建売住宅がピンチ? 今「戸建てが売れない」訳を飯田GHDの決算で分析《楽待新聞》

4/23 19:00 配信

不動産投資の楽待

企業の決算から、不動産業界の現状について考える本連載。

今回取り上げるのは「飯田グループホールディングス株式会社」です。戸建て分譲住宅事業を中心に、不動産関連の子会社・グループ会社の経営管理などを行っている会社です。

飯田グループホールディングスは4月8日、2024年3月期の業績見通しについて売上、営業利益、純利益いずれも下方修正を発表しました。

今回は飯田グループホールディングスの決算から、戸建て分譲住宅の業界で何が起きているのかを見ていきましょう。

■原価高騰でも価格転嫁できず苦戦

まず、飯田グループホールディングス(以下、飯田GHD)がどのような事業を展開しているのか見ていきます。

飯田GHDの事業セグメントと、2023年3月期時点でのそれぞれの売上構成は以下の通りです。

(1)戸建て分譲:84%
(2)マンション:6%
(3)請負工事:5%
(4)その他(不動産賃貸業など):5%

戸建て分譲やマンション分譲事業を行い、その建設能力を活用して請負工事業、さらに不動産賃業なども展開しています。中でも、戸建て分譲事業が大半を占める主力事業となっています。

主力事業である戸建て分譲住宅のエリア別着工シェアを見てみると、2024年3月期の3Q時点では首都圏が31.2%と最も大きくなっています。

一方、北関東30.9%、東北47.2%、沖縄51.6%など、地方部でも大きなシェアを持っています。飯田GHDは、全国で戸建て住宅の事業を大きな規模で展開していることが分かります。

さて、そんな飯田GHDの4月8日の発表によれば、2024年3月期の業績見通しにおいて売上は8.4%、営業利益は48.6%、純利益は55.7%もの下方修正となっています。

想定以上の苦戦となっている決算から、何が読み取れるのでしょうか。

まずは、2020年3月期からの業績推移を見ていきます。

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2021年3月期までは堅調に売上を伸ばしていますが、2022年3月期は減収となっています。

2023年3月期は増収となりつつも、2021年3月期には及んでいない状況で、ここ2年ほどは伸び悩み傾向だと分かります。

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また、純利益は2022年3月期までは増益が続き好調でしたが、2023年3月期は前期比で大幅な減益となっています。

売上面は2022年3月期以降、苦戦傾向にあり、利益面は2023年3月期から苦戦していることが分かります。

ではなぜ2023年3月期の利益面が悪化していたのかといえば、主力の戸建て分譲住宅事業で粗利率が悪化したことによる影響が大きいです。

2022年3月期に20.4%だった粗利率は、2023年3月期には16.1%まで悪化しています。

そしてなぜ粗利率が悪化していたのかというと、理由は原価の上昇です。

都心部では1棟当たりの土地の原価が+146万円、建物原価は+96万円で計242万円増加していますが、販売価格に転嫁できていたのは182万円と十分ではありません。

地方部でも1棟当たりの土地の原価が+33万円、建物原価は+116万円と計149万円増加した一方で、販売価格に転嫁できていたのは59万円と、こちらも十分ではありませんでした。

地価の上昇や資材価格の高騰が続いたことで原価が高騰したものの、十分な価格転嫁ができていなかったため、業績は苦戦していたということです。

■販売不振で在庫が急増

十分に価格転嫁できていなかった要因は、市況の悪化による販売不振です。インフレも進む中で、住宅の需要は減っています。

価格転嫁できていない状況のなか、収益性を悪化させつつ販売したものの未契約在庫は増加。2021年3月期時点では1万6273棟だった在庫が、2023年3月期には2万5767棟まで増加しています。

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また、2022年3月期は利益面が好調でしたが、売上は前期比で減少していました。

