「井村銘柄」として注目?関西万博チェコ館も手がけた「大末建設」の決算《楽待新聞》
企業の決算から、不動産業界の現状について考える本連載。今回取り上げるのは「大末(だいすえ)建設株式会社」です。
1937年創業の中堅のゼネコンで、関西圏を中心に事業を展開している企業です。
直近では大阪万博でチェコパビリオンを建設したほか、著名投資家・井村俊哉氏の関連ファンドが、同社の株式を大量保有していることでも話題となっています。
今回は、そんな大末建設の決算から中堅ゼネコンの状況を見ていきましょう。
■主力は「分譲マンション建設」
まずは事業内容から見ていきます。
大末建設は建設事業単一セグメントの企業となっており、その中でも主力としているのが「分譲マンション建設」です。
3大都市圏をメインに事業を展開しており、業界トップクラスの施工実績があるとしています。
また、毎期20~30棟ほどのマンションを安定的に建築しており、大手や中小デベロッパー、ハウスメーカーと豊富な顧客基盤を持っている点が強みだとしています。
多くのデベロッパーとの継続的な取引があり、安定したマンション建設の受注が期待できる企業だということですね。
その他にもオフィスや物流倉庫、工場や所業施設などを手掛ける「一般建築」、補修や耐震改修、増築やリノベーションなどを行う「リニューアル」などの事業も展開しています。
それぞれの事業について、2025年3月期時点での売上構成は以下の通りです。
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売上高は約890億円、内訳はマンションが76.5%、一般建築が16.7%、リニューアルが5.6%、その他が1.2%です。マンション建設が約4分の3を占める主力事業となっています。また国内での事業展開ですから、業績は基本的に国内の建設需要、特に分譲マンションの需要に影響を受けやすい企業だということが言えます。
■直近の業績をチェック
事業内容が分かったところで、今度は2016年3月期~2025年3月期までの10年間の業績の推移を見ていきましょう。
まず売上高の推移を見ていくと、2016年3月期~2020年3月期までは、増減はありつつ横ばいの傾向で推移しています。
2021年3月期はコロナ禍で低迷していますが、それ以降は増収傾向が続き、2025年3月期には過去最高となる890億円の売上高となっています。
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続いて利益の推移を見ていくと、2017年3月期をピークに、それ以降は多少の増減がありながらも減益傾向で推移しています。
2017年3月期に42.4億円だった営業利益は、2024年3月期には15.9億円まで減少しています。ですが、低迷傾向が続いていた利益面も、2025年3月期には改善へ向かい、営業利益は大幅増益で36.5億円となりました。
売上は増加傾向が続く中でも、2024年3月期までは収益性は低迷傾向だったということです。
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利益面が好調だった2017年3月期や2019年3月期こそ下回っているものの、直近では利益面が改善傾向となったことが分かると思います。
では、どうしてこのような推移となっていたのでしょうか?
まず、2022年3月期以降に売上の拡大が続いていた背景には、コロナ禍で停滞していた大都市圏の再開発需要が活況となっていることや、資材価格の高騰、人件費の高騰による単価の上昇があります。
特に大都市圏ではマンション需要が活況でしたから、近年はマンション事業の成長が売上の拡大をけん引しています。活況な需要と、単価上昇によって売上は拡大しているということです。
ただしその一方、2024年3月期までは減益傾向となっていた最大の要因も、資材価格の高騰や人件費の高騰です。
例えば建設資材価格指数は2021年~2022年にかけて大幅に上昇し、それ以降は2020年と比べて40%超も高騰した状況が続いています。
マンション建設は複数期間に渡ります。資材価格の高騰以前に受注した場合、価格転嫁できていない低採算の工事を行う必要があり、収益性は低迷することになります。
とはいえ、資材価格高騰以降はコストの上昇分を転嫁した契約を進めていました。2024年3月期までに価格転嫁できていなかった工事が概ね完成したとしており、2025年3月期からは一定の収益性が改善した工事が増えています。
その結果2025年3月期は工事の採算改善を主要因に、粗利はプラス2.0%で9.3%、営業利益はプラス2.2%で4.2%となり、収益性が改善し増益となっています。
■倉庫、工場案件が大幅増
活況な建設需要が続く中で、受注高を見ても前期比でプラス21.6%の1147億円となっており、受注面も好調です。
もう少し受注面を見てみましょう。2025年3月期には大きな変化が見られることが分かります。それが「物流倉庫・工場案件」の大幅な増加です。
2024年3月期はマンション・集合住宅が受注の8割以上を占めていましたが2025年3月期の受注では50.4%まで減少し、物流倉庫・工場が30.1%まで伸びています。
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東京ガスの物流施設プロジェクトやクボタの工場など、大手企業の案件などを確保しています。
現在の物流市場は、需要は増加する一方で人手不足もあり、それに対応するためにも最先端の物流施設のニーズが高まっています。いわゆる「2024年問題」でドライバーの労働時間が規制されたことで、ドライバーが交代するための中間拠点の需要なども増えています。
さらに、データセンター需要や半導体工場の新設など、産業面でも建設需要は活況です。マンションだけでなく産業面の一般建築でも活況な需要が期待されます。
収益性が改善していることと堅調な受注面を受けて、今後は一定の堅調な状況が続く事が期待されます。
とはいえ2026年3月期の通期予想では、増収で純利益も増益を見込む一方、営業利益は1億7000万円ほどの減益を見込んでいます。
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工事採算は継続して改善するとしているものの、人件費などの固定費の増加で営業利益は減益になる、としています。人手不足が続き、人件費の高騰が続く中、利益面の改善は容易な状況ではないことがわかります。
堅調な受注や工事採算の改善は期待されますから、堅調な業績が続くことは予想されるものの、大幅な利益面の改善は難しそうです。
■今後の展望は
今後の取り組みとして同社は、「標準化推進によるマンション建築のさらなる高度化」、「差別化領域獲得による一般建築での特色の推進」、「需要が拡大する再生建築への注力で建築事業を強靭化する」などの方針を掲げています。
さらに、土木市場への再参入や不動産開発・再生市場への本格参入もするとしており、土木事業の成長に向けて、すでに「神島組」と「川西土木」という企業を買収し、拡大を進めています。
しかし、神島組に関しては想定通りの事業の進捗が見られなかったことで2025年3月期に14.6億円の減損を行っています。
業績としては投資有価証券の売却によって売却益13.1億円をぶつけたことで業績面への影響は小さく済みましたが、土木事業は想定通りの進捗は見られていません。
今後も土木事業の成長に取り組む方針には変わりはないとしていますが、土木事業の進捗には注意が必要です。
◇
とはいえ、こういった取り組みで、2031年3月期までには売上1000億円以上、営業利益率は5%以上で50億円以上の営業利益を目指しています。
事業面の改善やポートフォリオ改革、そして生産性の改善などを通じて、事業の拡大と収益性の改善を進めていけるかに注目です。
妄想する決算/楽待新聞編集部
不動産投資の楽待
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最終更新:7/6(日) 19:00