朝ドラ「ブギウギ」最終回の前に早すぎる全体総括 「音楽朝ドラ」真骨頂に向けた趣里と伊原六花の功績

3/27 6:32 配信

東洋経済オンライン

 朝ドラをことさら熱心に見た半年間だった。

 「BK朝ドラ」(NHK大阪=JOBKが制作する朝ドラの意。原則的に10~3月放送)についていえば、最近では『スカーレット』(2019年)、『カムカムエヴリバディ』(2021年)も比較的熱心に見たのだが、『ブギウギ』は『スカーレット』の重み・深みと『カムカム』の派手さ・賑やかさをいいバランスで配合した感じがした。

 ただ全体的に振り返って、とにかく図抜けていたのは、戦争で亡くした弟・六郎に捧げた『大空の弟』が生歌で切々と歌われた回だった(12月7日放送分)。あの15分は、まごうことなき大傑作、朝ドラ史に残る回になろう。

■「音楽朝ドラ」としての真骨頂

 しかし以降、個人的には正直、少々視聴テンションが下がってしまった。その大きな要因は、福来スズ子自身が戦争にがんじがらめになり、音楽活動がしにくくなることにあった。つまり、やはり『ブギウギ』は「音楽朝ドラ」というところに本質があったと思う。

 そんな「音楽朝ドラ」としての真骨頂が『大空の弟』回だったと思うのだ。ただ先週金曜日(3月22日)に放送された「オールスター男女歌合戦」、『ヘイヘイブギー』の回は、「音楽朝ドラ」の真骨頂に向けて、再び一気に盛り返した印象を受けたのだが。

 そう、『ブギウギ』の魅力の本質は「音楽朝ドラ」=「音楽」と「朝ドラ」のかみ合わせの良さの発見にあったと考える。

 実際、早送りして、趣里の歌唱シーンだけ見ている人も多かったのではないか。ちなみに私は、ここまで完走し続けた上に、歌唱シーンがある回だけをHDDにダビングして保存、歌唱シーンが始まるところにチャプターを打ち込んで、何度も見ている。

 また、その歌唱シーンがおしなべて素晴らしいので、何度見ても、まったく飽きさせないのだ。

 趣里の歌は、いかにも鍛えられたプロ、というよりは、地声・地肩をぶんぶん震わせて歌っている感じで、これは、当時の音楽界において、笠置シヅ子が、音大(東洋音楽学校)出身の淡谷のり子とは違う「叩き上げ」だったことと通じる。

 ここで少し細かい話になるが、先の『大空の弟』のところで「生歌」という表現を使った。あの『大空の弟』のシーンは、趣里が生で歌うのをそのまま収録したものだった。他にも、趣里が母(水川あさみ)の死を前に『恋はやさし野辺の花よ』を歌うシーン(11月23日)や、列車の中で『ふるさと』を歌うシーン(12月12日)などは趣里の生歌をそのまま収録していた。

 逆にいえば、『大空の弟』を除く、ステージ上での多くの歌唱シーンは事前録音、いわゆる「口パク」ということになる。

 だからといって、例えば『ラッパと娘』の初出回(11月10日)の価値が減じられるものではないし、事前録音ゆえに激しく歌い踊ることができたのだが、視聴する側はまことに現金なもので、『大空の弟』の生歌の迫力を一度味わってしまったことも、それ以降の事前録音した歌唱シーンへの視聴テンション低下につながってしまったように思う。

■『ブギウギ』とは、一言でいえば…

 さてここからは、「早すぎる全体総括」を進めていくのだが、その大前提として、とにもかくにも『ブギウギ』とは、一言でいえば趣里の奮闘だった。

 朝ドラのヒロインには4度目の挑戦、2471人が応募したというオーディションにおいて、募集年齢上限の32歳で選ばれたという(現在は33歳。見えないが)。大抜擢と言わざるを得ない。

 4歳からクラシックバレエを始め、中学卒業後にはロンドンの名門バレエ学校へ留学するも、大けがをして諦めたという経歴を知っていたので、踊りについては安心していたのだが、歌は正直、期待を大幅に上回った。

 また関東出身にもかかわらず、大阪弁も日に日に上手くなっていった。途中からは、独特の大阪弁特有の「フラ」(落語用語でいう「独特の愛嬌、おかしみ」的な意味)も身に付いてきた。

 ただ、あまりにハマり役すぎた感もあり、実際、WOWOWで並行して放送された『東京貧困女子。-貧困なんて他人事だと思ってた』(2023年)を見ていたら、まるで福来スズ子が編集者役をやっているような錯覚をしてしまった……。

