「ドジャースとの契約」に殺到した日本企業の本音

4/16 9:32 配信

東洋経済オンライン

 米ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手の元専属通訳だった水原一平氏に関する騒動が続いている。水原氏が違法賭博で抱えた途方もない借金とその返済について、日々驚くような情報が明らかになっている。

 現在のところ、大谷選手は潔白ということで幕を引きそうな情勢となっているが、まだまだ安心できない関係者は多い。

 そのひとつが、大谷選手やドジャースとパートナーシップ契約を結んでいる日本企業だ。

■ドジャースと日本企業の契約が急増する3つの理由

 大谷翔平選手は、三菱UFJ銀行、JAL、コーセー、西川、セイコーウオッチなどの日本企業のCMに出演していたが、最近日本企業の契約先として目立つのがドジャースだ。

 直近でもドジャースはANA(全日本空輸)、TOYO TIRES(トーヨータイヤ)、興和と新たに契約を締結している。日本企業からのオファーが殺到しているといっていい状況だ。

 そもそも日本企業がメジャーリーグ球団と契約することによって得るメリットは何か。たとえば、球場内の看板に広告を掲出したり、グッズを販売したりすることが可能になるわけだが、それらは

 
1. 米本国での宣伝効果
2. 日本での宣伝効果
3. ブランディング効果/PR効果

 という形での効果がある。

 1点目について、現在、企業のグローバル化が進んでいるが、円安効果によって日本企業の海外での業績も拡大している。例えば、今年2月にドジャースとスポンサーシップ契約を締結したTOYO TIRESは海外の売り上げが全体の8割近くを占めており、その過半を北米が占めている。ドジャースとの契約には合理性があるといえる。

 2点目の日本における宣伝効果だが、野茂英雄氏以来、石井一久氏、黒田博樹氏、前田健太氏、ダルビッシュ有氏など、ドジャースは多くの日本人選手を起用しており、日本人にも親しみは深い。大谷選手だけでなく、ドジャースには山本由伸選手もいる。現地に応援に来た日本人ファンへの広告、物販効果だけでなく、テレビ放送などによる「2次効果」も考えると、多くの日本人に広告や企業名を訴求することが可能になる。

 昨日、4月15日はジャッキーロビンソンの日だった。ジャッキーロビンソンはこの日、メジャーリーグ初の黒人選手として当時のブルックリン・ドジャース(現ロサンゼルス・ドジャース)でデビューした。当時は黒人差別が激しい時代だった。この例が示すように、ドジャースは元々人種の多様性を尊重する先進的な球団であり、日本企業にとっても支援する価値は高い。

 3点目に関しては、ドジャースにスポンサードすることによって、その企業が手がける商品のブランドイメージが向上したり、メディアやネット上で話題になったりして知名度や好感度が上がる効果が期待できる。実際、ドジャースと契約した企業はメディアで繰り返し報道され露出している。

 ブランディング効果は、可視化しづらいし、短期的に売り上げに直結するものではない。しかし、「(日本人選手が活躍する)ドジャースを応援する企業」としてのイメージが形成される効果は大きい。日本経済が好調かどうかはさておき、円安も後押しとなって収益が拡大する大手企業は多く、広告・宣伝への「先行投資」にも積極的になっている。

■大谷選手とのスポンサー契約にリスクはもうない? 

 もちろん、日本企業はドジャースとではなく、大谷選手個人と契約をするという方法ある。元専属通訳の水原氏の違法賭博問題によって、一時期スポンサー離れが起きるのではないかという懸念もあった。しかし、本件は収束に向かっており、大谷選手は潔白である可能性が濃厚となってきている。

 過去にも、イチロー氏、松井秀喜氏など、日本人メジャーリング選手には、多くの日本企業がスポンサーしてきた。彼らの活躍ぶりとそれに裏打ちされた人気はもちろん、スキャンダルがほとんどなく、人格も優れて、真摯に野球へと打ち込んでいるというイメージがあったからこそ、企業は安心してスポンサーになることができた。

