ゴミ屋敷「“開かずの間”を開けてみた」驚愕の顛末 結婚相手も招いたことのない自宅をついに片付けた

5/4 10:02 配信

東洋経済オンライン

このゴミ屋敷に住む40代の男性は、10年間交際している恋人を一度も部屋に入れたことがない。しかし、恋人との結婚を機に、ついに部屋を片付ける決意をした。
ゴミ屋敷の住人と一括りにいえども、その背景や性格は十人十色だ。ゴミ屋敷の片付け・不用品回収の専門業者「イーブイ」(大阪府)を営み、YouTube「イーブイ片付けチャンネル」で多くの事例を配信する二見文直社長(以下、二見氏)によれば、この40代の男性は中でも珍しいタイプだったという。一般的なゴミ屋敷と、何が違ったのか。

本連載では、さまざまな事情を抱え「ゴミ屋敷」となってしまった家に暮らす人たちの“孤独”と、片付けの先に見いだした“希望”に焦点をあてる。
動画:「結婚で片付けを決意! ゴミが散乱した部屋で生活していた理由」
 「リビングに入れない。積もりに積もった20年分の生活ゴミ」

■今まで見たことがないほど大量の新聞紙

 男性が一人で暮らすアパートは関西の地方都市にあった。間取りは2DKで家賃は月6万円ほど。20年間この部屋に住んでいるが、15年前からゴミ屋敷の状態が続いているという。

 もっともゴミの量が多いのはリビングを兼用するダイニング部分だ。入り口のドアはゴミで圧迫されて開かず、男性はそのわずかな隙間に体をねじ込ませるようにして出入りをしていた。

 和室とリビングを隔てるふすまもゴミの圧で動かない。ふすまはゴミの重みで丸く変形している。ソファの上だけはスペースが確保されているが、周りには新聞紙、チラシ、ペットボトル、食品の容器などのゴミが腰の高さまで積み上がっていた。

 リビングに比べれば量は少ないものの、和室と洋室も新聞紙やチラシなどの紙類を中心にゴミであふれている。新聞紙に関しては「今まで見たことがないほどの量」とスタッフが驚くほどに溜まっていた。

【画像】「開かずの間」を開けてみた…扉の向こうに広がっていた衝撃の光景を見る(41枚)

 「(洋室では)寝ているだけです。テレビも見る機会があれば見るという(笑)」

 男性は笑いながらそう話す。ソファの一角と洋室にあるベッドで生活の大半を過ごし、仕事に行く際は押し入れのモノをゴソゴソと探る。一人暮らしなのでとくに不便を感じることもなく、15年間その生活を続けてきた。

■生ゴミ屋敷のほうが作業は楽

 ゴミ屋敷の様子から住人の生活が透けて見えてくる。この男性の場合、はじめはリビングを中心に生活をしていたが、ゴミが溜まってくるにつれてベッドのある洋室へと次第に移っていった。

 ついにリビングのドアも開かなくなり、テレビを見るとき以外は洋室で過ごすようになった。だから、枕元には焼酎の瓶がズラリと並ぶようになったのだ。洋室の押し入れには腕時計が並べられていた。おそらく、仕事に行く際に身につけるモノをここに集めていたのだろう。

 ゴミ屋敷の清掃をする際は、こうした住人の行動を頭の中で思い浮かべているとイーブイ社長の二見氏は言う。

 「ゴミ屋敷は部屋の中で使っている場所とまったく使っていない場所にはっきりと分かれるんです。大切なモノはよく使っていた場所にあることが多いので、ゴミの中に紛れていないか、より注意して見るようにしています。

 案件によっては依頼者さんがすでに他界されていることもあります。アルバムの中まで見るようなことはしませんが、写真が出てくると“こんな感じの人やったんや”と生前の生活を想像してしまいますね」(二見氏)

 今回作業に入ったスタッフは7名。まずは玄関、洋室、和室のゴミを搬出し、その後にふすまを外してリビングの片付けに取りかかる。エレベーターのない3階からの運び出しはかなりの重労働だ。二見氏によれば、「生ゴミでいっぱいのゴミ屋敷のほうが作業自体は楽」なのだという。

 「この部屋は新聞紙とチラシがとにかく多かったんですが、長い年月をかけて積み重なることによってそれらが圧縮されていくんです。とくに生活の動線になっていた場所は押し固められていて、掘り起こすと倍くらいに膨れ上がる。だから、ゴミ袋の数もなかなか予想できないですし、生ゴミよりもかなり重量があります」(二見氏)

