日本の「大家」名乗り前金を騙し取る…中国SNSで詐欺横行か《楽待新聞》

10/12 19:00 配信

不動産投資の楽待

日本で増える、「中国人」の投資家や居住者。何かと利益を享受している側面に注目が集まりがちですが、彼らも常に順風満帆なわけではありません。

中には、日本で恐ろしい詐欺に巻き込まれて窮地に陥るケースも少なくないのです。

近年はインバウンドや外国人労働の需要の高まりに伴い、日本でも民泊や賃貸物件といった形で、外国のお客様とお付き合いされる事業者が増加しています。

そのため、こうした分野で起こりうるトラブルは、賃貸物件の大家さんを含めた事業者にとっても無関係ではないのです。

今回は実際に発生している「中国人留学生が日本で被害に遭う詐欺」の事例を取り上げ、上海在住である筆者の視点から、詐欺の実態と背景を明らかにしたいと思います。

■中国人留学生を狙う「バーチャル賃貸詐欺」

中国SNSである「小紅書」に、以下のような投稿がされました。

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私は以前、不動産仲介を通じて日本の賃貸物件を探したときにうまくいかなかったので、「大家直貸し」の物件を探すことに切り替えました。

そこで、中国SNSの小紅書で賃貸情報を出している、中国出身で今は日本に帰化しているという大家を見つけました。

内見を行い、物件の条件が非常に良く、しかも家賃が安かったので入居を即決しました。

その際に大家は「無料引っ越し、家具無料提供、ネット代無料」といった夢のような条件を次々に出してきました。

怪しいとは思ったものの、証拠もなく嘘だと断定できなかったため、最終的に敷金1カ月・礼金1カ月・火災保険料のあわせて16万円を支払いました。

ここで賃貸借の契約書に署名したのは、大家が「父親」だと主張する人物の名前でした。

ところが引っ越し当日、突然「家に入れない」と言われました。理由は、その家が以前は管理会社に民泊として委託されていて、管理会社が解約を忘れていたので翌日でないと入居できない、というものでした。

翌日も別の理由で入居を断られ、1週間も引き延ばされた挙句に大家は連絡を絶ち、姿を消しました。

翌日、警察に行こうとしたところ、大家のアカウントから突然「自分は大家の父親だ。本人は心臓発作を起こして入院した」と連絡がありました。

そして「自分が責任を持って引っ越しを手伝う」と具体的な時間を約束されましたが、時間になるとさまざまな理由をつけ「無理だ」と言われました。

病院の住所や名前を尋ねても一切答えず、極めつけに、この詐欺師は「警察に行っても無駄だ。ブロックしていないし連絡を取り続けているから詐欺にはならない」とまで開き直ってきたのです。

警察署に行ったところ、警察からも「契約を結んでおり、連絡も継続しているため、刑事事件として詐欺と断定できない。弁護士を通じて民事訴訟するしかない」と言われました。現在は弁護士に依頼して対応を進めています。

このことから分かるのは、彼らは完全に常習犯のグループだということです。この人物は小紅書で頻繁に賃貸情報を投稿しています。どうか皆さん、軽々しく小紅書上の「大家直貸し」を信じないでください。
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つまり、小紅書で実際には入居できない賃貸物件の情報を投稿し、敷金や礼金などの前金を騙し取る、いわば「バーチャル賃貸詐欺」とも言える詐欺です。

別の情報によると、上記の例で出てきた「大家」の人物からは現在までに少なくとも同様の手口で40人以上が被害に遭っており、その被害者の多くは中国人留学生です。

被害額は1人あたり10万~20万円ですが、200万円を騙し取られたケースもあり、総額は約800万円にのぼります。

こうした手口は日本に限ったことではなく、香港やオーストラリアなど世界各地で行われています。

これらに共通するのは、「現地に詳しいと称する大家との直接取引」であることです。こうしたことから、この手法は詐欺グループによって統一した手法として運用されていることが伺えます。

また、中国では「特に日本での部屋探しは手続きが煩雑で、初期費用が高く、ルールも厳しく、退去時に多額の費用がかかる」と認知されています。

そして中国では今も「ツテ」や「コネ」を重視する、縁故社会の風土が根強く残っています。

このような背景をもとに、海外に長く住んでいる「同胞」であることによる信頼を利用し、架空の物件を紹介し前金を騙し取るというのが、この詐欺の手口です。

■留学生を狙う「電信詐欺」と「バーチャル誘拐」

こうした賃貸詐欺に限らず、中国人留学生を狙った詐欺は数多く存在します。

その中でも現在、主流となっているのが「電信詐欺」(電話・SMS・インターネットを使った詐欺)と「バーチャル誘拐」です。近年は日本国内でも、留学生を標的にした詐欺事件が相次いで報道されています。

中国籍の大学生が中国警察を装って留学生から現金518万円をだまし取った事件。はたまた、中国の警察や公安職員を装って中国人留学生を脅し現金を送金させた上、誘拐事件を自作自演するよう指示して家族から身代金をだまし取った事件などがあります。

この章では、これらの詐欺の手口と実例を紹介します。電信詐欺とバーチャル誘拐の一般的な手口は以下の流れとなります。

(1)詐欺シナリオと偽装

詐欺グループは「国際刑事機関」、「中国の公安・検察」、「現地の警察」、「領事館」などを名乗り、被害者に犯罪に関与していると信じ込ませます。被害者に罪や不祥事の恐怖を植え付け、費用や手続きの名目で金を要求します。