売上減少の要因も販売面の苦戦で、2021年3月期に4万6620棟だった販売棟数は4万1534棟まで減少しています。さらに未契約在庫も増加しています。

2022年3月期時点から、すでに販売面の苦戦が始まっていたことが分かります。

当時、売上が減少した一方で利益面は好調だったのは、土地原価が減少する中でも販売価格を上げることができ、粗利率が増加していたからです。

これは会計的な話になりますので詳しくは触れませんが、在庫は売れないと費用にならないので、在庫自体が増えても業績は悪化しません。

例えば現金を5000万円使い、家を一軒建てたとしても、「現金5000万円」という資産が「5000万円の価値がある家」という資産に変わっただけということです。

そのため在庫が増えたところで、利益も出なければ赤字も出ません。

その後、家が6000万円で売れれば家の5000万円が費用となり、会計上は1000万円の利益が出ます。4000万円でしか売れなければ1000万円の赤字となります。

例外も多いので何とも言い難い部分ではあるのですが、基本的には在庫が増えても、それが売れるまでは利益への影響はないということです。

2022年3月期では販売不振で在庫が増え続けているにも関わらず、販売単価が上昇し高値で売れていたので利益面が非常に好調だったわけです。

一方で、会計上の利益ではなく営業キャッシュフローという、本業でどのくらいキャッシュを増やすことができたのかという指標があります。

大幅増益で利益面が好調だった2022年3月期は、こちらの指標を見てみると前期比で大きなマイナスとなっており、+31億円とほとんどキャッシュを増やすことができていません。

そして2023年3月期に関しては、570億円もの大きなマイナスとなっています。

つまり、事業面の苦戦は2022年3月期からすでに始まっていたということです。

■過剰在庫を低収益で販売、資金回収目指す

そんな中で、直近の2024年3月期3Qまでの業績を見ると以下のようになっています。

売上高:1兆178億円(▲0.2%)
営業利益:489億円(▲43.9%)
純利益:312億円(▲53%)

わずかな減収ながらも、収益性の面では大きく悪化しています。

四半期ごとの営業利益の推移を見ても、直近の3Q(2023年10月~12月)は営業利益率が3.5%(2023年3月期は6.5%、2022年3月期は10.5%)と特に収益性が悪化しています。

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収益性が悪化した要因は、やはり原価の高騰を販売価格に転嫁できていないことです。

2Qでは前四半期比で1棟当たりの土地の原価が+24万円、建物原価は+12万円と計36万円増加した一方で、販売単価は▲17万円とむしろ下落しています。

3Qは前四半期比で土地の原価が+48万円、建物原価は資材費が落ち着き▲20万円と計28万円増加した一方で、販売単価は▲17万円と下落が続いています。

ちなみに企業物価指数と飯田GHDの利益率は6か月のタイムギャップを持って相関性が高いとしており、企業物価指数が高止まりする中でコスト面の改善には時間がかかる見通しだとしています。

原価が上昇する中でも販売単価を下げ、収益性を悪化させつつ販売を行っている状況ですが、それでも在庫は増加傾向が続いています。

需給が冷え込み、販売面が非常に苦戦していることが分かります。

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その結果、営業キャッシュフローも▲1057億円となっています。

利益面は黒字が続いていますが、2022年3月期以降キャッシュを稼げていない状況ですね。

そんな中で積極的に進めているのが、在庫の適正化です。

2024年3月期の3Q以降では、地方エリアを中心に分譲戸建て住宅の需要が冷え込む中、販売価格の調整によって完成在庫の早期販売を行ったとしています。

その結果として粗利率が大幅に下落し、売上は8.4%、営業利益は48.6%、純利益は55.7%もの下方修正に繋がっています。

長期的にキャッシュを稼げていない状況が続き、市況の回復もしばらく見込めない中で低収益化を許容して投資の回収に動いていたのが、下方修正の理由ということです。

ちなみに、市況が改善するまで在庫を持ち続ければいいのかというと、そうではありません。

当たり前ですが飯田GHDのような企業は、事業を行うために多くの設備や従業員を抱えています。その固定費も莫大ですから、赤字となっても作って売っての投資と回収を繰り返す必要があります。

固定費が1000億円かかった場合、事業を行わなければ1000億円の赤字です。しかし不採算でも事業を継続することで100億円の赤字で済むとなれば、その赤字を許容して事業を継続する必要があるということです。

過剰在庫が続き、キャッシュを稼げない状況がさらに続けば資金繰りにも問題が出てきますから、過剰在庫を許容せずに低収益でも販売し、資金を回収して新たな投資をしていく必要があります。

分譲住宅市況低迷の中でも、インフレが続き地価も上昇しているいびつな状況ですから、しばらくは業績の低迷が続くことが考えられます。

妄想する決算/楽待新聞編集部

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最終更新:4/23(火) 19:00

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