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「ボロ家報道」「新入社員の大量辞退」で大炎上のいなば食品、それでも「不買運動」が盛り上がらない理由。キリンはあれだけ騒がれたのに一体どこに違いが?

4/23 16:11 配信

東洋経済オンライン

 缶詰などで知られる食品メーカー「いなば食品」が炎上している。新卒社員をめぐる文春報道を皮切りに、SNSではインフルエンサーのもとにタレコミも相次ぎ、さらなる炎上に発展しつつある。

 こうした不祥事が起きると、しばしば「不買運動」が始まる。購入をボイコットすることで、企業への経済的ダメージをもくろむもので、企業経営のあり方が問われる際に行われがちだが、今回はあまり見られない。

 ここ最近の不買運動は、SNSを中心として発生することが多い。ネットメディア編集者として、10年以上にわたってそうした事例を見てきた筆者の経験を交えつつ、いなば食品のケースが現状では不買運動につながっていない理由を考察してみた。

 【画像】ボロ家と報じられたいなば食品の「一般職」向け新人社員寮、書き換えられたリリース…などの様子を見る(6枚)

■新卒辞退者が9割に達していると報じられ…

 まずは、いなば食品の騒動をおさらいしよう。2024年4月上旬、『週刊文春』が同社の新卒辞退者が9割に達していると報じた。記事では、新入社員の寮として「ボロ家」をあてがったなどと紹介している。

 いなば食品は報道を受けて、プレスリリースで経緯説明と謝罪をしたが、そのタイトルが「由比のボロ家報道について」だったことや、文節ではない部分に「謎の改行」が挿入されていたこと、病気で急逝した副社長に責任転嫁しているような内容であることなどを理由に、さらなる炎上を招いた。

一連の騒動は、東洋経済オンラインでの筆者コラム「いなば食品『怪文書発表』がマズいこれだけの理由」などを通して拡散し、多くのネットユーザーの興味・関心を招いた。

 また「炎上系」と呼ばれるインフルエンサーのもとには、新たな告発がタレコまれているようで、厳しい社内規律などの新たな疑惑が、日を追うごとに伝えられている。

 追加情報の真偽はさておきながら、先述のプレスリリースのみでは対応が不十分に感じられ、いまなお消費者の疑念は払拭されたとは言えない。しかし、不買に言及するSNS投稿はチラホラ見られるが、ここまで企業が炎上したことを踏まえると、その数はさほど多くないようにも感じられる。

■思い出される、キリン不買運動

 食品メーカーと「不買運動」と聞いて思い出すのは、つい数カ月前に起きた缶チューハイ飲料「キリン 氷結無糖」をめぐるものだ。経済学者の成田悠輔氏を広告に起用したところ、同氏による過去の発言に批判的な人々が、SNS上で「#キリン不買運動」のハッシュタグ付きで、抗議の投稿を拡散。結果としてキリンは、広告展開を取りやめた。

 不買運動が企業に与えるダメージは、抗議による不買での「直接的な売上減」にとどまらず、企業イメージの低下による「間接的な売上減」も招くことにある。SNSによって不買運動が可視化されれば、メディア側もこぞって記事として取り上げる。

 企業側の声明を待たずとも、抗議の声がでていれば、それだけでニュースバリューはあるため記事化に値する。また、公式コメントが出されれば、それもまた記事にできる。著名人が反応すれば、そちらも――。

 そもそも「抗議」のように感情へ訴える、衝動的な事案は、読者の興味を引きやすい。そのうえ「何番煎じ」でも味わえると来れば、媒体側が重宝する理由もわかるはずだ。こうしたループを繰り返すうちに、火に油が注がれ、ネット空間は焼け野原となってしまうのが世の常だ。

■いなば食品では不買運動が起きない3つの理由

 しかしながら、今回のいなば食品では、不買運動が盛り上がっていない。その背景には、3つの理由があると筆者は考えている。

(1)従業員の待遇が争点となっているため
(2)「CIAOちゅ~る」が唯一無二な商品であるため
(3)「CIAOちゅ~る」が子会社の商品であるため
 それぞれ見ていこう。最初の理由としては、今回の報道が、従業員の待遇をめぐるものだということが考えられる。新入社員をはじめとする従業員に、十分な配慮がされるためには、そこへ資金が投入される必要がある。

