「数値はクリアしたのに目標達成できない…」事業を伸ばすKPI設定の“3ステップ”とは?

5/9 9:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 40歳からベンチャー企業を起業しようという人を後押しする本連載。今回は起業プロセスの一番の目玉でもある、プロダクトを事業成長させるグロースフェーズの3つのメソッドに焦点を当て、「熱狂的なファンを探し出す」「KPIをデザインする」「PMFのシグナルをキャッチする」の3つの戦術について説明していきます。40代で起業を決意した背景には、これまで勤め先で、プロダクト開発経験や新規事業を成長させた経験があるのではないでしょうか。グロースフェーズではサラリーマン時代に培ったさまざまな経験をどこまで生かせるかも成功の大きなポイントとなります。(アンパサンドCEO 後藤康成)

● 顧客のインサイトをつかむ「SPFステージ」

 アイデアをカタチにする方法について、第4回では動くプロダクトの重要性について説明してきました。さらに第5回では、フィットジャーニーをもとに顧客と課題が適切に捉えられているかというCPF(Customer Problem Fit)ステージから、課題の特定と検証に磨きをかけていき、最も効果的なソリューションを見つけ出すPSF(Problem/Solution Fit)ステージについて説明しました。

 起業家の最初のアイデアは「こんなプロダクトがあったら、この課題がソリューションできるのに」からスタートします。SPF(Solution Product Fit)ステージは、そのプロダクトで課題解決できるのかどうかを模索していく実証実験のステージであり、PSFステージで検証されたソリューションをプロダクトとして実現できるかという非常に重要なステージとなります。新規事業の中でもっともエキサイティングなのがSPFステージと言ってもいいくらいです。第4回で説明した「MVP(Minimum Viable Product、最小限の機能を持つ動くプロダクト)」、つまり実際に動くプロダクトで顧客のインサイトをつかんでいきます。

 SPFではリーンキャンバスでいう、「(3)独自の価値提案」と製品のコンセプトをシンプルに表した「ハイレベルコンセプト」を「(4)解決策」としてMVPに込めていきます。

● 熱狂的なファンを探し出すために、どんな指標を設定する?

 SPFのポイントは、顧客からのフィードバックをひとつでも多く得ること。そのためには「完成度よりもスピードを重視して、機能実装とローンチを繰り返し行っていく」のが重要です。そのフィードバックから課題解決体験の検証を進めていくのですが、「プロダクトが顧客にどのように刺さったのか」を検証していくのがまた至難の業です。

 顧客がプロダクトを使い続ける理由として「あれば良い(Nice to have)」ではなく、「なければいけない(Must have)」という「熱狂的なファン」を獲得するため、徹底的にプロダクトを磨き上げていきます。この熱狂的かどうかを判断する定性的な指標は、「このプロダクトにお金を払って使ってもらえるか」。顧客インタビューによる定性的な顧客満足度が最も重要な指標となり、プロダクトが顧客のバーニングニーズ(切迫した課題の解決)を満たしている証拠となるのです。

 一方、客観的な顧客のふるまいを数値で捉えた場合、何度も使ってもらえる継続率、継続して利用する時間や間隔など定量的な指標が有効です。もし継続的に使ってもらえないのであれば、その真因についてチームで徹底的に議論し、仮説検証のプロセスを繰り返して改善していくことが重要となるのです。

● 顧客はプロダクトを使ってくれるか? KPIのデザインが重要

 SPFステージで顧客のバーニングニーズを捉えたあとは、いよいよプロダクトが本格的に市場に受け入れられるかを検証するPMFステージに入ります。これまでクローズドや機能を限定して提供してきたプロダクトをPMFステージでパブリックローンチさせ、引き続き顧客の課題解決ができているかを検証していきます。

 顧客がその独自の提供価値を受け入れ、継続的にプロダクトを使ってもらえるのか確認するためには、リーンキャンバス「(7)主要指標」としてKPI(Key Performance Indicator)を設定します。KPIとは、PMFステージでの目標を達成するための重要な数値となります。顧客のふるまいを定点観測として数値化することで、プロダクトのパフォーマンスを定量的に把握できます。このKPIの設計が不十分だと、本来のパフォーマンスを正しく評価できず、成長を実感できない場合もあるので、KPIの設計は重要なのです。

● どうやってKPIを設定する?

