありますよね。

コンクリートも同じで、必要以上に空気が多すぎると強度に影響を及ぼす危険性が高まってしまいます。

空気がない方が強度が出るんだったら、空気を極限まで抜いた方がいいんじゃないの?と思うかもしれません。でもそうなると、今度は生コンがボソボソしすぎてしまい、施工時に問題が出てきてしまいます。

ケーキ作りでも、生地に空気がなさすぎてボソボソしてしまうと、うまく型に流し込めないですよね。

生コンの中にある空気量は現場での施工のしやすさやその後の強度・耐久性にも関係してくるため、規格に沿った正しい量が混ざっているかを確認する必要がある。そのための試験が空気量試験です。

そのほかにも、コンクリートの中に鉄筋が使用される場合などは、生コンクリート中の塩化物イオンが規定量以下になっているかを調べる「塩化物イオン試験」や、定められた期間で硬化したコンクリートの強度を試験するためのサンプル(供試体と呼ばれます)を採取したり、打設時のコンクリート温度を調べたりもします。

■建設業界での生き残り戦略は

―まだまだ女性が少ない業界かと思います。働くうえで大変なことはありますか

力仕事は結構あります。試験用の生コンを運搬したり、試験道具や供試体を運んだり。最初の頃は大変でしたね。男の人に比べればそれほど重たいものを持てるわけでもないし、力仕事がたくさんできるわけでもなかったので、仕方のないことではあっても悔しいなと思うことも多かったです。

例えばセメント袋って、1個25キロぐらいあるんですよ。子供なんかも、もう25キロ超えたらなかなか抱っこできないですよね(笑)。それを担いだり、ネコ(一輪車)で運搬するのは力だけじゃなくコツも必要だったりするんですよね。

ただ私が現場に行くと「あれ? 女の子が来た」みたいな感じで、物珍しさ? もあったからか、現場の監督さんとか職人さんとかが声をかけてくれたり、顔をおぼえてくれたりすることも多くて、嬉しかったですね。

―先輩や現場の職人さんから怒鳴られたりすることもありましたか

そういったことがまったくまったくなかったわけじゃないですが、私は幸いなことに優しい人との出会いが多かったですね。関わる方々に恵まれていたと思います。

それでもやっぱり「使えねえな」「女のくせに」とかネガティブな感情を持っている人もいると思うし、実際舌打ちされたり、快く思われていない雰囲気を感じることもありました。

でもそれはきっと、この業界に限ったことではないと思うんですよね。男性が多い職場に女性が入れば、少なからず異分子という風に映るでしょう。「私が」とか「この業界が」というよりは、既存の集団に異分子が入ってきたら、警戒されたり、壁にぶち当たったりすることはあるよね、洗礼を受けることはあるよね、って。私はそんな風に考えています。

これもこの業界に限ったことではないけれど、世の中には「女性が入れてくれたお茶の方が美味しいよね」とか、「女性なんだからこういうことをやってよ」といった前時代的な考え方は、まだまだあると思っています。

これは性差だけの話ではないのですが、個々の能力や特性、価値観や考え方をお互いに尊重し合いながら、補いながら協力して働いていけるようになったらいいなと考えています。

―男性の多い業界で、今後生き残るための生存戦略のようなものはありますか

私はこの業界のことを何も知らずに生コン工場に入りました。しかも当時、小さな子供がいるシングルマザーだったので、雇う側からみたら全然戦力にならないと思われるんじゃないか、と不安に感じていました。子育てする以上、子供の急な体調不良や保育園、学校行事などで休みを取らねばならないこともあるので。

そんな中で、私はどうやったらここで生き残れるんだろう、ということは自分の中で結構考えてましたね。ここで私が貢献できることってなんなんだろう? って。

そこで状況を俯瞰してみたときに、(私の会社では)書類仕事とかパソコンが苦手な人が多かったんです。力仕事は男性でもできるし、現場で試験をするのも必ずしも私じゃなくてもできる。

私も特別なスキルがあるわけではありませんが、それでも苦手な人が多い書類仕事やパソコンでの業務は私の居場所を確保することになるんじゃないかな? という結論に至りました。それからは、現場や工場内で行う試験業務と並行して品質の管理についての業務の勉強も積極的に取り組んでいます。求められた形になれる生コンのように柔軟な、でも堅牢な存在になれたら理想だなと思っています。

―技術関係の勉強は、どんなことをしているのでしょうか

先ほどコンクリート技士の資格を取得したとお話しましたが、今はその次の資格のコンクリート主任技士の資格を取るために勉強しています。

自分自身がもっと生コンのことを知りたいというのも勉強をする理由の1つではあります。同時にそれが直接業務に役立つのであれば、業界で生き残れる強みになるんじゃないかなとも思っています。

お客さんがコンクリートに対して疑問を持った時に、私たちに問い合わせて解決できるようになったらいいな、と。それをきっかけにもっと生コンの魅力を知ってもらえたらさらに嬉しいですね。

■技術者である限り、一生新米

―「生コン女子部(新米)」というアカウント名はどのように決めたのでしょうか

今のXを始めたのは今から2018年で、私が初め事務職としてこの業界に入ったのも同じ頃でしたが、当時私の周りには技術職の女性がいなかったんです。

工場でも、経理や事務の仕事、ドライバーでは何人か女性がいましたが、技術職の女性はとにかく少なくて。

そこでアカウント名を考える時に、「業界にはほかにも女性もいる! いっしょに頑張ろう」みたいな、どこかにきっと同じように生コン業界に携わる女性がいるはず、という希望も込めて「生コン女子部」、その内の私は新米だから、「生コン女子部(新米)」というアカウント名に決めました。

―(新米)の部分は、いつごろ外れるのでしょうか

実は以前にも同じような質問をされたことがあるんですよね(笑)。

私も最初はコンクリート技士の資格が取れたら初心者マークも取れるかな? とも思ったんですけど、コンクリートの勉強をすればするほど、知らないことがどんどん増えてくるんです。生コンについて知ろうとすればするほど、その先でまた新たに知らないことや分からないことが沸いてくる。

なので私は多分一生新米なんだなって思います。技術者の1人として、業界にいるかぎり、「初心を忘れない」という意味でも、そのまま(新米)を名乗っていたいと思っています。

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最終更新:6/16(日) 19:00

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