総額9000億円「築地再開発」に渦巻く期待と不安、国際競争力の向上と環境共生の二兎を追う

5/12 5:41 配信

東洋経済オンライン

 東京湾岸に新たなランドマークが生まれようとしている。

 4月19日、東京都は「築地地区まちづくり事業」の事業者予定者として、三井不動産を代表とする計11社で構成される事業グループを選んだ。2018年10月に閉鎖された築地市場の跡地(東京都中央区)を活用する事業であり、対象となる都有地の面積は約19万平方メートル。総事業費は約9000億円にのぼる。

 三井不動産の植田俊社長は、「日本がデフレから脱却し、失われた30年に終止符を打つ重要な局面でのプロジェクトだ。今後の日本の国際競争力を左右する開発になるだろう」と意気込む。

■「空飛ぶクルマ」の発着所も整備

 事業計画では、大規模マルチスタジアムに加え、ホテルやオフィスビルなど9つの大型施設(総延べ床面積は約117万平方メートル)が新たに開発される。先行して2028年度に日本食のフードホールや船着き場などの複合施設が竣工。その後、2032年度に順次、MICE(大規模国際会議や見本市などを開く施設)などの複合施設やホテルが竣工し、2038年度の全面開業を目指す。

 再開発のコンセプトは「ONE PARK×ONE TOWN」。築地の周辺環境である浜離宮恩賜庭園や隅田川などの自然、築地場外市場や銀座という文化とつながる場所として、築地の新たな街並みを作る意味合いが込められている。敷地の約4割を緑地化するなど、「先進的な環境共生型の街」(三井不動産の植田社長)の開発を掲げている。

 施設の開発にあわせて、「陸・海・空」の交通網も強化される。東京駅と臨海部を結ぶ地下鉄新路線の駅が新たに開発されるほか、観光・通勤用の舟運や「空飛ぶクルマ」の発着所を整備する構えだ。事業グループのメンバーであるトヨタ不動産の山村知秀社長は、「まちづくりとモビリティを結びつける役割を担いたい」と語った。

 開発の目玉となるのが、最大5万7000人を収容できる大規模マルチスタジアムだ。野球やサッカー、バスケットボールなどのスポーツ試合だけでなく、コンサートや展示会など、イベントの内容に応じて、フィールドと客席を動かすことができる。

 近年、三井不動産はスポーツ・エンタメ領域での展開を強化してきている。「ららぽーと」など自社運営の商業施設でスポーツイベントなどを誘致するほか、2023年10月には日本サッカー協会とメジャーパートナーシップを締結し連携を強化。千葉県船橋市では、収容客数1万人規模の大型多目的アリーナ「LaLa arena TOKYO-BAY」(延べ床面積は約3.1万平方メートル、2024年4月竣工)を開発した。

■スポーツの「成長産業化」を担う

 2021年には約1200億円を投じて東京ドームを完全子会社化。施設の大規模リニューアルを実施するだけでなく、劇場「文の京」(東京都文京区、席数は約700席)を新たに開発するなど、投資を積極化している。

 背景には、スポーツ市場の拡大が見込まれていることがある。日本政策投資銀行によれば、コロナ前の2019年における日本のスポーツ産業の市場規模は9.3兆円。スポーツ庁は経済産業省と共同で「スポーツの成長産業化」を掲げており、2025年度には市場規模15兆円への拡大を目論む。

 その要となるのが、スポーツ・スタジアムの整備だ。スポーツ庁は地域活性化の起爆剤として、多機能かつ高収益なスタジアムの整備を目指す「スタジアム・アリーナ改革」を推進している。政府による後押しを受けて、不動産デベロッパーもスタジアム・アリーナの関連事業を強化してきた。

 例えばNTT都市開発は、収容客数約1万人の「神戸アリーナ」(延べ床面積約3.1万平方メートル、2025年2月竣工)の開発を進めている。また日本エスコンは、北海道日本ハムファイターズの本拠地である「エスコンフィールド北海道」を核とした都市開発に参画し、分譲マンションや立体駐車場などの開発を進めている。

 三井不動産の植田社長は「東京ドームと並ぶスポーツ・エンタメの聖地が築地にできることで、シナジーが生まれるとともに市場拡大につながる」と語る。長期事業戦略でスポーツ・エンタメを活かしたまちづくりの展開強化を掲げる同社にとって、築地の大規模スタジアムは今後の成長戦略を左右しうる一大案件ともいえる。

■再開発による環境負荷の懸念

 そして、今回の築地再開発で最も問われるのは、コンセプトとして掲げる「環境共生型の街」を本当に実現できるかだ。

 事業計画には、オフィス棟など複数の高層ビルの建築が盛り込まれている。それにより懸念されるのが、環境への負荷だ。湾岸部での新たな高層ビルの開発は、ヒートアイランド現象を引き起こすなどの影響が懸念される。

 気象庁によると、1927年から2022年、およそ100年間の東京における年平均気温は、都市化の影響の少ない都市に比べ、2倍以上の上昇率を記録した。その原因の1つが、高層ビル建設で海からの「風の道」が遮られたため、という指摘がある。

 再開発の対象となる土地は、所有者である東京都から三井不動産ら事業者が70年という期限付きで借り受けるものとなっている。原則として契約満了後は更地に戻し、東京都に返還しなければならない。その際の大型施設の解体だけでも、環境負荷は相応に大きい。

 5月1日の会見で植田社長は、計8回にわたり「(今回の開発では)東京都民の大切な資産を預かっている」などと強調した。その発言からは周辺住民への配慮が感じ取れたが、環境共生の実現に向けては、新しい緑地を作るといったことだけでなく、再開発による環境負荷に対する細かい目配りが求められる。

 再開発事業としての収益性を担保しつつ、国際競争力の向上と環境への配慮という2つの難題を解決できるか。三井不動産ら事業者の手腕が問われそうだ。

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最終更新:5/12(日) 5:41

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