(ブルームバーグ): 11月の米大統領選に向けて人工妊娠中絶の権利が争点の1つに浮上してきた。これはおそらく、返り咲きを目指す共和党のトランプ前米大統領が唯一、守勢に立たされている問題だろう。
トランプ氏は移民や経済問題で民主党のバイデン大統領に対して優位に立つが、政治に大きな影響力を及ぼす中絶問題がそれを脅かす恐れがある。今週には、アリゾナ州の最高裁判所が中絶をほぼ全面的に禁じた1864年の州法の効力を認める判断を下し、共和党の戦略に再び暗雲が垂れ込めている。
トランプ氏はその前日、中絶規制については各州の判断に委ねるべきだとの考えを表明したばかりだった。党内の中絶反対派と特定の状況下で中絶を容認する穏健派の分裂を避けるとともに、有権者の反発を和らげる狙いがあるとみられる。
トランプ氏、中絶規制は各州の判断に委ねるべき-例外への支持も表明
トランプ氏は選挙資金集めのために訪問したジョージア州で、アリゾナ州法は行き過ぎだと記者団に語った。決定する権利は州にあるとした上で、「州知事らがこの法律を理にかなったものに戻してくれると確信している」と続けた。
バイデン氏は攻勢
一方、バイデン大統領は、春の広告予算3000万ドル(約45億9700万円)の大半を中絶の権利に関する広告に投じている。今週には、流産後に感染防止のための治療を拒否され、死にかけたとするテキサス州の女性に関する60秒の選挙広告動画を投入。最後は真っ黒な背景に白い文字で「ドナルド・トランプがやったことだ」との一文で締めくくられる。中絶問題を武器に有権者の支持を狙うバイデン陣営の思惑は明白だ。
とはいえ、有権者にとって選挙当日に中絶問題がどの程度重要な要素となるのかを見極めることは難しい。ブルームバーグ・ニュースとモーニング・コンサルタントが実施した3月の世論調査によると、勝敗を左右するとみられる激戦州の有権者の73%が、11月の選挙で誰に投票するかを決める上で中絶問題は重要だと回答したが、米経済や移民、民主主義の保護といった問題よりも重要だとする回答は約7%にとどまった。
それでも「中絶は共和党にとって政治的な急所、選挙上の急所であることに変わりはない」と民主党の政治ストラテジスト、マリア・カルドナ氏は話す。「米国人の大多数は、中絶に対する共和党の過激な反対姿勢を支持していない」という。
赤い州で規制強化の動き
連邦最高裁が人工妊娠中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド判決」を覆した2022年6月以来、少なくとも14州が中絶を全面的に禁止した。中絶の権利擁護を主張するガットマッハー研究所によると、さらに7州がかつては違憲であったであろう方法で中絶を制限している。
一方、メリーランド州とニューヨーク州では今年、中絶権利の保護を州法に明記することを目指す住民投票が実施される。これまで同様の取り組みで8州が中絶権利の明文化に成功した。
次はフロリダ州かもしれない。同州の最高裁は1日、州憲法に中絶の権利を明記するか否かを問う住民投票の実施を認める判断を下した。他にも複数の州でこれに続く動きがある。
コーネル大学のランドン・シュナベル助教(社会学)は「世論調査は、米国人の大半が特に妊娠初期に関して、合法的な中絶を大半かすべてのケースで支持していることを一貫して示している」と指摘。「厳格な中絶禁止に賛成する国民は多数派ではない」と述べた。
共和党のメッセージに揺れ
トランプ氏は中絶規制を各州の判断に委ねると表明することで、連邦レベルで規制導入を求める中絶反対団体からの圧力に抵抗している。中絶反対団体や一部の政治家の間では、妊娠15週以降の中絶を全米で一律に禁止する案が有権者を納得させるコンセンサスになるとの議論が浮上している。
トランプ氏は12日、私邸があるフロリダ州パームビーチの会員制高級リゾート「マールアラーゴ」で、中絶反対派のマイク・ジョンソン下院議長と記者会見に臨む。トランプ氏は変化する中絶を巡る状況について多数の質問を受けることになりそうだ。
米国で中絶権利への支持はロー対ウェイド判決が覆される前よりも増えているが、その数は党派によって変わり、妊娠期間を経るごとに減る。ギャラップが2023年5月に発表したデータによると、妊娠初期3カ月の中絶は合法であるべきだと考える人は69%に上った。
バイデン・ハリス陣営の広報担当者は10日、「今起きている苦しみと混乱 」の原因はトランプ氏の判事指名による最高裁の変質にあると述べた。
原題:‘Donald Trump Did This’: Biden Hits GOP Weakness on Abortion (1)(抜粋)
--取材協力:Skylar Woodhouse、Kelsey Butler、Josh Wingrove.
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最終更新:4/12(金) 1:13
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