 でも今後、抜群の芸能運動神経で福来スズ子の幻影を乗り越え、様々な役回りで新しい姿を見せてくれることだろう。

■『ブキウギ』をアワード形式で振り返る

 以下、『ブギウギ』のあれこれを、アワード形式を通じて、さらに細かく振り返っていく。ただ、あくまで個人的な意見なので、みなさんも自分ならではの評価をして、楽しく振り返っていただきたい。

 まずは「助演賞」の発表(スペースの都合で「助演女優賞」に絞る)。ヒロインのライバル的ポジションの準主役として、長く出続けた菊地凛子(1月5日の特攻隊を送り出すシーンが白眉)は別格に措くとして、ネイティブ大阪人として、ヒロインの快活の母親役を見事に演じた水川あさみ、前半戦を彩った翼和希、蒼井優、後半、雰囲気をピリリと締めた木野花を抑えて、助演賞は伊原六花に差し上げたい。

 そもそもは『ブキウギ』のヒロイン役のオーディションを受けていたという。大阪出身で、かつ抜群のダンス力も知っていたので、決定以前に私は、彼女をヒロイン役に予想したのだ。

 そういう意味では「助演」にまわることは痛恨だったのかもしれないが、水川あさみと同じくネイティブ大阪人としてセリフの安定感を保ちながら、ドラマ全体に清涼な風を吹かせる秋山美月を見事に演じきった。

 そんな伊原六花のベスト回はもちろん、東京の舞台で趣里が歌う『センチメンタル・ダイナ』に合わせて、列車の中でタップダンスを踊った回(11月17日)。この回は、タップの前の「せっせっせ」も含めて、『ブギウギ』トータルとしても、個人的には『大空の弟』に次ぐベスト回だった。もしかしたら、『ブギウギ』効果で今後、趣里以上にブレイクする可能性も高そうだ。

 「新人賞」部門は、福来スズ子の弟、六郎を演じた黒崎煌代で決定だろう。今回がデビュー作というまさに新人にもかかわらず、クセのある難しい役を堂々とこなした。

 ただ、忘れがたいのは序盤で幼少期の福来スズ子を演じた澤井梨丘だ。歌が実に素晴らしかった。梅丸少女歌劇団の押しかけオーディション(10月6日)で歌った『恋はやさし野辺の花よ』は、このドラマの成功を強く確信させるものだった。今後に大いに期待。

 次に「歌唱賞」(ただし歌・演奏そのものだけでなく演出まで含む)。ベスト5と、捨てがたかった次点まで発表したい。私はこう見た、そして、こう聴いた。

1位:『大空の弟』:趣里が生歌で披露した回:殿堂入り(12月7日)
2位:『センチメンタル・ダイナ』:趣里の歌と伊原六花のタップダンス(11月17日)
3位:『ラッパと娘』:趣里による衝撃の舞台初披露(11月10日)
4位:『恋はやさし野辺の花よ』:澤井梨丘の梅丸少女歌劇団オーディション(10月6日)
5位:『別れのブルース』:特攻隊員に捧げた菊地凛子の絶唱(1月5日)
次点:『恋はやさし野辺の花よ』:母親・水川あさみが亡くなる直前の趣里の生歌(11月23日)

次点:『ヘイヘイブギー』:水城アユミに見せつけた堂々たるパフォーマンス(3月22日)
 以上に含まれない「特別賞」は、翼和希が止める中、蒼井優が梅丸少女歌劇団の労働争議を決断する回(10月20日)。趣里の大阪弁的「フラ」初披露のセリフ「ワテもう我慢できまへんわ!  何やさっきから聞いとったら!  コラァ!」と、翼和希を抱きしめる蒼井優の印象度たるや。

■最終回に向けて奇跡が起こるか

 と、楽しく振り返り、『ブキウギ』を褒めちぎったのだが、最後の最後に冷静に判断すれば、「朝ドラを超えた朝ドラ」=『カーネーション』(2011年)はさすがに超えられなかったと、私は思う。

 しかし、いやいや、『ブギウギ』はまだ、あと3回残っている。あと3回で奇跡が起こるかもしれない。奇跡が起きがちなのも、BK朝ドラの魅力の1つなのだ。

 例えば……もし3月27日(水曜日)の第124回で放送予定の「福来スズ子歌手引退報告」でこう話したら、奇跡は起きる! ――「2024年12月31日放送の紅白歌合戦が、『ブギウギ』の真の最終回です。去年叶わんかった福来スズ子としての出場や。『ラッパと娘』歌うでぇ。もちろん生歌・生演奏・生放送でっせ!」

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最終更新:3/27(水) 6:32

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