 文春報道では「募集要項からの給与ダウン」もスクープされており、不買運動により売上減につながれば、現場社員がさらに苦しくなるのではと、不買運動をためらっている可能性は考えられる。

 2つめは、主力商品であるキャットフード「CIAO(チャオ)ちゅ~る」が唯一無二であること。SNSでは「ネコからの反発が強そう」「類似商品だと拒否される」といった反応も多々見られ、もはや嗜好品にとどまらず、生活必需品になっていると思われる。

 企業イメージがどうであれ、替えのきかない存在。そして人間と違って、ネコには「理由」を知ってもらうすべがない。こうした背景もあって、購入を継続する愛猫家は多いのだろう。

 不買運動は、基本的に「替えがきくライバル商品があること」を前提として成り立つ。先の「氷結」の例で言えば、味は多少異なるが、たとえばサントリーの「-196℃」や「こだわり酒場」といった競合商品があることから、いざとなれば消費者はそこへ乗り換えられる。こうした危機感が企業への抑止力となるため、不買運動は一定の効果を示す。

 その点で言えば、いなばの「ライトツナ」から、はごろもフーズの「シーチキン」に乗り換えるという流れは考えられる。ただ、メーカー名で選ばれていないのか、はたまた一時期ほど広告展開されていないからか、そこまでの動きにはなっていないようだ。

 そして3つめに考えられる理由が、看板である「CIAOちゅ~る」が、いなば食品でなく、子会社の「いなばペットフード」による商品であることだ。

 両社の採用情報サイトを見ると、その窓口は一本化されており、もともと非上場のオーナー企業であることから、企業としての一体感は強いものと思われるが、いちおう別法人となっていることが、ある種のクッション的な役割を担っている可能性がある。

■いなば食品に今後できることは何か

 どちらも海産物を原料に用いているが、企業のブランドイメージとしては、缶詰メインの「いなば食品」と、ちゅ~るなどの「いなばペットフード」で、若干異なるのかもしれない。実際に一連の報道を受けて、「同じグループだったのか」「知らなかった」などと驚く声もめずらしくない。

 ここまで書いてきたように、いなば食品の企業イメージは、日を追うごとにネガティブなものとなっている。また謝罪文を見るかぎり、同社は「シェアハウス(ボロ家)がしっかり改修されているか」が争点だと考えている節が見受けられ、組織体制も含めて「従業員の労働環境が確保されているか」を問うている文春報道や消費者との認識のギャップを感じさせる。

 いなば食品に今後できることは何か。まずは消費者の疑念に沿った形での経緯説明、続いてガバナンス体制の見直し、そして企業イメージの再建だ。現時点で行うのは悪手でしかないが、中長期的な視点に立てば、いなばペットフードの社名を「CIAO」に変えるなどの打開策も考えられる。

 いずれにせよ、早急になんらかの対応を取る必要があるだろう。現状ではさほど不買運動の機運が高まっていないが、消費者が納得いかなかったり、新たな不祥事が報じられたりすれば、上記の「3つの理由」を考慮してもなお、不買運動に値すると判断されるだろう。

 その時になって後悔しても、もう手遅れだ。先にも述べたように、不買運動のキモは、企業イメージ低下による「間接的な売上減」にある。もし文春以外の各社が、同社のスキャンダルを報じるようになり、SNS上で「たたいていい企業」と判断されてしまえば、もはやバッシングは止められなくなる。

 文春報道から、まもなく2週間。そのXデーは、すぐそこまで近づいているのかもしれない。

 【画像】ボロ家と報じられたいなば食品の「一般職」向け新人社員寮、書き換えられたリリース…などの様子を見る(6枚)

東洋経済オンライン

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最終更新:4/23(火) 17:54

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