日本の里山を「食材の宝庫」に変える32歳の挑戦 シナモン、胡椒…国産「可食植物」で狙う林業再生
働く人の「今」にフォーカスし、その仕事像に迫る「ドキュメンタリー 仕事図鑑」。第3回は、調香師・フードプロデューサーとして活躍する古谷知華氏。東京大学工学部建築学科を卒業後、広告代理店を経て、「日本草木研究所」を創業。日本各地の里山で可食植物を蒐集し、新たな価値を見出す古谷にとっての「仕事」とは。
※記事の内容は動画「ドキュメンタリー 仕事図鑑」の取材における本人のインタビューを基に再構成したものです。外部配信先では動画を視聴できない場合があるため、東洋経済オンライン内、または東洋経済オンラインのYouTubeでご覧ください。
■「日本にはないの?」気になって森へ
――「日本草木研究所」とは?
2021年の冬に立ち上げた、日本の可食植物を研究するブランドです。北海道から沖縄までいろいろな山に入っては、そこでおいしい植物、香りのいい植物を蒐集して、活用法を研究しています。
食べ物としての植物に興味を持ち始めたのは、今から6~7年前のこと。私自身、もともとスパイスやハーブが好きで、ふと「日本の森にそういったものはないのか?」と思ったのがきっかけです。スーパーなどでは販売されていなかったので、本当にないのか、それとも使われていないだけなのか、気になって森に入り始めました。
実際に行ってみると、日本の森にもシナモンや胡椒の木が生えているんですね。「けっこうあるじゃん!」と驚きました。そこから事業に発展させていき、今に至ります。
山に入っていく中では、林業の(持続可能性という)課題にも出くわします。最近は「この樹種がお金になりそうだ」といったこともかなりわかってきたので、もともとその木が生えているエリアで数を増やして、供給量を上げていく取り組みなど、より産業化に向けた動きも取っています。
――里山の開拓はどのように行っていますか?
全国にいる山主(やまぬし)さんと「相棒山」というパートナーシップを築いて、サプライチェーンを作っています。日本の森をいい形で残していきたい、活用していきたいと思っている協力者が全国にいる形ですね。
具体的には、北海道、本州、沖縄の、全部で20カ所くらいの山主さんと提携していて、その皆さんに季節のものをいろいろ収穫してもらって。そのままレストランに卸すこともあれば、われわれのブランドの商品に落とし込むこともあります。
――活動の手応えは?
何かしらのインパクトは残せているかなと。経済効果という面だけでなく、”やりがい”や”楽しみ”を作れているかもしれない、と思います。
木材の切り出し(従来の林業)って、それが売った先でどう使われているのかが見えづらく、お客さんの顔や反応もわかりづらい。一方、うちで扱っているのは食材です。このレストランが使っているよ、こういう料理・プロダクトになったよ、みたいなところをご紹介することで、手触り感のある仕事のやり方ができます。
■まずは日本の人に知ってほしい
――日本の草木の価値とは?
日本の国土面積の7割は森や自然と言われています。その中から食べられるもの、活用できるものを見つけていけば、山の価値が上がり、ひいては国の価値が上がる。日本の草木ならではの価値ももちろんありますが、まず今そこにある7割の森が「宝の山」なんだよ、と思います。
経済的な意味だと、いずれは海外に出していく必要があると思いますが、やっぱりまずは日本の人に知ってほしい。日本にこんな食材があるんだと、山の資源の素晴らしさを知って可能性を感じてほしいです。
自国のものを使ってみようと思う作り手を増やしたいので、私たち自身がプロダクトを作って広めるだけでなく、いろいろなブランド、レストラン、メーカーさんに日本の草木を使ってもらいやすくする取り組みをもっと推進したいです。
――古谷さんにとって、仕事とは?
難しい質問ですね……。最近、自問することも多いです。
(仕事とは)使命感を持ってやり続けられることかな、という気がしているんですが、ただ活動している日々の中で、これって本当に誰かのためになっているの? 必要なことなの? という疑問も生じる。それを振り払うように、ガムシャラに動き続けているようなところがあります。
自分の使命を見失わずに、自分がやりきれると思えることがあって、それを達成するために動いていくことが仕事だと思います。それは人生と切り離されたものではなく、むしろ私の場合は人生そのものだなと。
食べるのが好きというのはもちろんあるのですが、自然というテーマがコンテンツに尽きないので、ずっとやっていける、日本という国土を楽しみ尽くせるな、という気がします。
東洋経済オンライン
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最終更新:10/3(木) 23:26