マイクロソフトのAIツール、Copilotがもたらすコーダーの働き方改革

4/18 2:20 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): ソフトウエア開発者のニコライ・アフテニーブ氏は2021年、米マイクロソフトが提供するコーディングアシスタント「Copilot(コパイロット)」のプレビュー版を手にし、すぐにその可能性を実感した。

マイクロソフトのコーディングプラットフォーム「GitHub(ギットハブ)」で開発され、米オープンAIが提供する生成AI(人工知能)をベースにしたCopilotは、完璧ではなく、時には間違えることもあった。しかしチケット販売会社スタブハブで働くアフテニーブ氏は、わずかなプロンプトで見事にコード行を完成させたことに驚いた。タブキーを押すだけで、あとはCopilotが埋めてくれた。

「15回のキーストロークが3回で済んだ」とアフテニーブ氏。「ちょっとしたスピードアップになった」と当時を振り返った。

あれから3年が経過し、オープンAIのGPT-4最新版が導入されたことで、Copilotはエンジニアの質問に答えたり、コードのプログラミング言語を別の言語に変換したりと、さらに多くのことができるようになった。その結果、このソフトウエア作成における役割はますます拡大し、企業では重要システムのプログラミングに使われるまでになっている。

生成AIを大量使用する最初の専門家集団がソフトウエアエンジニアだ。Copilotは彼らの働き方を徐々に改革してきた。マイクロソフトによると、Copilotはこれまでに130万の顧客を獲得し、そこには小規模な新興企業からゴールドマン・サックスやフォード、アーンスト・アンド・ヤングといった企業まで5万社が含まれる。面倒な反復作業をCopilotが処理することで、エンジニアは月に数百時間を節約し、より難しい課題に集中する時間を確保しているという。

AI全般に言えることだが、GitHub Copilotにも限界がある。開発者によると、古いコードを引っ張り出したり、質問に対して役に立たない回答をしたり、バグがあったり、著作権を侵害する可能性のある提案を生成したりすることがある。このツールは公開されたオープンなコードリポジトリで学習するため、セキュリティー上の問題を複製したり、問題を取り込む危険性がある。特にエンジニアがCopilotの推奨を何の疑い持たずそのまま受け入れると、その危険性は高まる。

このツールはあくまでアシスタントであり、人間のプログラマーの代わりにはならないとGitHubは強調しており、賢く利用する責任を顧客に課している。怠惰なプログラマーがCopilotの提案をそのまま受け入れることを防ぐには、強固なガイドラインが必要だとGitHubのトーマス・ドムケ最高経営責任者(CEO)は話す。同氏はエンジニアが互いに誠実であり続けることに自信を示した。

「チームには社会的な機能があるため、早過ぎるコードの受け入れやチームが定義したプロセスを怠るような不正が行われれば、そのコードが実装段階に達することはない」とインタビューで語った。

Copilotのようなコーディングアシスタントは今後、さらに革命的なものになるかもしれない。なぜなら生成AIはソフトウエアエンジニアが現在行っている作業の大部分を自動化する潜在的な力を秘めているからだ。

今のところは効率性を高めるのがその主な役割だ。ニューヨーク・シティー・カレッジでソフトウエア工学を教えるアフテニーブ氏によると、Copilotの予測能力のお陰で「流れ」を乱さない作業が可能になった。コーディング歴20年の同氏でさえプログラミング言語を忘れることがあり、検索で時間を浪費せざるを得なかった。「Copilotを使えば、今やっている作業を中断する必要がなくなる」とアフテニーブ氏。「意味不明のものが出てきても、いったんそれを受け入れて、後で自分で修正する方がまだ簡単だ」と述べた。

ソフトウエア開発歴15年を超えるアーロン・ヘッジズ氏は、Copilotが登場する前はバーンアウト(燃え尽き症候群)の状態だった。新興企業リードミーで働くヘッジズ氏はアフテニーブ氏と同様、Copilotのオートコンプリート機能を活用している。「エンジニアとしての経験が長いため、さっと見れば使えるかどうか分かる」と話す。プログラミングウインドーから離れずに質問できる点も気に入っているという。「わざわざ離れてブラウザーを開く必要がない。そうした作業は本当に邪魔だ」と述べた。

ヘッジズ氏にとって、Copilotの月額定額料金10ドル(約1500円)はお得なサービスだ。ゲーム「ダンジョンズ&ドラゴンズ」のファン向けウェブサイトを作成している同氏は、幼い子どもの親としても多忙な毎日を送っている。「自分のためにコードを書く夜の2時間をとても大切にしている」とヘッジズ氏。もうすぐ2人目の子どもが誕生する同氏は「効率性が高いのは歓迎だ」と話した。

テクノロジーの精度を評価する試みとして、カナダのウォータールー大学は昨年、ある実験を発表した。既知の欠陥があるコードスニペットと、それらのミスの修正で構成されるデータセットを収集し、Copilotにこれらの正確なスニペットを作成するよう促し、バグがあるバージョンを出してくるかどうかを確認した。Copilotは33%の確率で欠陥のあるバージョンを再現した一方、4分の1のケースでは修正されたコードを提案した。Copilotは概して複雑なエラーよりも基本的なエラーの回避に優れていたと、同校でコンピューターサイエンスを教えるメイ・ナガッパン教授は話した。

「自動車に例えるなら、今は運転支援の時代であり、まだ自動運転の段階ではないということだ」と同教授は述べた。

ソフトウエアエンジニアの働き方を変えるのには時間がかかる。多くはCopilotを歓迎しているが、過剰な依存を警戒している。GitHubが出資した最近の調査では、開発者がCopilotの提案を受け入れた割合はわずか27%だった。

また、エンジニアは何か問題が発生するとすぐにCopilotのせいにすることがある。昨年10月と12月に通販サイト運営エッツィで短時間のサイト不具合が起きた際、同社開発者の一部はCopilotのせいだと指摘した。

Copilotは今後数年で劇的に改善される見込みだ。GitHubはすでに、顧客企業のプログラミングコードに基づいて質問に答えることができるエンタープライズ版などの機能強化を展開している。新人エンジニアがスピードアップするのを助け、ベテランのコーダーがより速く作業できるようになるという。同社は今後数カ月で、エンジニアが雇用主のコードベースを利用して作業中プログラムのオートコンプリートを可能にする予定だ。これにより生成されるコードはよりカスタマイズされ、役立つものになるだろう。

それでもGitHubはじっとしているわけにはいかない。10数社もの新興企業が参入を試みている。かつて同社のCEOだった出資者のナット・フリードマン氏は、マジックAIという新興企業を支援。同社は「人類を超えたソフトウエアエンジニア」を目指している。資産家ピーター・ティール氏が支援するコグニションAIは、ソフトウエアプロジェクトを自力で対応できるアシスタントを開発中だ。プリンストン大学は今月、AIソフトウエアエンジニアリング用のオープンソースモデルをリリースした。新たなスタートアップが誕生しない週はないような状況だ。

インタビューでは、自分たちの仕事がAIに奪われると心配しているコーダーはほとんどいない。多くの産業がそうであるように、自動化によって彼らはよりやりがいのある、興味深い仕事に集中できるようになるという。しかし今話題の半導体メーカー、エヌビディアを率いるジェンスン・フアンCEOは、それほど楽観的ではない。同氏は最近、職業としてのコーディングに未来はないと予測した。AIによって平易な英語でのコーディングが可能になった今、誰でもプログラマーになれるというのがフアン氏の認識だ。

原題:Microsoft’s AI Copilot Is Starting to Automate the Coding Industry(抜粋)

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最終更新:4/18(木) 2:20

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