(2)脅迫のエスカレーションとバーチャル誘拐

被害者に資金が用意できない場合、詐欺グループは被害者本人を操り「自分が誘拐された」と偽装させ、家族から身代金を送らせるよう仕向けます。被害者は恐怖に追い込まれ、指示どおり遠隔地に身を隠すよう強要されます。

(3)偽装した証拠の演出

被害者は犯人の指示により、テープ・ロープ・赤い塗料等の小道具を使って自作で「拘束されている」映像や写真を撮らされます。犯人はその画像・動画を家族に送り付け、信頼性を作り上げます。

(4)家族から現金を騙し取る

詐欺グループは被害者から入手した連絡手段を使って家族に接触し、事前に撮影した画像・動画や被害者の私生活情報を示して信憑性を補強し、身代金や罰金等の名目でお金を騙し取ります。

そして、この詐欺も世界各地で行われているのです。

2023年12月、米ユタ州で17歳の中国人留学生が行方不明となり、両親のもとに「誘拐された」とする写真や身代金要求が届きました。両親は脅迫を信じ込み、中国国内の口座へ約8万ドルを送金してしまいました。

しかし実際には、学生は犯人の指示で山中に身を隠していただけで、物理的に拘束されていたわけではありません。

これは「バーチャル誘拐」の典型的な例です。この件もFBIや地元警察の協力で学生は無事保護されましたが、こうした詐欺は日本に限らず中国人留学生を狙い繰り返し発生しています。

電信詐欺は金銭のみならず、生命まで失われる惨事を引き起こしています。

今年3月、19歳の中国人女子学生がマレーシアへの留学のために旅立った9日後、住んでいた39階の部屋から飛び降りて命を落としました。遺品を整理する中で、両親は娘が生前、巧妙に仕組まれた電信詐欺に巻き込まれていたことを知ります。

事件当日の午後、女子学生は母親に電話をかけ、「家にお金はどのくらいあるの?」と突然尋ねました。普段は金銭に関心を示さない娘の言葉に母親は戸惑いましたが、「多くはないけれど学費には十分よ」と答えました。

すると娘は焦った口調で「自分が事件に巻き込まれ、ある警官が懲戒覚悟で助けてくれている。そのため25.8万元(約530万円)の保証金が必要」と訴えたのです。

母親はすぐに「それは詐欺だ、相手にしないで」と諭しました。しかし通話後、女子学生は母に「保証金が払えなければ警官が職を失い、自分も1年半以上家族に会えなくなる」と書かれたメモやチャット画面を送り、「父や弁護士には絶対言わないで」と機密保持を強調しました。

その後、彼女とは音信不通となり、メッセージにも電話にも応答しなくなりました。そして当日の夜に訃報が届いたのです。

両親が遺品を整理するなかで明らかになった、詐欺の実態は以下の通りです。

まず、女子学生はマレーシア通信局を名乗る電話を受けました。「中国国内の彼女名義の電話番号が詐欺SMSを大量送信して通報された」と言われ、さらに「ある高齢女性が死亡した詐欺事件に関与している」と警察から告げられました。

その後、行動を逐一報告するよう要求され、監視ソフトをインストールさせられ、24時間遠隔監視を受けました。さらに検察官を名乗る人物からも「すぐに金を払わなければ家族に累が及ぶ」と急かされ続けたのです。

こうした留学生をターゲットにした詐欺が、現在の主流のひとつとなっています。

2023年、上海市詐欺対策センターが2022年以降の海外留学生詐欺案件を分析したところ、被害者の平均年齢は22歳、最年少は17歳で、大半は2000年以降生まれ。

出国してから初めて詐欺に遭うまでの最短は1日、半数以上が6カ月以内に被害を受けているのです。

若い中国人が簡単に詐欺に引っかかってしまう背景には、主に2つの要因があります。

1つ目は、学生時代に学業に専念するあまり、生活の中で必要となる実践的な知識、特に詐欺防止に関する知識を十分に身につけていない若者が意外と多いという点です。

とりわけ「海外に出た中国人を狙う詐欺」が存在するという事実は、多くの人にとって盲点になりやすい側面があります。

2つ目の要因は、中国という国が民主主義国家ではなく、国家が国民を管理する社会構造にあるという点です。

たとえば、インターネット上で不適切な内容を投稿すれば公安から連絡が来ることは常識として広く認識されています。

そのため、「国家の代表」を名乗る者から突然連絡を受けた場合、それを無視すれば自分だけでなく家族や関係者にも影響が及ぶかもしれない、そう考えるのは自然な反応だと言えます。

■「孤島」にいる留学生

こうした詐欺被害が相次ぐなか、日本でも多くの大学で留学生向けの注意喚起が行われています。

留学生たちは社会経験が浅く、現地の社会へも溶け込めず常に不安な心理状態があります。

そして、家族とは遠く隔たり、心配をかけたくない心理から連絡も滞りがちで、孤島のような存在になりやすいのです。そして、その隙を詐欺グループに突かれています。

今後は大学のみならず、社会が連携し留学生に対する情報提供を充実させ、被害を防ぐことが求められます。詐欺を「個人の注意不足」の問題に矮小化せず、社会全体で支える観点が不可欠だといえるでしょう。

上海在住のえいちゃん/楽待新聞編集部

不動産投資の楽待 編集部

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最終更新:10/12(日) 19:00

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