「部下をダメにする」1on1と「グングン成長させる」1on1の決定的な違い

5/22 8:02 配信

ダイヤモンド・オンライン

 いま、日本企業で「組織」に対する関心が高まっている。社内でのコミュニケーションを通して社員のやる気を生み出す施策をとる会社は増えているという。一体、どのような方法が社員のやる気を引き出すのか。本稿は、高木穣(※高の字は、ハシゴダカ)『職場にやる気が湧いてくる対話の技法 令和の管理職の必須スキル』(同文舘出版)の一部を抜粋・編集したものです。

● 悪化してきた 日本企業の人間関係

 いま、「組織」に対する関心が高まっています。欧米に比べると遅いですよね。私がコンサルタントになった1990年代から、OD(組織開発)コンサルタントや部門が欧米の組織にはあったようですから。

 むかし、トヨタ出身の方から聞いた話では、1980年代の日本が元気のいい時代にアメリカが日本に視察団を送り、「なぜ日本企業は元気がいいのか」を探りにきたらしいです。そしてその結論は「現場が強い」だったそうです。つまり、現場の結束力の強さを感じとって帰ったようです。その結果、アメリカは「チームワーク」に力を入れはじめました。

 日本ではその後バブルがはじけ、そこから欧米を真似して成果主義・個人主義の方向へ舵を切り、社内のまとまりは薄くなってきています。そこに昨今、パワハラ・セクハラなどハラスメント防止の風潮で、お互いの間で過度に気をつかい出し、個人情報保護の流れもあって私的な面には立ち入りづらくなってきました。

 そこへ来てコロナ。テレワークは増えて、いい面もたくさんありますが、コミュニケーションという点では、以前よりやりにくいことが増えました。退職する社員も増えてきていますので、それをつなぎ止めるためにも多くの会社でコミュニケーションをとる施策を増やそうとしています。

● 社員のやる気を生み出すには 個人の動機づけが必要

 実は組織で「やる気」という時、モラール(士気)とモチベーションの2種類の意味があります。

 モラールというのは集団の士気です。そして、モチベーションは個人の動機づけです。社員がみな上の指示のまま動くことを求められた昭和時代はモラールという言葉を耳にしましたが、価値観の多様化が前提となった現代では聞かれなくなりました。個人に着目するという意味で「モチベーション=動機づけ」が必要なのです。

 人それぞれ、モチベーションの上げ方には違いがあります。そのため、個別にコミュニケーションをとりながらモチベーションを上げてもらう必要があります。コミュニケーションの問題とモチベーションの問題はかなりリンクしています。そのことを直感的に感じている組織は施策を展開しはじめています。

 「部下のやる気を出させなければ」と考えている多くの上司も、出世・昇進というアメや強い指導というムチが通用しない昨今、どのようにコミュニケーションをとればいいのかわからない現状があります。上司自身も仕事に追われているので、部下とコミュニケーションをとることが後回しになり、部下の現状がわからなくなっています。そういうことも含め、企業でいま、どのようなことが起こっているのか見ていきましょう。

● 部下のやる気を生み出さない 1on1ミーティングとは?

 多くの企業が採用しているのが、上司と部下が短時間であってもコミュニケーションの時間を強制的にとる1対1のミーティング、1on1ミーティングです。

 1on1ミーティングとは、部下と上司が一対一で行なう定期的なミーティングのことです。上司・部下のコミュニケーションの希薄化が進むなかで、部下の成長促進を目的として、1週間に1回など高い頻度で行なうミーティングです。近年、多くの組織が取り入れて仕組み化しています。

 うまくやっている企業の話を聞くと、1on1を通じて上司と部下のコミュニケーションがよくなり、その副次的効果として職場の仲間同士のコミュニケーションもよくなったと言います。上司との1on1を通じて、コミュニケーションのよさを体感し、自然と仲間内にもそういった行動を積極的にとっていこうというモードがつくられたのだと思います。

 逆にうまくいっていない例としては、上司の話の引き出し方があまり上手ではないために、部下が自由に話せず、結局は業務の進捗確認ミーティングのようになってしまうパターンを耳にします。

 1on1はその趣旨からすると、部下の話を聴くことがメインとなるべきですが、日常は上司がよく話す側になる関係上、1on1の場でもそのパターンが崩れず、日ごろの会話と同じようになってしまうのです。

 これまでの上司は、部下に指示を発信する・理解させる・指導するなど、一方的にコミュニケーションをする側という意識を持っているので、部下の本音の意見を聞いても、どうすればいいのか、正直なところよくわからないのです。

 部下から要望や問題を伝えられたとしても、それを解決することが本当にいいとは限りませんし、解決に至ったとしても、上司にいえば何でもやってくれると思われると、部下自身が自発的に解決しようという行動が起きにくくなります。部下が自分自身で考えることの支援ができていないと、有効な1on1にはならないのです。

 これまでとある意味、逆のスタンスを求められ、多くの管理職が反省・工夫・勉強を重ねながら葛藤しているのが現在です。この試行錯誤の姿は今後の組織の財産になっていくと思いますが、次々に起こる社員の離職はできるだけ早く止めたいものです。

● 社員同士の交流が減少すれば 誤解や疑心暗鬼、陰口が増殖する

 社員同士の交流の機会は明らかに減っています。リモートワークで雑談は少なくなり、飲み会も減っています。偶然出会った人との立ち話もかなり有効なのですが、それも減っていますし、意外に役立っていた喫煙所も減っています。「偶発的に会話が起きる場」が減っているのです。

 実は、これが組織運営に与える影響はとても大きいのではないかと思っています。

 情報にはデータ系情報と非データ系情報があります。データ系情報とは、文字や数字に落とせる情報です。一方の非データ系情報とは、雰囲気や口調など言葉には表わしにくい情報です。面と向かって話すことを通じて、その表情や話し方、雰囲気などから、その人の特徴がよりわかりやすくなるという点で、とても大事な情報です。

 人同士が話す機会(場)は、人と人とのつながりを生み出すところであり、アイデアや変化の起点となる場所でもあるのです。効率ばかりを追求したことで、こうした場を形成する時間やスペースが無駄とみなされるようになりました。そうして余白を減らしてしまったがために、新しいアイデア、面白いつながり、交流によって生み出される元気などが生まれにくくなっています。

 人は孤独に耐えられない部分もあるので、交流が減り、周りとつながっている感覚や職場での自分の居場所感を感じられなくなると、他人の悪口を言って仲間意識を高めたりします。

 また、情報が少ないと自分勝手に情報を受け取るため、本意が伝わらず、疑心暗鬼になったり誤解が増え、それがまた噂話で強調されると組織内に悪い情報が蔓延します。噂や悪い情報は、なぜか風通しが悪い会社でも伝播力があり、以前に伺った会社ではほぼ噂話で動いているようなところもありました。

 偶発的に出会う場が減り、お互いが話すところは堅い会議の場や、問題が起きた時の話し合いのみだったりするので、余計に胸襟を開いた会話がしにくくなり、話し合いというと嫌な気分でのぞむ無駄な時間に思えてきてしまうのです。

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最終更新:5/22(水) 8:02

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