 このKPIの設計は、KPIツリーを使って進めていきます。KPIツリーは効果的なKPIを設計する有名なメソッドです。その方法は大きな問題を細分化していきながら構成要素をツリー状に書き出していくロジックツリーの考え方が元になっています。

 その作り方は3つのステップから構成されます。

STEP1:事業の最終目標の指標であるKGI(Key Goal Indicator)を決める。
STEP2:KGIを起点として達成のために必要な定量指標であるKPIを洗い出す。
STEP3:ロジックツリーを利用し指標の流れを可視化しメンバー最適な指標を議論する。
 ここでは営業による売上を伸ばすためのKPIツリーを見ていきましょう(図)。売上は「受注数×顧客単価」で構成されます。そのさらに先、受注数を決定づける指標に分解した場合、「商談数」を効果的に設定することで「受注率」を上げることができます。この場合「商談数」と「受注率」がKPIとなり、そのKPIを追いかけていくことで売上の増加につながっていくのです。

 KPI設計で守らなければいけないポイントは二つあります。一つは、「指標が測定可能なこと」。つまり計算式(四則演算)によって計算されるものかを確認する必要があります。二つ目は「指標(キーワード)の定義を明確にし、曖昧性をなくすこと」。チームメンバーの誰もがその指標を同じ意味で把握できることが必要です。このルールを守らないと、測定時と分析時に事業成長の指標を正しく捉えることができません。

● PMFのシグナルをキャッチする

 プロダクトが市場に受け入れられたか。つまりPMFが達成できたかどうかのシグナルはプロダクトによってさまざまであり一概に定義できないのですが、PMFが達成できた状態では次のような現象が起きます。

 顧客満足度が高くなるとさらなる期待が広がるために、「顧客からの喜びの声が届く」「顧客からの問い合わせが殺到する」などの顧客からのフィードバックが増えてきます。さらに顧客が顧客を呼ぶ「顧客が他の顧客を紹介してくれる」というポジティブスパイラルが生まれます。これがKPIシグナルです。

 このシグナルが見えてくると、PSFステージやSPFステージにおいて苦労して得られた提供価値に磨きがかかり、プロダクトが「顧客に提供できる価値を明確に説明できる」や「競合に比べて選ばれる理由を明確に説明できる」というものになってきて、明らかにプロダクトの優位性が浮き彫りになります。

 必死で考えたペーパープランが形になり、収益を生み出すようになる……ここまで来ると、自分の考えたビジネスが、本格的な成長フェーズに突入したという実感がひしひしと湧いてきますね。

● 違うと思ったら迷わずセットバックする勇気

 最初に設計・設定したKPIは、必ずしも成長と結びつくとは限りません。期待通りの数値でない、期待通りの数値となっているのにKGIが達成できていない……よくあることです。こういうときは、改めてKPI設計をやり直す必要があり、この試行錯誤を繰り返すことで事業の勝ち筋(成功の方程式)が見えてきます。

 あるいは何度やってもKPIが伸びなければ迷わず前のSPFのフェーズにセットバックしSPFでのプロダクト検証をやり直す勇気も重要になります。新規事業立ち上げは一発でうまくいくことを筆者も経験したことがなく、スクラッチ&ビルドの連続であることを覚悟しなければいけません。

 次回は成長戦略と資本政策、そしてエグジットプランについて説明します。IPOすれば、社長や創業メンバーはお金持ちになれるのでしょうか?お楽しみに。

スタートアップ・フィット・ジャーニー 今どの段階にいて、何に取り組むべきかのガイド
https://review.foundx.jp/entry/startup-fit-journey
リーンキャンバスとは? 実践的な書き方と考え方
https://sairu.co.jp/method/24846/
KPIツリーとは?【分解の仕方】作り方、KGI・KPIの具体例(カオナビ)
https://www.kaonavi.jp/dictionary/kpi_tree/

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最終更新:5/9(木) 9:02

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