楽天Gの高利回りドル債、三木谷氏を待ち受ける課題暗示

4/11 12:46 配信

Bloomberg

(ブルームバーグ): 三木谷浩史社長率いる楽天グループは、モバイル事業参入で5期連続の最終赤字を計上した後、立て直しを図る中で大きなコスト負担を強いられている。

近年、ステフィン・カリー選手が所属する米プロバスケットボールNBAのゴールデンステート・ウォリアーズやサッカーのFCバルセロナとのスポンサー契約で海外での知名度を高めた楽天Gは、来年にかけて控える巨額の社債償還のため資金繰りを急いでいる。今年はこれまでにドル建て社債を2回起債し、計38億ドル(約5800億円)を調達した。

起債を成功させるため、楽天Gは今年のドル債として最高水準の利率を提示せざるを得なかったことをブルームバーグのデータは示している。2本のドル債の利率は11.25%と9.75%だった。

これは同社が低い借り入れコストを支えに負債を絶え間なく拡大してきたツケを支払っていることを意味するものだ。債務問題に直面しているアルティス・フランスを含む通信会社全般に広くあてはまることではあるが、とりわけ楽天Gはモバイルネットワーク展開における多大な投資が財務に重くのしかかり、信用格付けは投機的レベルまで下がった。

過去の取引に詳しい複数の金融関係者によると、現在の格付けでは楽天Gが国内の機関投資家向けに新たな社債を発行することは難しく、これが借り換えの取り組みを複雑にしている。ブルームバーグのデータによれば、同社は系列企業を含め2025年6月までに円とドルの社債総額約44億ドルが満期を迎える。

楽天Gの広報担当者は11日、国内外の市場動向を見極めながら、調達キャパシティーやコストなどを踏まえて常に最適な調達方法を模索していると電子メールで説明。25年の償還に関しては「今後適切なタイミングを見極めながら国内外における社債市場へのアクセスも必要に応じて検討していく」と述べた。

「流動性は改善しつつあるが、楽天Gはさらなる資金を必要とするだろう」と、楽天G債の一部を保有するスイスのプライベートバンク、ボルディエのクレジットアナリスト兼ポートフォリオマネジャー、エイドリアン・レテリア氏は話す。「円建てハイブリッド債や、さらなる資産の流動化、年内の社債の追加発行が考えられる」と言う。

楽天Gは米国の利下げを前に利回りが高い社債への需要が高まる環境を生かすことで、償還の壁を崩すことができた。先週の20億ドルの起債は、同社に負債を管理するための最善の方法を決める余裕を与えるだろう。

楽天Gは4日の発表資料で、財務健全性の強化に取り組んでいると説明。有利子負債残高の削減と、社債償還スケジュールのコントロールによるバランスシートの管理に注力していると述べた。

JPモルガン・チェースのアナリストが3月に公表したリカバリーバリュー・チャートによると、楽天Gのさまざまな事業の価値はシニア債務の1.87倍に相当する。

大和証券が今週明らかにしたところによると、楽天Gは12月に償還期限を迎える社債の一部を買い入れる予定だ。ブルームバーグのデータでは、この社債の発行残高は750億円。

楽天Gはまた、最大1000億円の社債型種類株式の発行枠を登録している。日本で複数の企業が模索している比較的新たな資金調達形態だ。

海外投資家にとって日本のハイテク企業の顔と言えばソフトバンクグループの孫正義社長だが、国内では多岐にわたる事業を展開する楽天Gを設立した三木谷氏の知名度は高い。最近のつまずきが響き、ブルームバーグ・ビリオネア指数によると21年3月以降、同氏の個人資産は30億ドルに64%減っている。

三木谷氏の資産の大部分は楽天Gからもたらされたものだ。楽天Gは米国と英国ではストリーミングサービスやEコマース、後払い決済の「バイ・ナウ・ペイ・レイター(BNPL)」の提供で知られている。

楽天Gの大株主25人のうち1人は、23年に銀行子会社株の一部を売却して資金を補強した同社にとって、通信インフラ事業である楽天シンフォニーの売却も選択肢の一つになり得ると語る。

楽天Gの広報担当者は11日、「資本などの受け入れの検討も視野に入れながら、革新的なモバイルネットワークソリューションのグローバル展開を一層加速化していく」とした。

個人向け社債

社債償還に対処するほかの選択肢として、日本の個人投資家に目を向けることなどもある。元バンカーでハーバード大学経営大学院に通った三木谷氏は、元ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手を擁する東北楽天ゴールデンイーグルスの球団名にちなんだ個人向け社債を発行したことがある。

広瀬研二最高財務責任者(CFO)は2月の決算説明会で、個人向けの社債の一部は「能動的にリファイナンスすることを検討」すると発言。リテール市場は投資家層が厚く楽天Gの認知度も高いため、借り換えリスクはわずかだと述べた。

国内の証券会社は楽天Gの個人向け債をすべて売り切るのは難しいかもしれないと、事情に詳しい2人の関係者は話した。これに対し、広報担当者は11日、同社の知名度やブランド認知力を踏まえると、個人投資家向けへの販売についてはあまり心配をしていないとの認識を改めて示した。

楽天Gは11日、海外市場で償還期間5年の円建て私募債を利率6%で500億円発行すると発表した。25年以降に償還期限が到来する既存社債の返済の一部に充てる予定だ。

ブルームバーグ・インテリジェンスのクレジットアナリスト、シャロン・チェン氏は11日のリポートで、「楽天Gの海外市場への依存は、国内の投資家や金融機関からの支援が弱いことを示唆している」と分析した。

先週のドル建て起債は社債投資家にとって安心材料となり、楽天Gの信用リスクを表すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は起債後に2月下旬以来の大幅低下となった。

もう一つの明るい兆しは業務の改善だ。楽天Gは1日、銀行と証券、クレジットカード、保険などのフィンテック事業全体を一つのグループに集約することを検討していると発表した。これが追い風となり、株価は年初来の上昇率を東証株価指数(TOPIX)の2倍以上となる40%超まで広げた。ただし5年前と比べるとなお18%ほど低い。

楽天Gは2月の決算説明会で、モバイル部門の黒字化に向けた取り組みの一環として通信品質を改善しており、契約回線数(MNO)を23年末の600万から今期中に800万-1000万に増やすことを目標に掲げた。三木谷氏は今週、自身のX(旧ツイッター)にMNOが650万を超えたと投稿した。

ボルディエのレテリア氏は「まだ必要な回復の初期段階だが、トレンドはポジティブだ」と述べた。

モバイル事業への参入から4年が経過し、S&Pグローバル・レーティングは楽天Gの流動性が「やや低水準」だと2月のリポートで指摘した。総務省のデータによると、23年末時点で楽天モバイルの日本における携帯電話契約数のシェアはまだ3%未満にとどまる。

大株主25人の1人は、参入コストは予想以上に高かったが、モバイル市場の主要プレーヤーになれれば大きな利益をもたらすだろうと指摘。楽天Gに日本最大級の独自データベースを提供し、顧客に他のサービスを販売することにも役立つと付け加えた。

一方、米モーニングスター株式調査部の伊藤和典ディレクターは、先週のドル建て起債は楽天Gが「25年時点ではモバイル事業から生み出されるEBITDAを楽観視していないことを示している」と指摘。「社債の返済に必要な資金を自力で稼ぐにはまだ力不足だと考えているのだろう」と述べた。

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--取材協力:間一生、Loukia Gyftopoulou、Ayai Tomisawa.

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最終更新:4/11(木) 12:46

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