 紙類のゴミが溜まり出すと厄介である。物理的に重いので外に捨てに行くことはもちろん、不要なモノをまとめて分ける作業すら億劫になり、あっという間に積み重なっていく。

 この男性も住み始めてから5年間は部屋を綺麗に保てていたが、途中から片付けが億劫になってしまった。

 「住み始めて5年くらいして転職して、そこはもうほぼ休みがない。寝に帰ってくるだけみたいな状態が5年ほど続いて、この状態になってしまいました。そのときに体を壊して入院したというのもありまして」(男性)

■結婚相手を10年間一度も部屋に入れたことがない

 この部屋を片付けた後は、新居に引っ越して結婚生活を始めるという。しかし、10年交際している恋人には部屋の状況を相談したことはなかった。

 「この10年間、一回も部屋に入れてないんです。“入れない状況や”とは言っていますけど、まさかここまでとは思ってないはずです。アカンのでしょうけど変にプライドというかね。もう最後まで黙っとこうかなと」(男性)

 男性がゴミを捨てられなくなってしまった原因のひとつに、「部屋の広さ」があると二見氏は考えている。都心で総面積の広い部屋を借りようとすると月の家賃が20万円以上になるなんてザラだ。ただ、地方であればこの部屋のように2DKの広さでも月に数万円で借りられてしまう。

 「一人暮らしならワンルームでいいんじゃないかと思っています。片付けが苦手な人が広い部屋に住むとえらいことになります。ゴミって“借金”と似ているんです。初めて借金した人はちゃんと返せるか不安に思うこともあるはずですが、慣れてくると400万円も500万円ももう変わらなくなってくる」(二見氏)

 ゴミ屋敷もある一線を越えると、片付ける機会を失ってしまうのだ。

 午前中の作業で玄関、洋室、和室は空になった。午後の作業は「開かずのふすま」を取り外すところから始まった。新聞紙が地層のようになっていて、大阪桐蔭高校の藤浪晋太郎が夏の甲子園で優勝投手になったとき(2012年)の記事が出てきた。一番下に埋まっていた新聞は2005年のものだ。男性が言うように、やはり20年近く前からゴミが溜まりだしたことがわかる。

 大量の新聞紙以外にも、このゴミ屋敷には大きな特徴がひとつあった。それは、趣味のモノが多いこと。押し入れの上段には箱に入ったエアガンが数丁、玄関には的とネットが設置され、射撃場になっていた。ほかにもスノボーやキャンプ用品も充実している。

 ゴミ屋敷の住人のほとんどは私生活に何らかの問題を抱えていることが多い。心のダメージによって「セルフネグレクト」のような状態に陥り、部屋が荒れていってしまう。

 しかし、この男性にはそういった“陰”がないのだ。ゴミ屋敷になってしまった経緯についても、恋人に部屋の状況をひた隠しにしていたことについても、笑いながらあっけらかんと話していた。

 「自分の身の回りのことに執着がない方でした。とっておくモノも最小限で、“もう全部いらないです”と言って作業中は外に出ていました。

 支払いは分割だったんですが、期日通りに振り込んでくれましたし、最後は結局まとめて支払っていたのでお金に困っている様子もなかったです。部屋の状況に悩んでいる様子もなく、ただただ片付けるのが面倒くさかった。それだけなんだと思います」(二見氏)

■必ずしも「ゴミ屋敷の住人=不幸」ではない

 実際のところ、結婚という機会がなければこの男性も部屋を片付けようとはしなかっただろう。そして、変わらず趣味に忙しく楽しい人生を過ごしたかもしれない。ゴミ屋敷の住人としては、かなり珍しいタイプだそうだ。二見氏が続ける。

 「この仕事を始めてしばらくは、ゴミの屋敷の住人が100人いたら100人が部屋の状況に思い悩んでいるものだと思っていたんです。もちろん、ほとんどの方が何かしら心に闇を抱えているんですが、すべてがそうではないことを知りました。

 お金もあって私生活も充実していて人生を満喫しているけど、ただ部屋の片付けだけは面倒くさくてできないという人もいるんですよね。そういう人は僕らみたいな業者にパッと頼んで、お金で解決してもらったらいいと思うんです。それくらいドライなら僕らも“散らかったらまた頼んでくれるやろ”と心配せずにいられます」(二見氏)

 男性も「どうせ頼むなら早く頼めばよかった」と笑う。

 「(ゴミ屋敷に住んでいる人は)迷っているよりはもう頼んだほうがいいです早く。最初はこうやって動画撮られるのもどうかなと思っていたんですけど、戒めのためにもいいですわ(笑)」(男性)

 イーブイによってこのゴミ屋敷は「なかったこと」になったのだ。そして、心機一転、結婚生活が始まる。

東洋経済オンライン

関連ニュース

最終更新:5/5(日) 21:21

東洋経済オンライン

最近見た銘柄

ヘッドラインニュース

マーケット指標

株式ランキング