 もちろん、大谷選手も同じだったと言える。今回の件で大谷選手が完全に潔白であったとしても、トラブルに巻き込まれたという事実、スポンサー契約にリスクが存在しうることが顕在化したことは無視できない。

 ひとつ事例を紹介したい。2022年12月、ナイキはNBAのスター選手カイリー・アービングとの数100万ドル規模のパートナーシップ契約の終了を発表した。アービングが反ユダヤ主義的な内容を含む映画へのリンクをSNSに投稿したが、当人が反ユダヤ主義者であることを明確に否定しなかったのが契約終了の理由だ。

 大谷選手が今後このような行動を取ることは考えにくいが、だれかの行動を第三者が逐一監視して完全にコントロールすることができない以上、個人と高額の契約を交わすことはどうしてもリスクが大きくなってしまうことは理解しておくべきだろう。
 
今年の1月、大谷選手がプロスポーツ史上最高額でエンゼルスからドジャースへの移籍が決定した。それ自体は、非常にめでたいことなのだが、スポンサー契約している企業にとっては悩ましい部分もある。

 大谷選手と契約している三菱UFJ銀行、JAL(日本航空)のコーポレートカラーはエンゼルスのチームカラーと同じ赤である。しかし、移籍後のドジャースのチームカラーは青で、それぞれの競合企業である、みずほ銀行、ANAのコーポ―レートカラーと同じだ。

 所属する球団チームカラーとコーポレートカラーが一致しないだけならまだしも、競合企業のコーポレートカラーに変わってしまうのは、悩ましいところだ。

 今後、三菱UFJ銀行やJALの広告に、ドジャースのユニフォームをまとった大谷選手が登場することは、恐らくないと思われる。コーポレートカラーは、企業にとって思いのほか重要なもので、自社の広告費を使って競合企業のコーポレートカラーを消費者にアピールするようなことはあえてやりたくはないだろう。

■JALとANAの「競合かぶり」問題とスポンサーメリット

 この辺で、日系大手航空会社のJALが大谷選手と、ANAがドジャースと契約しているという、同業での「競合かぶり」の問題について触れておきたい。

 本件は、過去の業界慣行を破っているケースとも言われることがあるが、実際はもう少し複雑だ。

 松井秀喜氏が、ニューヨーク・ヤンキースに所属していた際に、松井秀喜氏はJALとスポンサーシップ契約をしていたが、ヤンキースの方はコンチネンタル航空(現ユナイテッド航空)と契約をしていた。

 1人の選手が競合企業2社(あるいはそれ以上)と重複して契約することは依然としてタブーだが、選手と球団のそれぞれが競合企業と契約することは、これまでも問題はなかった……とまでは言わないまでも、許容されてきたと言える。

 ただ、今回の場合は、同じ日系企業であり、路線の多くが競合していることを考えると、競合度はより強まっている。

■大谷選手は今後どの飛行機に乗るのか? 

 松井選手が日米間の移動の際に、どちらの航空会社を利用するかが一時的に話題となったが、大谷選手においては日系企業同士であるだけにもっと話題となるだろう。

 「大谷選手は他のことに煩わされず、野球に専念して欲しい」というのは、ファンに限らず、多くの日本人の願いであるとは思う。しかし、大谷選手とドジャースとスポンサー契約している企業にとっては、大谷選手の活躍に加えて、スポンサーとしてのメリットも気にせざるをえない。

 ドジャースにとってだけでなく、スポンサー企業にとっても、現在の大谷選手はかけがえのない、替えがきかない存在だ。だからこそ契約金も吊り上がる。一方で、契約金に見合った“結果”が求められるのは、スポンサー企業にとっても同様である。

 今後、大谷翔平選手らが活躍すると同時に、不祥事やスキャンダルに巻き込まれることなく、スポンサー企業の期待に応えられることを願っている。

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最終更新:4/16(火) 11:02

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